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ジェンドリンの最も重要な考え方


発想の背景

ジェンドリンの新旧哲学的主著である『プロセスモデル』と『体験過程と意味の創造』に共通する最も重要な考え方は、「恣意的でもなければ論理的でもない」です。

ジェンドリン後期の哲学的主著『プロセスモデル』の第IV章Aには次のようなことが何気なく書かれています。

プロセスは恣意性とも論理とも異なるというのが、まさに私の主張である。 (Gendlin, 1997/2018, p.47; cf. ジェンドリン, 2023, p. 80; 太字は筆者による挿入)

一方、先立つ彼の初期哲学的主著『体験過程と意味の創造』の第IV章Aには次のようなタイトルになっています。

経験された意味は、論理的関係によって規定されるのではなく恣意的に機能するのでもない。 (Gendlin, 1962/1997, p. 140; cf. ジェンドリン, 1993, p. 167; 太字は筆者による挿入)

恣意的でもなければ論理的でもないという、一見矛盾する性質を同時に考察するにあたって、私はジェンドリンに最も大きな影響を与えてディルタイの著作から次の文章を参考にしています。

私は、時間の中で生起し、外から妨げられることのない一つの表現を探し求めなければならない。器楽は、このような表現のひとつである。その起源が何であれ、器楽は、その連続の中で、創作者がひとつの形象から次の形象へと、その時間的な連関を見渡すことができる。ここで見られるのは、方向づけられた傾向、実現へと向かう行為、心的活動そのものの進展、過去によって制約されながらも様々な可能性を内に含むこと、同時に創造でもあるような展開 (explication) である。 (Dilthey, 2002, pp. 251–2; cf. 1927, pp. 231–2 [GS VII, 231-2]; ディルタイ, 2010, pp. 256–7; 太字は筆者による挿入)

以下に、対応する順に並べたものを示します。


発想の展開

なお、上記ジェンドリンの発想が『プロセスモデル』において具体的にどのように適用され、展開されたかについては、下の別記事をご覧ください。

恣意的でもなければ論理的でもない|田中秀男 (Hideo TANAKA)


文献

Dilthey, W. (2002). The formation of the historical world in the human sciences (edited by R. A. Makkreel, & F. Rodi) (Selected works / Wilhelm Dilthey, Vol. 3). Princeton University Press. Originally published as Dilthey, W. (1927). Der Aufbau der geschichtlichen Welt in den Geisteswissenschaften (Gesammelte Schriften, vol. 7) [abbriviated as GS VII]. B.G.Teubner. ディルタイ; 長井和雄(訳) (2010). 歴史論 世界観と歴史理論 (ディルタイ全集, 第4巻, pp. 1-392). 法政大学出版局.

Gendlin, E.T. (1962/1997). Experiencing and the creation of meaning: a philosophical and psychological approach to the subjective (Paper ed.). Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 筒井健雄 [訳] (1993). 体験過程と意味の創造. ぶっく東京.

Gendlin, E. T. (1997/2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.

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