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記憶を記録に書き留めて
幼い時にひどく悲しい想いをした記憶がある。なにがあったのかはよく覚えていない。兄に気に入っていたおもちゃを壊されて、親に訴えたのに取り合ってくれなかったとか、飼っていた金魚が死んでしまったとか、親友がどこか遠くへ引っ越したとか、通学路に狂人が現れて刃物を振り回したとか、そんな、よくあることだったのだと思う。ただ、ひどく悲しい気持ちが胸の下のあたりに重くのしかかって、ずっとしくしくと泣いていたの
もっとみる【短編】ドブヶ丘名所案内「マッドマン」
ドブ鉈はありふれた手応えでハチヤの頭にのめり込んだ。
「…あ…ご」
意味をなさない言葉を吐きつつ崩れ落ちるハチヤに唾を吐きかけると、クマダはハチヤの頭からドブ鉈を引き抜き、死体の上着で血を拭った。
「次は相手を選んで喧嘩を売るんだな」
念のため頭を蹴り飛ばして反応がないのを確認して、ポケットを探る。
くしゃくしゃになったドブ券が数枚出てきた。
「しけてやがんな」
舌打ちして、まあ、今
胡乱紳士 漫遊編 マンドラゴラの町
街角で女の子がひとりシクシクと泣いていました。傍らには賢そうな黒色の犬が座り込んで、心配そうに女の子を見つめています。通り過ぎる人たちは犬を見ると悲しい顔をして通り過ぎていきます。
建物の一つから男の人が一人出てきました。女の子はそれを見つけて顔を上げました。
「お父さん」
どうやら、女の子の父親のようです。父親は女の子のそばまで歩くと、犬の頭を撫でて、悲しそうに首を振りました。
「やっぱ
お城を追放されたのでアウトサイダーたちの姫になろうとした
私が生まれた日は雪が降っていたそうだ。白い雪。だからみんなは私のことを白雪姫って呼ぶ。
その雪は本当は本物の雪ではなくて、大きな爆弾が爆発して、舞い上がった塵が落ちてきたものだったみたい。塵には体に悪いものがたくさん入っていたから、お母様は私を産んですぐに死んでしまった。だから私が覚えているお母様は一緒に雪を見上げていた時のぬくもりだけ。
それが私の最初の記憶。
雪がちらちらと降ってくるのを
【短編】月のどこかで
その配信サイトを訪れたのはなぜだったろう。
かつて一世を風靡した配信サイト、私も昔は毎日のように訪れていた。けれども二年前、新しいより快適なプラットフォームができ、そちらに配信者が移るにつれ、次第にここを訪れる頻度は減っていった。完全に来なくなるまでそこまで長い期間はかからなかった。
本当に、なぜこんな廃墟みたいなところにやってきたのだろう。
「あれ?」
ホーム画面は一人の配信者のサムネイ