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恣意的でもなければ論理的でもない

『プロセスモデル』におけるジェンドリンの基本的発想は次の通りです。

プロセスは恣意性とも論理とも異なるというのが私の主張である。 (Gendlin, 1997/2018, p.47; cf. ジェンドリン, 2023, p. 80; 田中, 2024, June)

どちらが欠けても成り立たない両側面を図解しようと思います。



プロセスは恣意性とは異なる

例えば、空腹と食べることの間には変化があるが、これは空腹から毒殺される、あるいは一時的に痛み、逃走、不安、性交渉にシフトするような、単なる変化ではない。このように、食べることは確かに変化ではあるが、空腹であることと非常に特殊な関係を持っている。 (Gendlin, 1973, p. 325; cf. ジェンドリン, 1999b, p. 92; 田中, 2024, September)

…身体的に生きるどんな瞬間も、さらに生きることを「インプライする」、あるいはさらに生きることへと向かうのである、しかし、何でも好きなようにできるわけではなく、ただ特定の異なるステップがあるだけなのだ。 (Gendlin, 1973, p. 325; cf. ジェンドリン, 1999b, p. 92; 田中, 2024, September)

暗黙的な側面が非常に複雑であるにもかかわらず、そこには焦点があり、特定の方向が感じられ、それは、どんな一歩でも推進するのではないという事実に現れている。 (Gendlin, 1973, p. 326; cf. ジェンドリン, 1999, p. 95; 田中, 2024, April)

…あたかも単に別の何かをインプライするかのようにインプライングを「変化」と呼ぶのは誤解を招く。インプライングがインプライするのは、非常に複雑なものなので、インプライング自体が変化することをインプライするかのように非常に特別な生起だけがインプライングを「変化させる」のである。 (Gendlin, 1997/2018, p. 13; ジェンドリン, 2023, p. 18)


プロセスは論理とは異なる

食物やその特性はすべて、空腹の中に暗黙的にある。しかし、空腹は何か新しいものによって推進される可能性もある。暗黙的なものは決して形成されるだけではない。点滴による栄養摂取は消化を推進することができるし、通常とは異なる食物も推進することができる。 (Gendlin, 1984, p. 100; cf. ジェンドリン, 1999a, p. 54; 2015, p. 21)

インプライングがインプライするのは、推進する「何らかのあり方」であって、特定のあり方ではない。…インプライングとは常にオープンなものであり、インプライングへと生起するもの (what occurs into it) はインプライングとイコールではない。 (Gendlin, 1997/2018, p. 66; cf. ジェンドリン, 2023, p. 113)

常にインプライングがあるのだから、すべての生起は「インプライへと」起こる (happens “into implying”) のだが、インプライングがインプライするように生起するとは限らない。 (Gendlin, 1997/2018a, p. 13; cf. ジェンドリン, 2023, p. 19)

環境は、身体がインプライするように多少なりとも生起するかもしれないし、しないかもしれない。 (Gendlin, fair copy, p. 5; 2012, p. 146; 2018, p. 116)

生起するのは、観察者にとって見慣れていようと、珍しかろうと、新しい形成である。 食べることは観察者には見慣れているが、点滴による栄養摂取もまたそのプロセスを推進するのである。 (Gendlin, 1997/2018, p. 66; cf. ジェンドリン, 2023, p. 113)


文献

Gendlin, E.T. (1973). Experiential psychotherapy. In R. Corsini (Ed.), Current psychotherapies (pp. 317-52). Peacock. ユージン・T・ジェンドリン [著] ; 池見陽 [訳] (1999b). 体験過程療法 セラピープロセスの小さな一歩:フォーカシングからの人間理解 (pp. 75-138) 金剛出版.

Gendlin, E.T. (1984). The client’s client: the edge of awareness. In R.L. Levant & J.M. Shlien (Eds.), Client-centered therapy and the person-centered approach: new directions in theory, research, and practice (pp. 76-107). Praeger. ユージン・T・ジェンドリン; 吉良安之 [訳] (1999a). 研究資料 『クライエントのクライエント:覚知のへり』(ジェンドリン著)の紹介 カウンセリング学論集 (九州大学), 13, 29-62. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 久羽康・吉良安之 [訳] (2015). クライアントのクライアント:意識の辺縁.

Gendlin, E. T. (1997/2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.

Gendlin, E.T. (2012). Implicit precision. In Z. Radman (Ed.), Knowing without thinking (pp. 141-166). Palgrave Macmillan.

Gendlin, E.T. (2018). Saying what we mean (edited by E.S. Casey, & D.M. Schoeller). Northwestern University Press.

田中秀男 (2024, April). ジェンドリンの「焦点化」とディルタイの「合目的性」.

田中秀男 (2024, June). ジェンドリンの最も重要な考え方.

田中秀男 (2024, September). 『プロセスモデル』の第II章と第I章における「インプライング」の用法史: 古典的プラグマティズムからの系譜.


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