葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂け…

葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂ければ幸いです

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小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。 気が付けば28年も働いていた。年齢…

第95話「世の中はコインが決めている」

「明日、店長の阿弥陀さんをスナックへ誘う。そこで狛さんの登場だ。この作戦を成功させるには、狛さんみたいな清楚な感じの女性が良いんだ。ハナちゃんはガサツだからね」…

第94話「世の中はコインが決めている」

 ー翌日ー  晴天の空を見上げて、僕は大きく腕を伸ばした。なんだか伸びをしたい気分だったからだ。  駅前に到着すると、相変わらず一人の男性が演説をしている。この…

第93話「世の中はコインが決めている」

 僕たち四人は打ち合わせを終えると、それぞれの家に帰った。狛さんが帰り際、寂しくなるぁーーなんて言いながらハナちゃんとハグをしていた。  数日ぶりに、狛さんは自…

第92話「世の中はコインが決めている」

 堂々と見るものじゃなかったけど、僕たちは狛さんの腹の傷跡を見させてもらった。生々しい傷跡。包丁で何度も刺されたと言うが、その傷跡から内臓が飛び出るわけでもなく…

第91話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが部屋までやって来たときのことを語ろう。  露子から居場所を聞いて、縁日かざりは朝早くから出かけた。同時刻、露子が僕に連絡を入れた。ハナちゃんは深夜…

第90話「世の中はコインが決めている」

 正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。  そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕は…

第89話「世の中はコインが決めている」

 正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥…

第88話「世の中はコインが決めている」

 様子がおかしかったのは、縁日かざりだけじゃない。狛さんの様子もおかしかった。戸惑いながら、僕はゆっくりと狛さんへ近づいた。そのとき、背後でドアの閉まる音が聞こ…

第87話「世の中はコインが決めている」

 駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼…

第86話「世の中はコインが決めている」

 真実がわかった以上、縁日かざりと直接会って止めなければいけない。そう決意したとき、僕の胸で泣きじゃくる露子が顔を上げた。 「はじめくん、もう一つ話があるの。私…

第85話「世の中はコインが決めている」

 始まりは廃墟へ行った日だった……  廃墟へ来てから、僕たちグループは二手に分かれた。倉木先輩と神宮寺と縁日かざり。そして、僕と露子の二人。そのあと、僕と露子は…

第84話「世の中はコインが決めている」

 果たして、露子は部屋に来てくれるのか?これは一つの賭けだった。来なければ僕に対して隠し事があるということ。部屋に来てくれたら、縁日かざりと一緒に来るかもしれな…

第83話「世の中はコインが決めている」

 せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。  すると、テーブル…

第82話「世の中はコインが決めている」

 こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。  工場…

第81話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。  すると、急にピタ…

小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。

気が付けば28年も働いていた。年齢も四十八歳と肌の折り返し地点に迫る。見た目は四十代前半に見られるが、年々足腰が弱くなってきてると、最近の昭子は口にしていた。

それでもレジ打ちに関しては年々速くなると言っていた。つまり昭子は歳を重ねるごとに、レジ打ちのスピードが上がって

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第95話「世の中はコインが決めている」

第95話「世の中はコインが決めている」

「明日、店長の阿弥陀さんをスナックへ誘う。そこで狛さんの登場だ。この作戦を成功させるには、狛さんみたいな清楚な感じの女性が良いんだ。ハナちゃんはガサツだからね」と正論くんが最後にオチまでつけて言う。

「おいコラ。言い過ぎでしょう!」とハナちゃんが怒っている。

「私、大丈夫かしら?スナックの仕事なんて数年ぶりよ。でも、ママさんは平気なの」

「ママにはハナちゃんから説明してくれる。自信持って下さ

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第94話「世の中はコインが決めている」

第94話「世の中はコインが決めている」

 ー翌日ー

 晴天の空を見上げて、僕は大きく腕を伸ばした。なんだか伸びをしたい気分だったからだ。

 駅前に到着すると、相変わらず一人の男性が演説をしている。この街の風景も変わらない。何者かも知らない男の演説を熱心に聞いてる人たちが居る。

「よっ、おはよう」と背後から正論くんが挨拶をしてきた。

「おはよう。久しぶりに一緒に仕事ができるね」と演説をする男性を眺めなら言う。

「あの男、いつから

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第93話「世の中はコインが決めている」

第93話「世の中はコインが決めている」

 僕たち四人は打ち合わせを終えると、それぞれの家に帰った。狛さんが帰り際、寂しくなるぁーーなんて言いながらハナちゃんとハグをしていた。

 数日ぶりに、狛さんは自分の部屋へ戻ることになる。気がかりはお腹の傷跡だけど、現状は元に戻せる方法がわからない。

「ホントに一人で良いんですか?もし良かったら、一緒に居るよ」

「大丈夫よ。それに今は一人の方が返って楽なの。心配しないで自殺とかしないから」

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第92話「世の中はコインが決めている」

第92話「世の中はコインが決めている」

 堂々と見るものじゃなかったけど、僕たちは狛さんの腹の傷跡を見させてもらった。生々しい傷跡。包丁で何度も刺されたと言うが、その傷跡から内臓が飛び出るわけでもなく、血が流れ落ちるわけでもなかった。

 ただの空洞と言った方が正しい。傷跡の隙間から覗くのは、暗闇が広がっていそうな空洞だった。

 狛さん本人に真実を伝えるのは辛かったけど、これは紛れもない真実であった。

 僕たちが工場で組み立てていた

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第91話「世の中はコインが決めている」

第91話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが部屋までやって来たときのことを語ろう。

 露子から居場所を聞いて、縁日かざりは朝早くから出かけた。同時刻、露子が僕に連絡を入れた。ハナちゃんは深夜から朝方まで、縁日かざりのマンションを見張っていた。

 その後、途中で切り上げてスナックに戻ってソファで一休みをしていた。

 まさか、縁日かざりが早朝から出掛けると思わなかった。それで僕たちは安心していたのだ。何故なら、彼女にスナック

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第90話「世の中はコインが決めている」

第90話「世の中はコインが決めている」

 正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。

 そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕はイマイチピンときていない。一度死んだと言われても、曖昧な言い方だったし理由も聞かされていないからだ。

「どういう意味で言ってんの。正論くん、説明しなさいよ」と声を大にしてハナちゃんが言う。

「言うなれば、ハナちゃんの中で絵馬さんは一度

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第89話「世の中はコインが決めている」

第89話「世の中はコインが決めている」

 正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥居二子は家を出て行ったきり帰って来ない。

 数年後、銀次郎がスナックを訪れる。そして、草刈華子(ハナ)へ絵馬カナエが亡くなったことを話した。

 このとき、ハナちゃんは絵馬カナエが銀次郎の愛人だということを知る。銀次郎本人から聞いたからだ

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第88話「世の中はコインが決めている」

第88話「世の中はコインが決めている」

 様子がおかしかったのは、縁日かざりだけじゃない。狛さんの様子もおかしかった。戸惑いながら、僕はゆっくりと狛さんへ近づいた。そのとき、背後でドアの閉まる音が聞こえた。振り向くと、正論くんが息を切らして入って来た。

 どうして彼がここへやって来たのか、訳も分からないまま僕は正論くんを見つめた。

「やれやれ、間に合ったような間に合わなかったような。そんな感じみたいだな。やられたよ。まさか、縁日かざ

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第87話「世の中はコインが決めている」

第87話「世の中はコインが決めている」

 駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼んだ。

 向かってる途中、正論くんへ連絡を入れたが仕事なのか出てくれない。ハナちゃんに関しては連絡先さえ知らない。下手すりゃ、ハナちゃんだって危ない。

 いや、ハナちゃんより、狛さんに連絡すれば良い。慌てて狛さんの電話番号を押した。

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第86話「世の中はコインが決めている」

第86話「世の中はコインが決めている」

 真実がわかった以上、縁日かざりと直接会って止めなければいけない。そう決意したとき、僕の胸で泣きじゃくる露子が顔を上げた。

「はじめくん、もう一つ話があるの。私、逆らうことができないから従うしかなかった」

「何か命令されたのか?」

「実は数日前、突然かざりから連絡があったの。あの日の恐怖があったから言われるままに従った。深夜のファミレスに呼ばれて、ある事をやって欲しいと頼まれたの。それを成功

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第85話「世の中はコインが決めている」

第85話「世の中はコインが決めている」

 始まりは廃墟へ行った日だった……

 廃墟へ来てから、僕たちグループは二手に分かれた。倉木先輩と神宮寺と縁日かざり。そして、僕と露子の二人。そのあと、僕と露子は身体の関係を持った。

「あのとき、部屋に入る前、物音が聞こえたのを覚えていない?」と露子が訊いてきた。

「覚えてるよ。確か、僕たちの背後で物音が聞こえた。あのときは気のせいだと思っていたけど」

「あれ、かざりが私たちを後ろからつけて

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第84話「世の中はコインが決めている」

第84話「世の中はコインが決めている」

 果たして、露子は部屋に来てくれるのか?これは一つの賭けだった。来なければ僕に対して隠し事があるということ。部屋に来てくれたら、縁日かざりと一緒に来るかもしれない。

 それはそれで核心に迫れる。

 迷った挙句、露子は部屋へ来ることを選んだ。一時間後に到着するということで、僕は待っていると言って電話を切った。

 正論くんへ報告しようと思ったが、一人で解決したかったのでやめた。それに露子と縁日か

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第83話「世の中はコインが決めている」

第83話「世の中はコインが決めている」

 せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。

 すると、テーブルの携帯電話が鳴り慌てて洗濯機の前から早足で部屋へ戻った。知らない番号だったけど、もしかしてハナちゃんかもしれない。

 そう言えば、彼女と番号交換をしていなかったな。

「はい、もしもし」電話に出ると、数秒ほど間があった。

 間違い電話

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第82話「世の中はコインが決めている」

第82話「世の中はコインが決めている」

 こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。

 工場が見えたとき、何度目かの深い溜息を零した。出入り口のチェックを受けて工場へ入る。更衣室で着替えを済ませて、持ち場に着くと生産数を目に通した。

 チラッと絵馬さんを見たが、他の社員と愉しげに喋っている。

 以前の絵馬さんに見られない光景

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第81話「世の中はコインが決めている」

第81話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。

 すると、急にピタッと泣き止んだ。あれだけ発狂して泣き叫んだ挙句、彼女は澄ました顔で虚ろな目をしている。感情の起伏が激しいとか、そんなんで片付けられない。ただただ恐怖を感じるのだった。

「ふふ、ふふふ、ごめん。ごめんなさい。私の勝手な独りよがりだったよね

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