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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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#創作

自己麻酔

自己麻酔

※残酷描写が含まれます

 旦那様は幼い奉公人に対する情けが深いと評判で、私も同い年の喜助もご多分に漏れず可愛がってもらっていた。

 私の悩みは旦那様の情愛を素直に喜べないことだった。何故かはわからなかったが、人肌に熱した水飴のような旦那様の視線に捕まると身体が強張って、早くこの時が過ぎ去ってくれるようにと祈らずにはいられないのだった。

 井戸へ水汲みに行った時、洗濯をしていた喜助にそれとなく

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世界茸(中編)

世界茸(中編)

 巨人が大地を叩き割ろうとした跡のような裂け目が木の根に半ば隠されて口を開けていた。それが冥界の中枢への入り口だった。

 まずは博士と俺が中の確認に入ることになり、ゴーグルと命綱を装着した。

「こんな軽装で大丈夫なんでしょうか?」

「あたしは何度か入ってるけど平気だったよ。冥界は生者には干渉しないから」

 博士は事もなげに言って、岩の隙間をひょいひょいと下りていった。

 博士に続いて湿気

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【小説】自食(リアル人狼ゲームの話)

【小説】自食(リアル人狼ゲームの話)

 今日も吊られずに済んだ。

 村に紛れ込んだ人狼に、また一人、喰い殺された。

 人狼を炙り出すための会議が今日も開かれる。

「ねえ、彼氏作んないの?」

 化粧の濃い村人Aが話題を振ってくる。

「なかなか良い人いなくてさあ」

 村人らしい口調、手つき、表情になるよう注意を払いつつ答える。

「どんな人がタイプなの?」

 ピンクの爪の村人Bが食い付いてくる。掘り下げなくていいのに。

 

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【小説】蝕の月(男女二人のかぐや姫がいる竹取物語)

【小説】蝕の月(男女二人のかぐや姫がいる竹取物語)

 むかしむかし。

 おじいさんが切った光る竹の節の中には、小さな美しい子供が確かに二人いた。なのにおじいさんが急いで家に帰ってみると、懐の中には一人の姫だけがぽつんと残されていた。

 おじいさんとおばあさんはその不思議な子を「かぐや」と名付け、何か高貴なお人に違いないと大切に敬って育てた。かぐやはある時は女の子で、またある時は男の子だった。おばあさんは男のかぐやを「王子」、女のかぐやを「姫」と

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