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「動物のジェスチャー」からのシンボル生成: 『プロセスモデル』 (ジェンドリン, 2023) と『精神・自我・社会』 (ミード, 2021)
ユージン・T・ジェンドリン (1926–2017) の哲学的主著の一つ『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018; ジェンドリン, 2023) は、アメリカ古典的プラグマティスト、ジョージ・ハーバート・ミード (1863–1931) の代表作『精神・自我・社会』 (Mead, 1934; ミード, 2021) の影響を強く受けています。ミードとジェンドリンをつなぐ人物にチャールズ・
もっとみる「対象」概念の予備的検討: ジョージ・H・ミードから1980年代のジェンドリンまで
1980年代前半、ジェンドリンは、生命プロセスにとっての「対象」とは何かという予備的な検討を始めました。「予備的」というのは、当時、ジェンドリンは、ジョージ・ハーバート・ミードに倣って、知覚と行動を獲得した動物のみを対象として検討していたということです。つまり、『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018) の第III章にある、単細胞生物や植物にも当てはまる「対象」の考察には、まだ到
もっとみるジェンドリンの 「環境#0 」のプラグマティズム的起源: デューイとミードを参照しながら
ジェンドリンの『プロセスモデル』において、「環境#0」は「環境#2」や「環境#3」に比べると言及される頻度が低いです。とはいえ、「環境#0」は、「ほとんど言及されないからといって、構造的に重要でないとは限らない」 (Jaaniste, 2021, April) という指摘もあります。ジェンドリンが環境#0を意図的に想定した背景はいろいろ考えられます。私見では、環境#0の先取りの一つは、デューイの後
もっとみる「ユニットモデル」や「内容モデル (パラダイム) 」に対するジェンドリンの立場: G・H・ミードの時間論から見た遡及的時間
生命プロセスは事前に予測することができないというジェンドリンの発想はもうひとつの重要な発想につながります。それは、過去は現在の視点から「事後的に」見直されるという発想です。しかし、私たちは、後から発見されるはずの要素が、以前からそのままのかたちで存在していたかのような錯覚に陥りがちです。この錯覚を表したのが、彼の用語である 「単位モデル (ユニットモデル) 」や 「内容パラダイム (内容モデル)
もっとみる「理想化された観察者」に対するジェンドリンの立場と「傍観者」に対するデューイの立場:新旧の物理学の見解に基づいて
ジェンドリンは、植物や動物や人間に共通する生命プロセスの特徴を 「非ラプラス的連続 (non-Laplacian sequence) 」と呼びました。では、「ラプラス的」とはいったい何なのでしょうか? 彼はニュートンからラプラスに至る古典物理学の暗黙の前提を批判的に検討しました。この前提は、科学者が未来を完璧に予測できるという決定論を意味するものでした。また、「理想化された観察者」と呼ばれるこのよ
もっとみるジェンドリンの「インタラクションファースト (相互作用が最初にある)」とデューイの「トランザクション (取引作用)」
ジェンドリンは多くの著作で「インタラクション (相互作用)」という用語を使っていますが、『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018) では「インタラクションファースト (相互作用が最初にある) 」という用語を使っています。なぜ 「相互作用 (インタラクション) 」だけでは彼の言いたいことが十分に伝わらず、「最初にある (ファースト)」を加える必要があると彼が感じたのか、その歴史的背
もっとみる『プロセスモデル』の第II章と第I章における「インプライング」の用法史: 古典的プラグマティズムからの系譜
『プロセスモデル』 (Gendlin、1997/2018) においては、基本となる用語「インプライング」が頻繁に使われています。この用語は、彼の以前の公刊論文 (Gendlin, 1973a; 1973b) で初めて使われました。現段階での私の見解では、「インプライング」のさまざまな用法は、以下の歴史的な流れに沿って発展してきたと考えています。まず、1970年代初頭にジェンドリンは『プロセスモデル
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