le 18 août - Paris, 1994
1994年8月18日
夕方にはいつものように「ランデ・ヴー」でビールを飲んだ。今日も4人で「TAKA」へ行くことになっていたので、それまでの時間、モンマルトルを散策した。
フォンデュ屋やらインド料理屋やらを覗いて、今度来てみよう、なんて話しながら歩いていると、毎日歩いている通り沿いに「TUXEDO」という古着屋を見つけた。
ポップな色使いのファサードや内装に、微妙なこだわりを感じる店だった。そして安い。Soldeということもあったのだが、それにしても安かった。いろいろ物色した結果、いくつかワッペンの付いたブラウンのシャツを買った。FRF100(約2,000円)。
満足して店を出ようとしたその時、1着のコートが眼にとまった。鹿革のロング・コートだ。女性ものだったのだが試しに試着してみると、ずっしりと心地の良い重さが肩に伝わり、とても良い革を使っていることが解った。そして何と言っても、色が良かった。とても綺麗な、深みのあるワイン・レッドだ。
いっそのこと袖丈が短かったりするとあきらめもつくのだが、ちゃんと着られるサイズだった。一目で気に入ってしまったのだが、衝動買いばかりしているとキリがないので一晩考えることにした。しかし、FRF410(約8,000円)でこんなコートが買えるなんてちょっと考えられない。
この後「TAKA」で食事をしている最中も、僕の脳味噌はコートの色に染まっていた。
「TAKA」に着くと、5人分の席が用意されていた。Michel(アベス駅前の写真屋さん)も一緒に、ということだった。
天ぷらをほおばりながら、彼とヨシさん、ナツメさんがフランス語で話しているのを聞いていると、6〜7割くらいは聞き取れていた。その中に上手く口を挟むことはできないけれど、大体の話の内容は理解できたのが少しうれしかった。
Alliance Françaiseの話題になった時には、僕らも会話に参加した。「授業中にフランス語以外の言葉を使うと1フラン、バレないように筆談してるのを見つかると2フランの罰金を取られるんですよ」と説明すると、ミッシェルは「本当に?」と言って笑った。
こういう機会があると、自分のフランス語にも少しずつ自信が持てるようになる。すごくうれしいことだし、こうして色々な人を紹介してくださるナツメさんにはとても感謝している。
ベッドに横になって、こうして日記を書いている今も、実は鹿革のコートのことが気になっている。どうしようかな、と頭を悩ませながら(悩んでいながらも実は楽しい)、今日も1日が終わる。
編集後記
高校生の頃から20代前半くらいまで、ファッション・マニアと言っても差し支えないくらい洋服が好きでした。とはいえ経済力のない年頃ですから、色々と工夫したりやりくりしてました。
そういえば、ちょうどこの頃に(もう少し前だったかな)放送していた「浅草橋ヤング洋品店」というTV番組に「ファッションカルトQ」というマニアックなクイズコーナーがあって、毎週わりと楽しみにしていた記憶があります。この番組はその後「ASAYAN」として、モーニング娘。などを生み出したオーディション番組に姿を変えました。
それはさておき、当時の僕はメンズ/レディースを問わず気に入った服を買って着ていました。体型が華奢だったので日本でもそれなりに選択肢はありましたが、パリのショップは服でも靴でも大きめのサイズが豊富で、男性の僕でも普通に着られるモノが多かったです。とはいえシルエットはまったく違いますから、今思うとなかなかユニークというか……いわゆる若気の至りだったんだろうなぁと思います。
ちなみに、授業中の罰金の話はもちろん実話です。何度か見つかってチャリンとやられました。あの罰金が最終的にどう還元されたのかはさすがに覚えていませんが……筆談の方が罰金額が高いというのが、なんとも言えず良いですよね。
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