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Knight and Mist第四章-6 剣を持つもの

「そもそもあいつは過保護なんだよ!」

肉を豪快にかじりながらイーディスが言った。

大広間にて。香草の効いた肉中心の料理がふるまわれるなか。ハルカはイーディスと話していた。

セシルはリルを中心とした『大人の会話』をしているメンバーに入っており、ハルカが手持ち無沙汰にしていたところ、肉を皿に積み上げたイーディスがハルカの横に座ったのだ。

イーディスは立場上『捕虜』ということらしく、『大人の会話』には入れてもらえないらしい。

それでたまたま先ほどセシルと話したことを話すこととなったら、イーディスには過保護と一蹴されたのである。

「剣を持ったら怪我するのは当たり前。生き残れた奴だけが名を名乗ることができる。単純じゃねーか。怪我しないようにとか考えたらすぐ死ぬぞ」

簡潔だがわりと的を得た答えが返ってくる。

話してみると、イーディスは言葉遣いこそ乱暴であるものの、実はかなりまともな思考の持ち主だった。

「誰かを助けたいっておこがましいのかな……」

スープをちびちび口に運びながらハルカが尋ねると、

「そんなのどーでもいいじゃねえか。生き残った奴の勝ちなんだ。誰かを助けて生き残れば、お前の勝ち。誰かを助けようとして犬死したらお前の負け。ただそれだけだ。実力不足で吠えてんじゃねーぞとかたまに思う奴もいるけどさ、剣を握る奴らなんざ何かしら中に持ってんだよ。そもそもあいつなんか剣握ってすらいねーじゃねえか」

あいつとはセシルのことである。

「短剣は剣じゃないの?」

「あんな誇りのかけらもないものと一緒にすんなって!」

明らかにムッとした様子のイーディス。

「俺様の剣は《メテオラ》!! こいつ一本で数多の戦場を生き延びてきたんだ。あいつの剣に銘があるのか? ああん?!」

「《うぃるこっくすのみやげや》……」

イーディスはクツクツ笑った。

「ったく、ふざけた野郎だぜ。まー嫌いじゃねえけどな。お前のことだって嫌いじゃねえぞ! 《死神》の前に飛び出した大馬鹿野郎!」

言ってハルカの背中をバシバシ叩く。

「ともかく、剣の銘は魂みたいなもんだ。剣の魂であり、剣士の魂でもある。お前ーーえーっと誰だっけ、お前だって剣を持つんだ、相応の覚悟はしておけよっ」

「あ、ハルカです。ハルカ」

「ま、でもあいつは剣士の魂もなくプライドもないんだから。そんなんで《死神》と打ち合えるわけもなし。あいつも浅はかだよな。だからお前だって理解されないこともあるよ。特に女で剣を持つとな。あそこのおっかねー姉ちゃんだって、聖騎士だからこそ皆んなが敬うが、そうでなかった頃は大変だったろうよ。だから何が言いたいかっつーと、お前はやりたいことをやればいい。お前のやりたいことは戦場にあるんだろ、なら死なねえように強くなるしかないな、な、ハルナ」

「ハルカですっ! いい話だなって感動してたのに名前間違えないでくださいっっ!!」

「おー、その意気だ。はじめは俺様に対して名前も名乗れなかったもんな」

「…………名前なんて興味なかったでしょ」

「たしかにな、戦場で通じる名前を持っているかっていうのはあるぜ。でもな、人間としてはこうやって飯食って酒かっくらって、愚痴りあって意気投合すりゃそんなもんどうでもいいんだよ。ハルカだな、覚えたぞ。へんななまえ」

「一言多いっ! ……まあ、耳慣れないとは思うけど……」

大いに食べ、大いに飲む。

真剣な話が進行しているなか、まったく意に介さないその姿はまさに豪胆。

その姿に圧倒されつつ、エルフの宴と違い、なんだかハルカも楽しい気分になっていた。

それはイーディスが『同じ剣を持つ者同士』として扱ってくれたからかもしれない。

そうでなくて、単にイーディスの『食えるときに食っとけ』という価値観に影響されたのもあるかもしれない。

気づけばハルカは、セシルを探すこともなく、楽しく食事をしていたのだった。


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