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【ショートショート】たくさん食べたい

食べることが大好きな女の子、みーちゃん。食事の時にお父さんのおかずが大盛りなのを見て、「お父さんばっかりずるい」といつも怒っていた。
「みーちゃんはこんなに食べられないでしょう?」とお父さんが言うと、「分かんないもん。食べれるかもしれないもん」とふくれるので、お母さんが「じゃあ、みーちゃん食べ終わってまだ食べれそうなら、お母さんのあげるから、ね」と言ってなだめていた。
結局、お母さんのおかずまで食べてしまう、ということは一度もなかった。

美津子は高校で柔道を始めると、食べる量が日に日に増えていき、身体が大きくなった。弁当箱もどんどん大きくなり、とうとう三段の重箱になった。
「すげー。1人で食べるの?運動会とかで家族で食べるやつじゃん」などとからかう同級生が多い中、「たくさん食べれていいじゃない。すごい才能だと思う」と言う奇特な女子もいた。その子は美津子の柔道の練習が終わるのを見計らって美津子に声をかけ、グルメスポット巡りに連れ出すことが多かった。
「ねえ美津子、ここのクレープ屋さん、30種類あるんだって!全部いけるよね?」
「いけるわけないじゃない!」
「とか言って、この前、おにぎり屋さんで全種類食べてたし」
「あれは15種類だったから…」
「おにぎり15個いけたならクレープ30個いけるっしょ」
「なんで?倍よ、倍」
「おにぎり30個じゃないからね?クレープが、30種類も、食べられるんだよ?」
「ゆっくり言わなくても分かる。嫌よ」
「えー行こうよー。私が頑張って2個食べるから。美津子は28個食べて?」
「…せめて5個食べてよ」
「オッケー!それでいいよ」

クレープ屋に着いて40分が経過した頃。
「すごいね、美津子!もう20個食べちゃったよ」
「…あんたが食べさせてるんでしょう?」
「だって私自分じゃそんなに食べられないから。美味しいお店のメニューってどんな味か全種類知りたいんだよね」
「自分で食べないと意味ないと思うよ」
「いや美津子が食べるのを見てると自分で食べた気になるんだよ」
「…見てるからじゃないと思う。食べてる時、すごい聞いてくるよね、どんな味かって」
「そっかー、てへ。あ、次のクレープできたよ!」
「もう!勘弁してよ、美衣子!」

月日は流れて…。
「きゃー、お母さん聞いて!美津子、優勝しちゃったよ。78キロ超級で金メダルだって!」
「すごいね!美津子ちゃん、もう一緒に食べ歩き行ってくれないんじゃない?」
「お父さんは食いしん坊のみーちゃんがグルメライターになっちゃったのもすごいと思うけどね」
「美津子のおかげよ。あと、みーちゃんはやめてよね、お父さん。私、来年25よ」
そう言って美衣子は頬をふくらませた。

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