田中秀男 (Hideo TANAKA)

専門はフォーカシングとジェンドリンの哲学。国際フォーカシング研究所認定フォーカシング・…

田中秀男 (Hideo TANAKA)

専門はフォーカシングとジェンドリンの哲学。国際フォーカシング研究所認定フォーカシング・トレーナー。Ph.D. https://focusing.org/civicrm/profile/view?reset=1&id=239&gid=14

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最近の記事

ジェンドリンの「インタラクションファースト (相互作用が最初にある)」とデューイの「トランザクション (取引作用)」

ジェンドリンは多くの著作で「インタラクション (相互作用)」という用語を使っていますが、『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018) では「インタラクションファースト (相互作用が最初にある) 」という用語を使っています。なぜ 「相互作用 (インタラクション) 」だけでは彼の言いたいことが十分に伝わらず、「最初にある (ファースト)」を加える必要があると彼が感じたのか、その歴史的背景を概説しました。 古典的プラグマティズムにおける「相互作用」ジェンドリンは『

    • 絵に絵として反応する: ジェンドリンとランガー

      我々人間は、動物とは異なり、絵の中の猫を撫でようとは思いません。ジェンドリンが『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018) で論じているように、絵に絵として反応することは、あたかも猫が実在するかのように行動することとは異なるのです。状況の中で行動することなしに状況を処理することは、物事をシンボルとしてとらえる能力、すなわち、「~について (アバウトネス) 」と呼ばれる人間の能力とどのように関係するのでしょうか。この関係を彼の他の哲学論文「パターンを超えて思考す

      • そっか。今日でブルックナー生誕200年だったか。同い年のスメタナは3月にもう200年迎えてたか。

        • ジェンドリンの実践的主著『フォーカシング指向心理療法』復刊

          心理療法家ユージン・ジェンドリンの実践的主著である、『フォーカシング指向心理療法』が入手可能となりました。出版社の金剛出版さんに感謝です。長らく上巻は絶版で下巻のみ販売されていたのですが、今回上下巻ともに入手可能となりました。 フォーカシング指向心理療法(上)[オンデマンド版] フォーカシング指向心理療法(下)[オンデマンド版] ジェンドリンが成功した心理療法でクライエントに起こっていることを「フォーカシング」と名付けたのが、1960年代中頃のことです (Gendlin

        ジェンドリンの「インタラクションファースト (相互作用が最初にある)」とデューイの「トランザクション (取引作用)」

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        • 『プロセスモデル』の哲学的背景
          11本
        • ジェンドリンの哲学
          67本
        • Philosophical background
          21本
        • Written in English
          63本
        • フォーカシング・ワークショップで使う話
          13本
        • 自己紹介
          8本

        記事

          Retroactive time: Bergson as a precursor of Gendlin

          In both his psychotherapeutic and philosophical writings, Gendlin discussed a unique theory of time: “how our present living can change the past.” In this post, I will focus on Henri Bergson’s theory of time as a precursor to the theory. By

          Retroactive time: Bergson as a precursor of Gendlin

          遡及的時間: ジェンドリンの先駆者としてのベルクソン

          ジェンドリンは心理療法的著作においても、哲学的著作においても、「現在の生きることがいかに過去を変えるのか」という独特な時間論を論じました。今回私は、その先駆けとしてアンリ・ベルクソンの時間論を取り上げます。ベルクソンの論述を参照することによって、ジェンドリンの哲学的著作を理解するだけでなく、彼がフォーカシングを提唱するきっかけなった彼自身のリサーチを、ロジャーズ派内の彼の兄弟子による先行研究 (Bergman, 1951) との関係から捉え直します。 現在の時点から過去の体

          遡及的時間: ジェンドリンの先駆者としてのベルクソン

          なぜジェンドリンの哲学はアカデミックな哲学ではあまり受け入れられていないのか?

          「なぜジェンドリンの哲学はアカデミックな哲学ではあまり受け入れられていないのか?」 この問いは、非フォーカサーでジェンドリン哲学を研究する人たちとの会話の中でよく議論されます。あまり受け入れられない理由の一つは、「彼の哲学はフォーカシングやTAEのセッションを経験したことがある人にしか理解できない」と思っている人が少なからずいることが挙げられるかもしれません。 ジェンドリンの哲学は、心理療法や創造的思考法といったフィールドを持っていたからこそ、抽象的な思弁に陥ることなく、

          なぜジェンドリンの哲学はアカデミックな哲学ではあまり受け入れられていないのか?

          ジェンドリンの「逆転」とメタファー理論の歴史 ― I・A・リチャーズ、ブラック、メルロ=ポンティ

          池見陽氏は、フォーカシングの理論と実践に関する論文の中で、メタファー表現と、その表現の中で比較されるものどうしの類似点や共通点が提示される順序について、次のように論じています。 なぜジェンドリンはこの順序にこだわったのでしょうか。その歴史的背景を検討することから考察を始めたいと思います。 順序の逆転: メタファーと類似点ジェンドリン後期の哲学的主著『プロセス・モデル』 (Gendlin, 1997/2018; ジェンドリン, 2023) では、前期の哲学的主著『体験過程と

          ジェンドリンの「逆転」とメタファー理論の歴史 ― I・A・リチャーズ、ブラック、メルロ=ポンティ

          「理想化された観察者」に対するジェンドリンの立場と「傍観者」に対するデューイの立場:新旧の物理学の見解に基づいて

          ジェンドリンは、植物や動物や人間に共通する生命プロセスの特徴を 「非ラプラス的連続 (non-Laplacian sequence) 」と呼びました。では、「ラプラス的」とはいったい何なのでしょうか? 彼はニュートンからラプラスに至る古典物理学の暗黙の前提を批判的に検討しました。この前提は、科学者が未来を完璧に予測できるという決定論を意味するものでした。また、「理想化された観察者」と呼ばれるこのような科学者が自然現象を観察するとき、彼らは参与者であるにもかかわらず、あたかも非

          「理想化された観察者」に対するジェンドリンの立場と「傍観者」に対するデューイの立場:新旧の物理学の見解に基づいて

          Why is Gendlin’s philosophy less widely accepted in academic philosophy?

          “Why is Gendlin’s philosophy less widely accepted in academic philosophy?” This question is often discussed in conversations with people studying Gendlin's philosophy as non-Focusers. One reason may be that a few people believe that his ph

          Why is Gendlin’s philosophy less widely accepted in academic philosophy?

          今日の豆乳朝ご飯

          ディルタイの「体験 (Erleben)」からジェンドリンの「体験過程 (experiencing)」へ: フォーカシング前史

          ジェンドリンは、自身の哲学に最も影響を与えたのはディルタイの哲学だ、と明言しています。 ディルタイ哲学がジェンドリンの心理療法理論や心理療法のリサーチに与えた影響を、今から20年前に紀要論文として私は公表しました。 田中秀男 (2004). ジェンドリンの初期体験過程理論に関する文献研究:心理療法研究におけるディルタイ哲学からの影響 (上). 図書の譜:明治大学図書館紀要, 8, 56-81. 田中秀男 (2005a). ジェンドリンの初期体験過程理論に関する文献研究:

          ディルタイの「体験 (Erleben)」からジェンドリンの「体験過程 (experiencing)」へ: フォーカシング前史

          Gendlin and New Phenomenology: Naohiko Mimura’s paper

          I would like to share with you a piece of literature that is perfect for introducing Gendlin’s philosophy to non-Focusers. You can download the full paper (filename: KU-1100-20231218-07.pdf) from the repository linked below: Mimura, Naohik

          Gendlin and New Phenomenology: Naohiko Mimura’s paper

          Reviewing Prior Studies

          It seems that people who are not part of the academic world do not realize how important it is to accurately review previous studies. Well, that was true for me before I was part of it. I would not have understood the importance of the firs

          先行研究のレビュー

          先行研究を的確にレビューできていることがどんなに大事かってことは、アカデミックな世界に属していない人にはピンとこないらしい。まあ、僕も属する前はそうだったけど。アリストテレス『デ・アニマ』全3巻のうち、第1巻の重要性は、自分が研究者として論文を書くようになってからでないとわかんなかったろうなあと。

          先行研究のレビュー

          Chapter VII of “A Process Model” and G. H. Mead

          In ‘VII-A: Symbolic Process’ in “A Process Model” (Gendlin, 2018), there was a detailed discussion of how human language emerged from animal gestures. It has long been noted that the philosopher George Herbert Mead was a pioneer in Gendlin'

          Chapter VII of “A Process Model” and G. H. Mead