Knight and Mist第四章-8 領主館を目指して
「では、皆さん出発しましょう」
二頭だての馬車がとまっている広場で、レティシアが言った。
その場にいるのはハルカ、レティシア、セシル、イーディスである。
「今回、スコッティは砦の守りのために残ることとなりました。姉さんはここをあけられないので、私が代わりに、代表として領館のほうへ行きます」
「シルディアは?」
キョロキョロあたりを見回すハルカ。
「エルフであるシルディアさんはあまり表に出ないほうがいいとの判断です。また、ここを知られるのも良くないので、人数は厳選させていただきました」
「モンドは?」
「彼は、なんだか見逃せないレースがあるとかで早朝に立ちました」
「相変わらずアレなヤツだな」
イーディスが呆れて言った。
「てことは俺たちはアレだな、裏切ったら厄介なヤツ二人とその子守か」
「今砦を危険に晒すわけにはいきませんので。それにセシルさんはともかく、イーディスさんにはデシールの代表として参加してもらいたく思います」
「それはいいけど、王様に俺の無事を伝えてほしいんだよな」
「それは……」
「《死神》の裏をかきたい、というところでしょうか」
セシルが言った。レティシアが曖昧にうなずく。
「まあ、そんなところです。それにハルカの護衛としてもお二人は頼もしいですしーー」
「えーと。領館にたどり着いたら、事情を話すのとーーグリフォンの剣はどうするの?」
「エルフの技術による剣は、エルフによってしか鍛えなおせません。ですから、我々が領館に向かっている間にシルディアさんがどうにかしてくださるそうです」
「じゃあ砦にはリルとスコッティが残るわけか」
「そうですね。砦に身を寄せていたエルフさんたちも里に戻るそうなので。これで砦はだいぶ静かになりますね。では、出発しましょう!」
レティシアにうながされて、順番に馬車に乗る。
まずはイーディス、次にセシルがイーディスの向かいに座り、ハルカが馬車に乗るのに内側から手助けをした。
「ーーーーーっ!!!!!!」
ーーが、それもむなしくハルカは鼻のあたりを馬車の天井にぶつけてしまった。
鼻を押さえながらセシルの横に座り、最後にレティシアがイーディスの横に座る。
ーーーーずいぶんと狭い。
ハルカは身長がないからいいものの、セシルは足の長さも座高も余って窮屈そうだ。
「どれくらいかかるの?」
レティシアに尋ねるとーー
「あ、そうだ!」
レティシアは何か思い出したようにポンと手を打った。
そして、
「わ、わわっ! やめろ!」
「こわくありませんからねー」
あやすように言いながら麻袋をイーディスに被せる。
「一応、正確な位置は知られたくないので。時間をお教えすることもできません。ごめんなさいね」
まあそりゃそーか、と思いつつ、
「セシルと私はずだ袋かぶらなくていいの?」
聞くと、
「セシルさんはすでにご存知のようですし、ハルカは我々の客人ですから」
「そもそも風景を見ようが時間をはかろうがまったくここがどこか分からないけどね」
ハルカが肩を落として言った。
なかなかすごい状況だ。
すし詰めの馬車に麻袋を被せられた騎士の誉高きイーディス、聖女レティシア、諜報機関の人間セシル。そして、異世界人ハルカ。
こんなメンツがこの狭い空間に押し込められることってどれだけあるんだろう……などと考えているうちに、ガコン、と前後に揺れ、馬車が動き出したのだった。
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