le 17 août - Paris, 1994
1994年8月17日
ゼンが学校を休んだ。腹痛を訴えたためである。言うまでもなく仮病だ。昨日の夜「オレ明日の朝、風邪ひくから」と言っていたのに、朝になって腹痛にスイッチさせるあたり、仮病慣れしていると言ったところか。
そんなわけで、ひとりで学校へ行くことになった。滞在中ほとんどの行動をゼンと共にしていたし、それ以外の時間は他の友人と一緒だったせいか、ひとりで乗るメトロはなんとなく雰囲気が違う気がした。そして、今日の授業は久しぶりに面白かった。ゼンはちょっと残念なことをしたと思う。特別、何かがあったわけではないんだけれど。
アパルトマンへ戻ると、ゼンはソファに寝そべって本を読んでいた。「腹はどう?」としらじらしく訊いてみると「少し良くなった」と返事をした。後で聞いたところによると、腹痛はまんざら嘘でもなかったらしい。
今夜、アレックス達とフルートのコンサートを聴きに行くんだけれど、と言うと、ゼンは「行かない」と答えた。雨も降ってきたし、僕もどうするかなと考えていたのだが、ふと今夜は「TAKA」(タカさんが経営する、アベスとピガールの中間辺りにある和食屋)で夕食を食べることになっていたのを思い出したので、アレックスに電話をかけ、行けなくなったことを伝えた(結局コンサートは雨で中止になったということだった)。
「TAKA」では、鴨鍋とアンキモとビールを注文した。どちらもとても美味かった。そして、食後に飲んだ久しぶりのほうじ茶がとどめだった。ああ、僕は日本人なんだなあ、とふと思った。久しぶりに、きちんとした和食を堪能した。
今夜は、ナツメさんは友人の家に招待されていたので遅くまで帰ってこなかった。ゼンと僕はバーボン・コークを飲みながら(この滞在中、僕らの間ではバーボン・コークがブームだった。ある事件が起きるまでは)しばらく話をし、そして眠った。
編集後記
日記に何度か登場するレストラン「TAKA」は、タカさんが経営する小ぢんまりとした日本料理店。海外によくあるなんちゃって和食ではなく、正統派のきちんとした和食が食べられる(当時はなおさら)貴重なお店だったと思います。
当時の「TAKA」はパリの知る人ぞ知る穴場だったようで、スノッブな人たちの間で人気があったそうです。日本人観光客の予約は基本的にお断りしていると言っていたので、滞在中、知人として何度か「TAKA」の料理を味わえたのは、やはりナツメさんをはじめとする皆さんのおかげと言うほかありません。
さて、バーボン・コーク……数日後、いったい何が起きるのでしょうか?
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