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Knight and Mist第五章-2 名もナキモノ

草むらにぽつりと立つガス灯。

その灯りの届かぬところにうごめく無数の気配。

例えるなら、虫の大群がこちらをじっとうかがっている感じ。

あちこち見回しても出口らしい出口はない。ただあかりがあるだけだ。

ハルカはもう一度電話ボックスの受話器をとって、ボタンを適当に押しまくった。

110番。119番。

覚えている番号なんてこれしかない。

赤いボタンも押してみるが、ザーッという雑音が流れるだけだ。

そこでやっと10円玉を入れていないことに気づき、手探りでお金を探したが、持っているわけがなかった。

(そもそも赤いボタン押してもダメだったし……)

そうして背後を振り返ると、ガス灯の明かりが小さくなったような気がする。

闇が迫り、うごめく気配が寄ってきた。

まずい、と直感する。

だが何をすることもできない。

そんなとき、ふとさっきまでなかったものが見えた。

トンネルだ。

不気味だが……移動しようか迷っていると、突然、

「うわっ!」

何かお手玉みたいなものがとびかかってきた。

それを払い除ける。地面に落ちたそれを見ると、頭のないネズミだった。

そのネズミはテケテケと暗闇に戻っていく。

暗闇が迫る。

(あれに一斉に飛びかかられたらーー!!)

ハルカは一瞬パニックになり、気づけばトンネルのほうに駆け出していた。

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