【ショートショート】海の家にて
海の家でかき氷を注文した男女。男はブルーハワイ。女はいちごの練乳かけ。
「練乳、これで終わりだな」と思いながら、店員はかき氷を作っていた。
「かき氷注文のお客様、お待たせしました」
男はかき氷を見るなり文句を言った。
「しっかりしろよ、お前。なんでブルーハワイに練乳かけてんだよ」
「あ、すみません、練乳、いちごの方でしたか」
「当たり前だろ、ブルーハワイに練乳かけないだろ、普通」
「そうなんですか?」
「そうだよ、そもそも注文してねーし。練乳はいちご」
「そうでしたか、すみません。でももう練乳がないんですよね、切れちゃって」
「はぁー?何だそれ。練乳一回分しか残ってなくて、いちごじゃなくてブルーハワイにかけちゃうの、お前。信じらんねー」
「すみません、練乳代はいただきませんので勘弁してください」
「なんだよもう。ユキちゃん、練乳なくて大丈夫?」
「あたし、練乳頼んだっけ?どっちでもいいから早くしてよ」
「ごめんごめん。おい、にいちゃん、じゃこれでいいよ、いくらだっけ?」
「練乳代除いて1,000円です」
男は千円札を置いてかき氷を持って行った。
「嫌なんだけど、店員と揉める男」
テーブルに着くと女が言った。
「ごめん、あいつがブルーハワイに練乳かけるから」
「別にいいじゃない。あたしがブルーハワイ食べるから、あんた、いちご食べなよ」
「えー」
女は練乳のかかったブルーハワイをひと口食べて言った。
「おいしー、めっちゃおいしー」
「うそだろ」
「食べてみれば?」
男はひと口食べて唸った。
「うーん、ま、悪くはないか」
「おいしーでしょ、これ。悪くないとか信じらんない」
「うん、うまいよ、うまい」
「でしょ、ブルーハワイに練乳かけるの、ありだね」
「マジかー」
「払ってきなよ、練乳代」
「え、なんでよ、あっちが間違えたんだよ?」
「ブルーハワイに練乳、美味しかったでしょ?教えてもらった御礼」
「いや納得できないなー」
「じゃあいい、あたしが払ってくる」
「わかった、わかったよ、払ってくるよ、もう」
男は渋々立ち上がって海の家に戻ると店員を呼び止めた。
「あのさ、さっきのかき氷のさ、練乳代?アレいくら?彼女が払って来いってうるさいからさ、払うわ」
「あ、そうなんですねー。でも練乳はサービスでいいですよ、僕が間違えたんだし」
「おーそうか、そうだよな、サンキューな」
「ブルーハワイに練乳ってそんな美味しくないですしね♪」
「なんだと、この野郎!」
海の家の店員は救いようのない馬鹿だった。
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