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2021年6月の記事一覧
Knight and Mist六章-3 黒歴史と設定とわたし
「熊か!? 熊なのかあたしは!?」
何か聞こえるが、必死に気絶したふりを決め込むハルカ。
何処とも知れぬ森の中。
辛うじて膝をついているイーディス、怒鳴るアザナルという名の女、気絶したふりのハルカ。
急にイスカゼーレが襲ってきて、イーディスが退治するも、アザナルに場を制圧された状態である。
アザナルはイスカゼーレ家の当主の娘である。
なぜ分かるかって? それは彼女が物語の登場人物だった
Knight and Mist六章-2宮廷楽士であり勇者であり、ヒロインであり
「おらぁああああっ!」
雄叫びとともに回転し、炎と衝撃波を撒き散らすイーディスの剣戟に、さすがのイスカゼーレも攻めあぐねているようであった。
5人いてさえ、それぞれがそれぞれをカバーするのでいっぱいいっぱいだ。
「防御ばっかしか能がねえのかよっ!? まあスパイみたいなやつは白兵戦なんかハナから向いてないだろうがねっ!!」
回り込んできた男を蹴っ飛ばすイーディス。男は数メートル吹っ飛んで木に
Knight and Mist第六章-1イスカゼーレ
「どこだぁ!? ここは!?」
イーディスが邪魔な枝を切り払いながら森を進んでいく。
霧が晴れたら、気づけば見知らぬ森に立っていた。針葉樹林に囲まれ、地面にはまだ雪が残っていた。
エルフの森は暖かかった。だいぶ遠くにとばされてしまったらしい。
「これは次元転移で済んだってこと? それとも並行世界とかにきちゃったのかなあ?」
「ったく、そんなことわかんねーよ! ウンチクヤローもいねーしな!」
Knight and Mist五章-3La Mer(ビヨンド・ザ ・シー)
トンネルを抜けると、コンクリートでできた断崖絶壁の上に出た。
急に明るくなり、目を瞬く。
目の前には荒れ狂う海を真っ二つに分けているコンクリートの小径のようなものがある。
幅は肩幅ほどしかなく、高さはゆうに3メートルは超えていた。
その小径は灯台へとつづいていた。
そしてまたしてもガス灯が立っている。
コンクリートの小径から灯台へと等間隔にガス灯が並んでいた。
呆然と歩き出すと、徐々
Knight and Mist第五章-2 名もナキモノ
草むらにぽつりと立つガス灯。
その灯りの届かぬところにうごめく無数の気配。
例えるなら、虫の大群がこちらをじっとうかがっている感じ。
あちこち見回しても出口らしい出口はない。ただあかりがあるだけだ。
ハルカはもう一度電話ボックスの受話器をとって、ボタンを適当に押しまくった。
110番。119番。
覚えている番号なんてこれしかない。
赤いボタンも押してみるが、ザーッという雑音が流れるだ
Knight and Mist第五章-1 ビギナーズガイド
目が覚めたのは、西洋風ヨーロッパ の風景とはまるで違うところだった。
ガサゴソと起き上がると、そこはだだっ広い殺風景な部屋。
そして一人きりだった。
(いったい何が……)
痛みも何もなく、なんだか体が曖昧な感覚。
(たしか、地面を割って突き上げる拳を最後に見てーー普通に考えたら、あれに馬車をやられて、馬車から放り出されたと考えるのが自然かな)
ということは、ここは死後の世界なのか。
Knight and Mist第四章-10魔霧-ミスト-②
あたりを飛び回っているのは、コウモリのような姿の魔物だった。
少し遠くでキィキィと鳴いている様子から、自分たちのことを探しているのが分かる。
馬車のなかは静かだった。
イーディスは剣の柄を握りしめ、セシルは警戒するようにあちこち目を走らせ、レティシアは祈るような仕草をしている。
ハルカはオロオロしつつ、ことの成り行きを見守った。
「知ってるかハルカ。この霧にまかれたヤツぁ全員行方不明なん
Knight and Mist第四章-9魔霧-ミスト-
異変に気がついたのは、馬車で走り出して数時間経ったころだった。
道中はでこぼこ道を走っているかのように揺れて、車輪も馬車全体もミシミシいってとても快適とはいえなかった。
椅子は平たくてかたいし、クッションのクの字もないし、お尻痛いし。
ハルカは与えられた旅装のマントを椅子の下に敷いてなんとかしようとしたが、それでもお尻は痛かった。
平気な顔をしている三人(一人はずだ袋をかぶっていた)が信じ
Knight and Mist第四章-8 領主館を目指して
「では、皆さん出発しましょう」
二頭だての馬車がとまっている広場で、レティシアが言った。
その場にいるのはハルカ、レティシア、セシル、イーディスである。
「今回、スコッティは砦の守りのために残ることとなりました。姉さんはここをあけられないので、私が代わりに、代表として領館のほうへ行きます」
「シルディアは?」
キョロキョロあたりを見回すハルカ。
「エルフであるシルディアさんはあまり表に
Knight and Mist第四章-7 悪夢
その晩、ハルカは悪夢にうなされていた。
久しぶりに見る悪夢だった。
精一杯背伸びして臨む就職活動。
空回りして、本当にやりたいのかも分からない仕事に必死にすがりついてーー
ーー結局、無碍もなく切り捨てられ、何かが欠ける感触。
友人から受ける内定の知らせ、結婚の知らせ、子どもが産まれたことの知らせ、
みんな新しいステージへ立って進んでいく。
私だけ取り残されたまま。
浪人もしてるし、
Knight and Mist第四章-6 剣を持つもの
「そもそもあいつは過保護なんだよ!」
肉を豪快にかじりながらイーディスが言った。
大広間にて。香草の効いた肉中心の料理がふるまわれるなか。ハルカはイーディスと話していた。
セシルはリルを中心とした『大人の会話』をしているメンバーに入っており、ハルカが手持ち無沙汰にしていたところ、肉を皿に積み上げたイーディスがハルカの横に座ったのだ。
イーディスは立場上『捕虜』ということらしく、『大人の会話
Knight and Mist第四章-5 傷痕
大広間は聖堂とは別の建物にあった。
ハルカはセシルに手を引かれほてほてと歩いていく。頭痛は変わらずだが、なんとか歩くことはできるようだ。
不思議なのは胸にできているはずの大穴ーー槍が貫いた傷がまったく痛くないことだった。
痛いのは頭で、だるいだけ。傷を見てみたいが、そんな勇気はない。そこで、同じく怪我をしていたはずのセシルに聞いてみた。
「セシルは怪我、どうしたの?」
するとセシルは服を
Knight and Mist第四章-4聖堂にて②これこれまるまる
「……僕の番ですかね」
タイミングをみはからい、セシルが言った。
「僕はセシル。しがないスループレイナの使いっ走りです」
ずいぶん簡潔な自己紹介だ。もっとも、『ただの怪しいお兄さんです☆』とか言わないだけまだマシという説もある。
「そしてハルカのストーカー」
ボソッとシルディアが言った。
「はい、ストーカーです」
平然と答えるセシル。
「セシルさんね、本当にずーっとハルカのそばにい