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Knight and Mist六章-2宮廷楽士であり勇者であり、ヒロインであり

「おらぁああああっ!」

雄叫びとともに回転し、炎と衝撃波を撒き散らすイーディスの剣戟に、さすがのイスカゼーレも攻めあぐねているようであった。

5人いてさえ、それぞれがそれぞれをカバーするのでいっぱいいっぱいだ。

「防御ばっかしか能がねえのかよっ!? まあスパイみたいなやつは白兵戦なんかハナから向いてないだろうがねっ!!」

回り込んできた男を蹴っ飛ばすイーディス。男は数メートル吹っ飛んで木に激突した。凄まじい身体能力だ。

イーディスからは青いオーラのようなものが燃え立つように湧き上がっている。

イーディスは鼻で笑い、大剣を肩に担いだ。

「生まれてこのかたこれ一本で戦場を生き抜いてきたんだ。白兵戦で俺に勝てると思うなよ」

イーディスの言うとおり、彼女は明らかに一対多の戦闘に長けている。文字通りの一騎当千。

イスカゼーレの人間もやり手に見えたが、イーディス相手には強く出られない。

イスカゼーレが諜報機関ならば、本来この戦い方は不得手なほうなのであろう。

だが、さすがにイーディスも体力というものがある。だんだんと動きが鈍くなってくるのをイスカゼーレが見逃すはずがなかった。

ーー否。

イスカゼーレははなからそのつもりでイーディスを暴れさせていたのだ。

イーディスに一瞬の隙ができる。

そこに。

雷撃ライトニング

ズダーン、と。雷の一撃がイーディスを襲った。

立ったまま俯き沈黙するイーディス。煙がその体から立ち上る。

「い、イーディス……?」

ハルカの声も届いていないようだ。

イスカゼーレは詠唱しながら慎重に距離を保っている。

ーーと。

ーーく。

ーーくくく。

肩を震わせてイーディスが嗤いだした。

「アーッハッハッハッ! これが戦場だよ! そうだよなあ!? ちったあやるじゃねえか!」

そう言い、一番近くの小柄なイスカゼーレの人間に近寄り、一撃で斬り伏せた。

そしてもう一人。

先ほどとは段違いではやい。

「死ねぇっ!」

神速で近づき、暴力のようなその剣の重さごと叩きつけるように相手を薙ぎ倒す。

残るは血飛沫と、炎と、衝撃波。

「すごい……」

そう呆然と呟いたときだった。

「あいにくこっちは時間がないのよ。寝てくれる?」

よく響く声がした。

振り返ると、黒髪が肩ではねている蒼く大きな目が印象的な女性が現れた。

テンガロンハットにマントという、どこか変ないでたち。

なんか見たことがあるーー既視感におそわれるハルカ。

ハルカが誰か思い出す前に、彼女は懐から竪琴を取り出し、

睡眠の鐘フレールジャック

不思議な音色が響き、不可抗力的に体から力が奪われた。

倒れ伏すハルカ。イーディスはなんとか片膝立ちになって耐えている。

「こんっ……なの、今までいくらでもくらってるんだよっ」

「無知は怖いわね」

冷たく見下しながらそう言いーー竪琴の女はマントをバサッととった。

「この美少女魔導士ことアザナル様を知らないとはね!」

ハルカは目眩で一瞬ブラックアウトしかけた。

「あざ……はぁ? 変な名前」

「失礼ねっ!! アザナル・イスカゼーレ=ロンド。スループレイナの大貴族であり、宮廷楽士。そして魔王を倒したびしょうじょとは、このあたしのことよ!!」

イーディスが「なんだかよくわからない」という顔をしている。ハルカは激しい頭痛がして頭を抱えた。

ーー宮廷楽士アザナル

再び黒歴史との再会であった。

「あっ、おい! なに自分から意識手放そうとしてんだすっとこどっこいが! 根性なし! 起きろ!」

意識を手放そうとしたハルカの耳にイーディスの馬鹿でかい声が突き刺さる。

「一戦やってもいいけど。あまり賢いとは言えないわね」

アザナルは余裕の仕草でハルカたちの周囲を歩いてまわっている。その間にイスカゼーレのなかで残った三人は、斬り倒された二人を担いで撤退してしまった。

「テメーもイスカゼーレか」

「名前にイスカゼーレって入ってるでしょ! アザナル・イスカゼーレ=ロンド!」

「長くて覚えられん!」

「アホか!」

アザナルがふうっ、とため息をついた。

「そこの自分は関係ないって顔してるヤツ!」

いきなり呼ばれてハルカはギクッとなる。

「あ、わたしは通りすがりの通行人Aですー」

「なにどっかのバカタレみたいな返答してんの! あんたよあんた! 名前は! 名前あるんでしょ!」

「そいつの名前は《グリフォンの剣》ハルカだよ」

イーディスがぞんざいに答えた。

「ふーん、なるほどね……それで、剣は?」

「誰が教えるかバーカ」

「あんたは一回黙っとれ! あたしはハルカとやらに聞いてんの!」

ハルカは呆然とアザナルを見つめたのちにーー

ーー気絶することに決めた。


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