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ショートショート

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桜色のロケット #シロクマ文芸部

桜色のロケット #シロクマ文芸部

桜色のロケットがどこかの国で打ち上げられた。
人々はただ桜色のロケットが上昇し、地球の外に出ていく映像を見せられただけ。

「これってどこの国?」
「目的はなんだろう?」
「どこまで飛んでいくのかな?」
「危なくないの?」
「でも、桜色、きれいだね」
「なんかちょっと面白そう」

数ヶ月後、今度は水色のロケットが打ち上げられた。

「また?」
「どこの国か、まだ分からないの?」
「やめさせた方がい

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【ショートショート】私が生まれた日に #シロクマ文芸部

【ショートショート】私が生まれた日に #シロクマ文芸部

「誕生日だったね、今日は」

目の前の中年オヤジが話しかけてきた。
口調は優しいが、信用ならない。私をこんな薄暗い部屋に閉じ込めているのだから。

頭でも殴られて連れて来られたのか、頭がボーッとする。いつからここにいるのか、記憶が定かではない。椅子に身体を縛り付けられていて逃げる事もできない。

「なんで私の誕生日知ってるのよ」

「そりゃ知ってるさ。君のことはなんでも知ってる」

「あなた誰なの

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【ショートショート】珈琲とトーストと…… #シロクマ文芸部

【ショートショート】珈琲とトーストと…… #シロクマ文芸部

「珈琲とトーストをください」

最初はこの程度の、控えめな要求だった。

エアコンが壊れてメーカーに連絡したのだが、繁忙期でしばらく訪問できないと言うので、便利屋に修理を依頼することにした。

調べてみると近所に便利屋は沢山あり、どこにすれば良いか悩んだが、店の名前が「便利屋」の便利屋にした。なんとなく気が合いそうな気がしたから。

電話して30分もしないうちにインターフォンが鳴った。

「こんに

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【ショートショート】りんご箱を置き配するのやめてください #シロクマ文芸部

【ショートショート】りんご箱を置き配するのやめてください #シロクマ文芸部

りんご箱が置き配されるようになって今日で三日目だ。注文していないのに。

りんごは嫌いではないが、食べようという気にはならない。恐怖が先立つ。自分で注文していない食べ物が届くと怖いのだと知った。

一体誰が何のために送ってくるのか。りんご箱には送り状が貼られておらず、送り主に心当たりはない。

結構大きなりんご箱なのだが、その割には重くない。それもなんか怖い。持ち上げるとりんごが2、3個コロコロと

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【ショートショート】大事な朝の連絡ノート #シロクマ文芸部

【ショートショート】大事な朝の連絡ノート #シロクマ文芸部

 読む時間がなかった。まただ。もうずいぶん読んでいない気がする。桃子との朝の連絡ノート。

 桃子が朝早い仕事を始めたので、夜遅くまで仕事する俺と生活リズムが合わなくなった。話す時間が減ることを気にした桃子の希望で連絡ノートを書くことにしたのだ。俺は「LINEでいいじゃん」と言ったのだが、「手書きだからいいんだよ、こういうのは」と桃子が言うので付き合うことにした。

 始めてみると案外ハマって、お

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【ショートショート】犬型ロボット2080 #シロクマ文芸部

【ショートショート】犬型ロボット2080 #シロクマ文芸部

愛は犬型ロボット2080にも搭載されなかった。
犬型ロボットは、毎年バージョンアップを重ねて犬としての機能はほぼ完璧に実装されているが、愛だけはいまだ実装されていない。

2080年の日本では、犬を飼うのは一部の富裕層だけだった。犬型ロボットの流通により犬の価格が高騰してしまったのだ。犬型ロボットを購入して人生のパートナーとすることが当たり前になっていた。

いま初老の男性が犬型ロボット専門店で犬

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【ショートショート】君とただ歩きたかった #シロクマ文芸部

【ショートショート】君とただ歩きたかった #シロクマ文芸部

ただ歩く。
私に許されている行動はそれだけだ。

私を作った博士はもういない。
昔は博士の孫のタダシ君の相手をさせられた。
私は歩くことしかできなかったが、タダシ君はキャッキャッと喜んでいた。
私は頑丈に作られているので、タダシ君が多少無茶をしてもなんともなかった。

何があっても指示された場所まで歩いてたどり着く。
それが私の能力。

その能力に我が国の軍が目をつけた。
私に爆弾を搭載し、敵国に

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【ショートショート】開かない窓はない

【ショートショート】開かない窓はない

朝起きて窓を開けてベランダに出ようとしたが、窓が開かない。何かに引っかかっているのか、固くてどうしようもなかった。

部屋側を確認したが何も挟まっていなかった。ベランダ側を確認しようとしてギョッとした。
缶コーヒーくらいの大きさの小人が小さな金棒みたいなものを窓のレールに差し込んでいるのだ。見間違えかと思って瞬きを何回かしたが、やっぱりいる。小さいが全くかわいくない。ヒゲオヤジにグレーの着ぐるみを

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【ショートショート】チワワと見た夢

【ショートショート】チワワと見た夢

真夜中にチワワが吠えている。
飼い主は目を覚ましてチワワを見た。

「おい、起きろ。ご主人様、ちょっと」
「ん?何?」
「起きて。今日、晩ごはん出してもらってない。出して」
「あ、ごめん…あれ、お前、人間の言葉話してる?」
「話してない。起きろ。晩ごはんくれ」
「話してるじゃん!」
「話してない!オレの口を見ろ。ワンキャンクゥーンの口しかできない。人間の言葉を話せるわけないだろ」
「確かに。でもク

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【ショートショート】年下の彼氏

【ショートショート】年下の彼氏

「黙って俺について来い」
昨日、ヒロシに言われた。いつの時代の人なのって思った。年下でまだ28歳なのに。
反射的に「嫌よ」と言ってしまった。どうしよう…。
ヒロシのことは大好き。カッコいいし、優しいし。
でも、頼り甲斐はないのよね、まだ。

アケミに「嫌よ」って言われてしまった。
普通にショックだ。俺には人生は任せられないということだろうか。
年下だから?いや、そんなことは関係ないはずだ。
俺は結

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【ショートショート】たくさん食べたい

【ショートショート】たくさん食べたい

食べることが大好きな女の子、みーちゃん。食事の時にお父さんのおかずが大盛りなのを見て、「お父さんばっかりずるい」といつも怒っていた。
「みーちゃんはこんなに食べられないでしょう?」とお父さんが言うと、「分かんないもん。食べれるかもしれないもん」とふくれるので、お母さんが「じゃあ、みーちゃん食べ終わってまだ食べれそうなら、お母さんのあげるから、ね」と言ってなだめていた。
結局、お母さんのおかずまで食

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【ショートショート】手

【ショートショート】手

「先生」
駅の改札を出たところで、若く美しい女性に呼び止められた。
「迫田先生ですよね、美術部の顧問をされていた」
「いや、あの、どちら様ですか?」
「堀田です!堀田いずみ。覚えていらっしゃらないですよね、私地味だったし。先生は少しお痩せになりました?」
「いや、そんなことないと思うけど」
「痩せましたよー、ちょっとダンディーな感じになりましたもん。私、今だから言いますけど先生に憧れてたんです」

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【ショートショート】結婚したかった男

【ショートショート】結婚したかった男

浮いた話のひとつもなく、実家に帰るたびに「結婚しないのか」と両親に聞かれる男。顔はトムクルーズに少し似てハンサムだが、女性と付き合ってもなぜか長続きしない。

「そもそも結婚したからって幸せになれるとは限らないだろう」
これは「結婚しないのか」に対する彼の逃げ口上だが、そんなことを言う人間は結婚する気がないに決まっている。
だが、会社で管理職に昇進したい彼は「早く結婚しなければ」と思い詰めていた。

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【ショートショート】海の家にて

【ショートショート】海の家にて

海の家でかき氷を注文した男女。男はブルーハワイ。女はいちごの練乳かけ。

「練乳、これで終わりだな」と思いながら、店員はかき氷を作っていた。
「かき氷注文のお客様、お待たせしました」

男はかき氷を見るなり文句を言った。
「しっかりしろよ、お前。なんでブルーハワイに練乳かけてんだよ」
「あ、すみません、練乳、いちごの方でしたか」
「当たり前だろ、ブルーハワイに練乳かけないだろ、普通」
「そうなんで

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