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福田花が書いたもの

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#栃木県

夏-vol.1 福田花

雷都
水平線の見えない街にも
夏はくる
湿度が溶けた空気に体がほどけ
木陰に避暑を望むばかり

暮れなずむ空は
雷光に阻まれ
瞬く間に大きな水溜まりを作る
夏がくる
ここはこうして海がなくとも暑さにかまけた湖が光る

トカゲ
アスファルトには動きの鈍いトカゲがひとり
路頭に迷っているようだ
焼けた地面に漕ぎ出す二歩目を
踏み出せないでいるようだ

風そよぐ中
影はどこか いそいそと走る私の自転車

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夏-vol.3 福田花

サンバレー

逃げるようにサンバレーへ
風は縫うように近づいてくる
氷は黒い池にぽしゃりと落ちて
私も足を滑らせる
心だけ はやらないように
ゆっくりと腰を下ろして

夏でもここは私を冷やす小さな山

花の喫茶日記
宇都宮市 「サンバレー」

 東武宇都宮駅の東口を出て、東武馬車道通り(通称一番通り)を駅を背に步く。1つ目の路地を右に曲がると、雰囲気が一変して朝でも昼でも毎度なんとも言えない緊張感

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夏-vol.4 福田花

夏のサイド

 高く上がった打球が真っ青な空に吸い込まれる。一瞬それを見失って、ボールの影がグラブの位置を確かめさせる。夏のグラウンドは乾いた砂のほこりっぽい匂い。汗で滑るボールを握りなおす。帽子をかぶっても焼ける真っ赤な顔。べた付く足に長いソックスを2枚も履いている。Tシャツの上にはボタンの付いた通気性の悪い白の厚手のシャツ。白いズボンにベルトを通してそれらをしまう。どれだけ暑くても変わらない練

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夏-vol.7 福田花

夏-vol.7 福田花

花の喫茶日記
釜川沿い 「朴花」

 ひと昔前は街のホットスポットだったオリオン通りはいつのまにか居酒屋だらけの商店街になってしまった。昔ながらのお店もちらほら見かけるが、目に飛び込むのはシャッターが閉まった店と派手な入り口のチェーン店ばかり。私より10年以上も早く歳を重ねている人は皆、昔はすごかったんだと口を揃える。

 そんなオリオン通りが一年に一度、一気に華やぐ日がある。それが毎年8月に開催

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秋-vol.1 福田花

秋-vol.1 福田花

セプテンバー

 街の匂いが金木犀に包まれる。風は一気に涼やかに、湿り気のあった8月が過ぎていった。青々としていた稲は金色の穂をたっぷりとつけて重たそうに首をかしげる。なんとなく空が高く、吸い込まれそうになる。寒くも暑くもない肌なじみのよい気温。太陽がギラつく夏のパキっとした鮮やかさから、なんとも力を緩めた光が差し込んで、からし色や臙脂、茶色を纏いたい季節になってきた。

 窓を開けて車に乗るのが

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春-vol.1 福田花

春-vol.1 福田花

春の手紙

拝啓

 こちらは冬の厳しさが和らいできました。いかがお過ごしですか。
 元気ならばいいのですが。
 
「便りがないのはいい便り」なんて言葉がありますが、頷きたい一方で、納得いかない部分もあります。
 手紙には返事が欲しくなるものです。それは別の話ですか。

 春が来るように思います。

 あぜ道を通ってたどり着く、田んぼの横に流れる小川をよく見に行きます。天気がいい日だけです。自転車

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春-vol.2 福田花

春の詩

ホコリ
部屋に差し込む光が
私の背中をあたためる
目の前で小さなほこりが浮遊して
キラキラ光っている
私の吐く息に沿って漂う
集まればきらめきはなくなって
これは何色
その前の彼らの自由を
私はどれだけ許せるか

ひとりででかける
ひとりででかける
歩く速さも考えないから
植木を見つめる時間があるから
通り過ぎても戻って苦笑いができるから
そうして、古い化粧品店に我が物顔で入れるから

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夏の音ー福田花

ラジオ体操と子供たちの声、蝉の大合唱、夕立と雷の音、遠くに聞こえる花火の音、夏には夏の音がある。

 家から聞こえるこれらの音の他に、私の庭からは1時間に2回鳴る笛の音が夏にあった。
 7月から2か月ほどだけ開かれる屋外の市営プールから1時間に2回笛の音が鳴る。毎時50分になると大きな笛が一度鳴り、もごもごとした放送のあと、少し静かな10分がある。そのあとまた大きな笛が鳴り、にぎやかな様子が聞こ

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