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小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」
独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。
気が付けば28年も働いていた。年齢も四十八歳と肌の折り返し地点に迫る。見た目は四十代前半に見られるが、年々足腰が弱くなってきてると、最近の昭子は口にしていた。
それでもレジ打ちに関しては年々速くなると言っていた。つまり昭子は歳を重ねるごとに、レジ打ちのスピードが上がって
第95話「世の中はコインが決めている」
「明日、店長の阿弥陀さんをスナックへ誘う。そこで狛さんの登場だ。この作戦を成功させるには、狛さんみたいな清楚な感じの女性が良いんだ。ハナちゃんはガサツだからね」と正論くんが最後にオチまでつけて言う。
「おいコラ。言い過ぎでしょう!」とハナちゃんが怒っている。
「私、大丈夫かしら?スナックの仕事なんて数年ぶりよ。でも、ママさんは平気なの」
「ママにはハナちゃんから説明してくれる。自信持って下さ
第94話「世の中はコインが決めている」
ー翌日ー
晴天の空を見上げて、僕は大きく腕を伸ばした。なんだか伸びをしたい気分だったからだ。
駅前に到着すると、相変わらず一人の男性が演説をしている。この街の風景も変わらない。何者かも知らない男の演説を熱心に聞いてる人たちが居る。
「よっ、おはよう」と背後から正論くんが挨拶をしてきた。
「おはよう。久しぶりに一緒に仕事ができるね」と演説をする男性を眺めなら言う。
「あの男、いつから
第92話「世の中はコインが決めている」
堂々と見るものじゃなかったけど、僕たちは狛さんの腹の傷跡を見させてもらった。生々しい傷跡。包丁で何度も刺されたと言うが、その傷跡から内臓が飛び出るわけでもなく、血が流れ落ちるわけでもなかった。
ただの空洞と言った方が正しい。傷跡の隙間から覗くのは、暗闇が広がっていそうな空洞だった。
狛さん本人に真実を伝えるのは辛かったけど、これは紛れもない真実であった。
僕たちが工場で組み立てていた
第91話「世の中はコインが決めている」
縁日かざりが部屋までやって来たときのことを語ろう。
露子から居場所を聞いて、縁日かざりは朝早くから出かけた。同時刻、露子が僕に連絡を入れた。ハナちゃんは深夜から朝方まで、縁日かざりのマンションを見張っていた。
その後、途中で切り上げてスナックに戻ってソファで一休みをしていた。
まさか、縁日かざりが早朝から出掛けると思わなかった。それで僕たちは安心していたのだ。何故なら、彼女にスナック
第90話「世の中はコインが決めている」
正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。
そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕はイマイチピンときていない。一度死んだと言われても、曖昧な言い方だったし理由も聞かされていないからだ。
「どういう意味で言ってんの。正論くん、説明しなさいよ」と声を大にしてハナちゃんが言う。
「言うなれば、ハナちゃんの中で絵馬さんは一度
第89話「世の中はコインが決めている」
正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥居二子は家を出て行ったきり帰って来ない。
数年後、銀次郎がスナックを訪れる。そして、草刈華子(ハナ)へ絵馬カナエが亡くなったことを話した。
このとき、ハナちゃんは絵馬カナエが銀次郎の愛人だということを知る。銀次郎本人から聞いたからだ
第87話「世の中はコインが決めている」
駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼んだ。
向かってる途中、正論くんへ連絡を入れたが仕事なのか出てくれない。ハナちゃんに関しては連絡先さえ知らない。下手すりゃ、ハナちゃんだって危ない。
いや、ハナちゃんより、狛さんに連絡すれば良い。慌てて狛さんの電話番号を押した。
第86話「世の中はコインが決めている」
真実がわかった以上、縁日かざりと直接会って止めなければいけない。そう決意したとき、僕の胸で泣きじゃくる露子が顔を上げた。
「はじめくん、もう一つ話があるの。私、逆らうことができないから従うしかなかった」
「何か命令されたのか?」
「実は数日前、突然かざりから連絡があったの。あの日の恐怖があったから言われるままに従った。深夜のファミレスに呼ばれて、ある事をやって欲しいと頼まれたの。それを成功
第85話「世の中はコインが決めている」
始まりは廃墟へ行った日だった……
廃墟へ来てから、僕たちグループは二手に分かれた。倉木先輩と神宮寺と縁日かざり。そして、僕と露子の二人。そのあと、僕と露子は身体の関係を持った。
「あのとき、部屋に入る前、物音が聞こえたのを覚えていない?」と露子が訊いてきた。
「覚えてるよ。確か、僕たちの背後で物音が聞こえた。あのときは気のせいだと思っていたけど」
「あれ、かざりが私たちを後ろからつけて