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Knight and Mist第五章-1 ビギナーズガイド
目が覚めたのは、西洋風ヨーロッパ の風景とはまるで違うところだった。
ガサゴソと起き上がると、そこはだだっ広い殺風景な部屋。
そして一人きりだった。
(いったい何が……)
痛みも何もなく、なんだか体が曖昧な感覚。
(たしか、地面を割って突き上げる拳を最後に見てーー普通に考えたら、あれに馬車をやられて、馬車から放り出されたと考えるのが自然かな)
ということは、ここは死後の世界なのか。
肉体が濃い魔力の干渉によっておかしくなったということだろうか。
ーーそれとも夢?
その部屋は西日が差しているような薄暗い、壁も床もコンクリートのうちっぱなしの四角い箱のような部屋だった。
壁際で大きなファンがゆっくりとまわっている。
人の気配はない。
どうしたものかと思い、ひとまず立ち上がり、その部屋にひとつだけある扉を開けた。
すると、また同じ風景の部屋に出た。
コンクリートの壁、大きなファンが音を立ててまわっている部屋。
後ろを見ても同じ。前を見ても同じ。
とりあえず次の部屋にある扉を開けてみた。
するといきなり、周りが真っ暗になった。
目を凝らしてみると、拙い字で「はんにん」という言葉が書かれたプレートが扉に打ち付けてある。
背後を確認するものの、よく見えないのでハルカはその扉を開けた。
むっとするような、濃厚な鉄の匂いが鼻をついた。
聞こえたのは何かを引き摺る音。
ずり……ずり……
ハルカは息を呑んで、体をかがめた。
暗闇に目が慣れると、そこが鉄錆だらけの棚が置かれた部屋だと分かる。
足元がなんだかぬちゃぬちゃする。
ともかく棚の陰に隠れ、音のする方を見てみる。
すると、髪の長い女が何かを引きずっていた。
よく見ると人のようだ。
もしかしたらレティシアやイーディスかもしれない、と覗き込むと、引きずられている人には顔がなかった。
髪の長い女は中央の台に顔のない何かをのせると、両手と両足をベルトでくくった。
そのとき、その何かはもぞもぞ動いていた。
意にも介さず、女は細い皺だらけの指で棚を探った。そして槌と太い釘を手に握ると、それを心臓部に押し当てた。
ぐちゃん
奇妙な音が響いた。槌と鉄釘の立てる金属音と、何かが潰れるような音。
「これが幸せだからね、悪いところをなくすからね……」
女が何かをぶつぶつ言い、顔のない人は悶え苦しむように暴れている。
女は槌を払うことに夢中のようだ。ハルカはその間に急いで部屋を見回した。そして扉を発見すると、気づかれないようにそっと部屋を出た。
すると唐突に原っぱが広がり、遠くにガス灯が見えた。
気持ちの良い風が吹いており、空は美しい夜空だった。
とにかく何もないので、ハルカはあかりのもとまで歩いて行った。
そうしたら、急に背後で電話の鳴る音がした。
驚いて振り返ると、さっきまでなかったはずの電話ボックスがある。
緑色の古びた電話がそこにある。
見回しても誰もいないのでらハルカは思い切ってその電話を取った。
「いったい誰?」
「きっとその灯りは答えだろう」
電話の向こうで誰かが言った。
「誰? いったいここはなんなの?」
しかしハルカが何か言い合える前に電話はガチャンと音がして切れてしまった。
困ってあたりをみまわすと、灯の届かないところに無数の気配を感じた。
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