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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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#即興小説

【小説】四本目の道(この世とあの世がうっかりつながっちゃった話)

【小説】四本目の道(この世とあの世がうっかりつながっちゃった話)

 僕の家の前は三叉路になっていて、玄関を出て左へ向かう道と奥へ向かう道の間の股の部分には石像があった。別に全然立派なものじゃなくて、風化してざらざらになった石にお地蔵さんみたいな人の形が浮き彫りにされた、小さな道標みたいな岩だ。ばあちゃんはその石をサエの神様と呼んで、水やお菓子を供えて毎日拝んでいた。

 ばあちゃんが熱心に話しかけるそれが僕には何だか気味悪く思えて、あんな古い像なんかなくなっちゃ

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【小説】逆さまの日(真夜中の会社がカオスで猫かわいい話)

【小説】逆さまの日(真夜中の会社がカオスで猫かわいい話)

 はっと目覚めて枕元の時計を見る。七時十五分。やばい。遅刻だ。

 普段の三倍のスピードで歯を磨いて顔を洗って髪をとかす。ろくに鏡も見ずにファンデーションとチークとアイシャドウと口紅を載せる。「化粧した人」という属性が付けばそれでいい。

 クローゼットの手前のほうにあった服を適当に着て、駅へ走る。いつも同じ方向に向かっていく人たちの姿が今日は見えない。そんなに遅くなってしまっただろうか?

 息

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【小説】月夜の祝祭(眠れない夜の密かな集会の話)

【小説】月夜の祝祭(眠れない夜の密かな集会の話)

 満ちた月が冴え渡る夜は祝祭が開かれる。

 密かにベッドを抜け出して、灰猫と並んで影を伝い、黒い炎のように揺らめく小さな森へ。アスファルトと湿った腐葉土の境目をまたぐと人の世界は遠のく。

 朽ちた切り株を青白い月光が照らす。暗がりから現れる、人と獣の狭間にあるもの。この世にもあの世にもいないもの。手を取り合って回る。ぐるぐるぐるぐる回る。内と外を隔てる膜が溶けるまで。

 そうして我々は一つの

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