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2021

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#春

ある日の夕景

ある日の夕景

畑仕事の帰り道 

小高い丘の上から

見下ろす小さなまち

西に傾いた太陽

キラキラと照る川面

山山の緑とあかねの空

小鳥の囀りとキジのひと鳴き

汚れた軍手に今日の余韻

心地よい疲れと喉の渇き

風呂に入ってさっぱりしたら

美味しいビールが待っている

ああ、今日も一日頑張った

明日もきっといい日だろうよ

新緑の富士山

新緑の富士山

富士山を見ると何故か敬語になってしまう

強い風のおかげで霞が晴れて

くっきりとあらわれた稜線の

なんともお美しいそのお姿に

ぽっかりと浮かぶ綿雲さえも優雅に見えて

まだ山裾までたっぷりと湛えた純白の雪が

麓の山々が織りなすとりどりの緑を

ひとつひとつ取り上げて褒め称えるようで

あなたが今日もそこにいてくれてよかったと

ただそれだけで本当によかったと

心の底から思える今日の幸せ

ニリンソウ

ニリンソウ

三国にまたがる 軍神の社

奥の院に向かう 険し参道

楚々と咲いた ニリンソウ

親指の先ほどの 小さな花

真白な花びら 黄色のしべ

詣でる人の こころを癒す

見上げる 萌色のトンネル

響く囀りと 沢水の冴え音

薫風が 若い葉をくすぐる

歩を緩めて 手足を伸ばす

生まれたての 緑が放った

生まれたての 冷たい空気

細胞の隅々に 沁みわたる

下界に降れば あれこれと

やんごと

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弱っちいやつ ー4月の星々ー

弱っちいやつ ー4月の星々ー

春はなんだか弱っちい。

ぐいぐい引っ張られて

季節をひとつ飛び越えちゃったかと思えば、

ちょっとした北風で

すぐに後ろに下がったりするし、

そうかと思うとまたすぐもとに戻る。

夏とか冬みたいに確固たる自分を持てよ、

と叱咤激励したくなる。

みんながそんな気持でいるから、

春は花がいっぱいなのかも。

モミの木の若葉

モミの木の若葉

一度葉っぱを落として春に芽吹く落葉樹と違って

一年中緑の針葉樹は風情がないとお思いですか?

それは誤解というものです。

ご覧ください、このモミの木の若葉の美しさ。

深緑の枝の先端が、こぞって新しい芽を吹いて

まるでメッシュを入れたよう。

触ってみると、柔らかく、

まるでぷにゅぷにゅのゴム細工。

遠くから見る春山の萌え色は

いろんな若葉の集合体。

それぞれの色、それぞれの芽吹き。

清明の候、新緑の紅葉

清明の候、新緑の紅葉

先走った暖かさが続いて

いつもより早く深さを増した紅葉の新緑

半月前まで見えた萌黄越しの遠景は

今はもうすっかりと緑陰に隠れて

枝先に遊ぶ小鳥の声を響かせる

華やいだ空気も今日はひとやすみ

朝からしとと降る静かな雨が

清らかで明るい木々の若葉を

寿ぐように降り注ぐ

春の日は雨もまたよし

カラスノエンドウ

カラスノエンドウ

カラスノエンドウはわたしの春のお気に入り

はびこり過ぎると困るけど

畦道に咲く赤むらさきの小花は美しく

まだ緑が少ない畑でも目を楽しませ

虫たちを呼んで野菜のみのりを助ける

実らせた小さなえんどうまめは

熟して地に落ち豊かな土に帰る

畑は人と自然の境界域

キリキリとツノ付き合わさずに

ゆるゆるとともにはぐくむが吉

春爛漫の大忙し

春爛漫の大忙し

川沿いの散歩道

頭上では桜の花びらが溢れて

足元にはタンポポの黄色

これでもかと花びらを大きく開いて

甘いかおりでミツバチを誘惑

思惑どおりに飛んできて

身体いっぱいに花粉をつけて

一心不乱の蜜あつめ

春爛漫の陽だまりは

長閑に見えてせわしない

花も木も虫も鳥も

みんなみんな大忙し

がんばれニッポンのタンポポ

がんばれニッポンのタンポポ

見た目はほとんど変わらないけど、

西洋タンポポは外来種。在来種の強力なライバル。

花びらを支えるガクがそりかえっていないこの子は在来種。

西洋タンポポは自家受粉でどんどん増える。

在来種は昆虫に花粉を運んでもらって受粉しないと綿毛になれない。

西洋タンポポはそりかえったガクで

これまた外来種のナメクジの攻撃を防御できるけど、

在来種はガードが甘くてやられちゃう。

なんだか、あれこれ

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墓守の桜

墓守の桜

旧街道沿いの鄙びたまちの

愚痴聞地蔵がおわしますその寺の

裏手の墓地を見下ろす小高い丘

咲き誇る大きなヒガンザクラ

華やかにして荘厳 優美にして豪快

300余年の時世を超えて聳えるその木は

たくさんの生き死にを黙って見てきた

行き交う人々の美しい営みを

戦地に赴き帰らなかった若者を

流行り病に苦しんだ村村を

孤独に苛まれる老人の呟きを

この地に生きる人々の暮らしが

たとえど

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3月の星々ー春の空の管制官ー

3月の星々ー春の空の管制官ー

さあさ、桜も見れたんだから、

もう少しなんて言ってないで、早く北に飛び立ってください。

そろそろ燕尾服の皆さんが南周りで到着して

ここらあたりの空も渋滞するんだから。

ツバメと相性の悪いジョウビタキを急かすように、

今日もヒバリは高い空から甲高い警笛を鳴らしている。

主役降臨

主役降臨

春の嵐が呼び込んだ暖かな南西の風は

霞がかかったようなぼんやりした空を

澄み渡る深い青いろに染めかえて

弾けんばかりに膨らんだつぼみを

一気に主役の笑顔にメイクアップ

舞台装置もすっかり整い

看板役者も堂々登場

さあ、春本番の始まりです

スノーフレーク

スノーフレーク

すずらんに似た純白のスノーフレークは

花びらの先に黄緑色のワンポイント

住む人のいなくなった住宅の

その軒先の花壇の跡地に

愛でて世話する人がなくとも

己が根にちからをスンと蓄えて

厳冬に耐えて花を咲かせる

早春に開く花はみなどれも

行きつ戻りつする季節を

しっかり一歩進ませる

楚々として麗しく

そしてたくましく

聞こえる春

聞こえる春

部屋の音を全部消して

ガラス戸を開け放って

目を閉じて耳を澄ませてみる

遠くに聞こえるさざめきは

雪解け水を運ぶ早瀬の音

冬枯れの木に巻きついた蔦の緑に

忙しなくコガラの地鳴きが動き回り

遥か高い空からは

ふわり浮かんだトンビの口笛

そよと吹く風が笹の葉擦れを誘う

春はくる

目を閉じていても

春はくる