凄く聴こえる音楽
日曜日の夜中に、すごい現代音楽を見つけて驚いた。何度もリピートして聴き、この興奮はただちに友人にもつたえてやらねばならないとLINE通話。
出ない。
もう寝ているのだろう。だがいち早くつたえなくてはならない。discordで通話をかけてみるとしゃがれた声の友人が出た。
こんな時間にどうしたのかといわれて、曲の大発見について興奮して話した。そんなことでこんな曜日のこんな時間に? とシーツの擦れる音がした。うめき声も漏れてきた。
辛そうだね。
ぼくがそういった。
だって叩き起されたんだから。
そういった友人は声を出したせいで眠気が飛んでしまったといった。ぼくだって寝てないよ、というともっと責められた。
いま聴いてみたらいいよ、というと舌打ちされたが、ぼくはそれでもMIX CLOUDをひらくよう催促した。スピーカーモードの端末から聴こえはじめたそれは幅の狭い音なのだが、それでも凄さは変わらない。
エネルギーを充填させるドラムのなか、ダブルベースが大股で歩く。ときおり入る洒落たボーカルにより街角にジュエリーが溢れ、引き伸ばされるギターの弦が麻薬色にきらめくのをまぶたの裏に目撃しながら、どう? とぼくが感想を聴く。
こいつはすげえ。
友人が叫ぶ。
ドラッグやってないのにやってるみたいに聴こえるでしょ。
誰なの、え、五〇〇再生って少な、やば。
無名らしいよ。
おれの母親さあ、電子音楽もヒップホップも何がいいんだかって感じで理解できないらしいんだけど、でもこれなら絶対聴けるだろうな。
母親何歳?
村上春樹と同い年。
うちと一緒だったのか。
もう寝るのやめて出勤まで起きてようかなあ。
三時だね。
ああ、丑三つ時過ぎてるじゃん、と友人がもう一度、その曲を流した。
ほんとうにドラッグやってるみたいだと友人も感嘆の声を上げた。
いくら良い音楽でもこんな生々しいちからは滅多にないだとか、ドラッグミュージックなどと呼べなくもなさそうだとか、好きに話しあった。そのうちに、友人の出勤時間が近づいてきた。
友人は仕事を仮病で休むか、出勤するか迷って、タロットカードで決めることにするといった。占いの結果、寝ずに出勤することになった。
徹夜あけのドラッグミュージックはやべえな、と愉しげな友人だったが、
もしかして寝てないからよく聴こえているだけか? 帰ってきたら早速聴き直す、といった。
寝ずに仕事してから聴いたらもっとやばく聴こえるのでは。
うん、人間何日間寝ないでも死なないんだっけ?
四日くらいじゃ。
ぎりぎりまで挑戦してみたいな、あれ、おれ、どうして寝ずに仕事なんかするんだろう。
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