葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂け…

葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂ければ幸いです

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小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。 気が付けば28年も働いていた。年齢も四十八歳と肌の折り返し地点に迫る。見た目は四十代前半に見られるが、年々足腰が弱くなってきてると、最近の昭子は口にしていた。 それでもレジ打ちに関しては年々速くなると言っていた。つまり昭子は歳を重ねるごとに、レジ打ちのスピードが上がっているという訳だ。 それでも日によって調子が悪い時もあると教えてくれた。尋ねると

    • 第22話「黒電話とカレンダーの失意」

       夏祭りから数ヶ月後、僕たちは初めて結ばれた。お互いに初めての経験でキズナが繋がる瞬間でもあった。  そして物語は現代に戻った……  冷暖房の効いた病室は快適で、同部屋の患者たちが思い思いに過ごしていた。飲み物を買いに行くと言って、なかなか帰って来ないチャコを待ちながら思い返した過去。  三年前の夏祭りから、僕はチャコだけを想いながら生きていた。それは至福の時間が流れては繰り返される日々だった。あの人が怪訝そうな顔をしていたけど、そんなことさえも忘れるようなチャコとの恋

      • 第21話「黒電話とカレンダーの失意」

         打ち上げ花火に夢中な二人を残して、僕とチャコはその場から離れた。  イチゴ味のカキ氷を買って、河川敷から住宅街へ向かう。二人して笑いながら蒸し暑い夜の住宅街から人気の無い神社へ着くと、石階段の途中で手を繋いだ。  チャコが薄暗い石階段に転ばないよう手を差し出した。差し出した手を力強く握って、チャコが上目遣いで見つめた。  保育園のとき、僕たちは良く二人で神社に来ては遊んでいた。あの頃と違って、二人は大人への階段を登り、成長した姿で思い出の神社へ訪れていた。賽銭箱の後ろ

        • 第20話「黒電話とカレンダーの失意」

           クラスの中で人気がある平家。クラスの中で目立たない存在の僕。そんな二人がいつも一緒に居ることを、クラスの皆は不思議がっていた。平家と仲良くなったのは小学校に入って数ヶ月後のことだった。一人でボール遊びをしているところへ、平家が声をかけて来たのが始まり。  すでにクラスの中で目立っていた彼が、どうして僕に声をかけたのかは単純な理由だった。 「お前の姉ちゃん綺麗だよな」  平家は素直な奴で、僕の姉さんに近づこうと考えて僕と仲良くなろうと計画したんだ。そんな奴と仲良くなるつ

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        小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

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        • 潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く
          77本
        • 葉桜通信
          6本
        • 読切作品
          23本
        • 琵琶湖の飛び魚と呼ばれた男
          2本
        • 山小屋の階段を降りた先に棲む蟲
          3本
        • 合作小説きっと、天使なのだと思う
          10本

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          第19話「黒電話とカレンダーの失意」

           河川敷に人が集まるのは、決まって夏祭りが行われる時期だけだった。高校三年の夏、僕は友人の平家と蒸し暑い夜を散歩がてらやって来た。地元の夏祭りなんて中学生以来だったけど、あの頃と違って夜店の数も増えて、ずいぶんと賑やかな感じに変わっていた。  人口の増加により、小さな街ながらも一大イベントして、夏祭りは大いに盛り上がりを見せていた。浴衣姿の人が行き交う中、短パンとTシャツ姿の僕たちは、懐かしい雰囲気に自然と心が弾んだ。 前日の夜、平家から誘われたとき、本音は行きたくなかっ

          第19話「黒電話とカレンダーの失意」

          第18話「黒電話とカレンダーの失意」

           その日の夜、僕は眠れなかった。チャコからの告白に胸が高鳴っていたからだ。  今から数時間前……  僕の予想通り、アパートの鍵を開けっ放しで外出していた。盗まれる物なんてないけど防犯上は良くないだろう。チャコは何度かアパートに来たことがあったので、着替えをきちんと持ってくれていた。お礼を言って、明日には退院できることを伝えた。 「そうなんだ。私ったらこんなに着替え持ってきて馬鹿ね」と頬を赤くして恥ずかしそうに言う。 「かえって邪魔になっちゃったね」 「平気だよ。でも

          第18話「黒電話とカレンダーの失意」

          第17話「黒電話とカレンダーの失意」

           僕が気になっていたことは、月乃さんが梟の棲家を教えてくれたとき、帰り際の一言だった。帰り際、彼女は僕に向かってこう言った。 『一路くん、今度会えるときは一人で来てね』と。  月乃さんが言う一人とはどういう意味だったのか?彼女はどんな意味で言ったのか知りたかったのだ。あの夜、僕は一人だった。だったら、もう一人という意味合いをそのまま受け入れるなら、もう一人は誰なのか!? 「僕の聞き間違いだったら気にしないけど、もしも違ったら、教えてくれませんか?」と僕は隣で立つ月乃さん

          第17話「黒電話とカレンダーの失意」

          第16話「黒電話とカレンダーの失意」

           二人だけの秘密と約束を交わしたあと、僕たちは屋上へ向かった。月乃さんの好意で屋上に行くことを許された。本来なら患者が屋上へ行くことは絶対に許されないけど、僕は特別に許可された形になった。 「オッケー、来ても良いわよ」と月乃さんが階段で待機している僕に向かって言った。  月乃さん曰く、一日の中で昼過ぎから三時までの間は人の出入りが少ないということ。月乃さんに続いて屋上へ上がると、予想以上の広さがある屋上だとわかった。患者が使用する洗濯物が干されており、真っ白なシーツが風で

          第16話「黒電話とカレンダーの失意」

          第15話「黒電話とカレンダーの失意」

           ベッドの脇に置かれていた松葉杖を使って、僕は病室を抜け出し公衆電話を探した。受付を通り抜けると、廊下の端っこの壁際に公衆電話を見つけた。  と言っても、誰かに連絡をしたかったわけじゃない。それに小銭どころかお金もない。場所の確認だけしたかっただけなんだ。お金のことはあとで考えればいい。それよりも心配してるのは、僕が骨折したことをあの人に伝えるべきか迷っていたからだ。  僕は慣れない松葉杖で歩きながら、人気の少ない場所を求めた。ベッドの中じゃ眠ってしまいそうで嫌だったから

          第15話「黒電話とカレンダーの失意」

          第14話「黒電話とカレンダーの失意」

           記憶の中枢に、ドブネズミが噛り付いては過去の思い出を食べてしまった。  この物語の冒頭を読んだとき、僕は物語の主人公みたいに記憶喪失になれば良いなぁと思っていたんだ。 「よっ、起きたか?」と男性の声が聞こえた。  僕は目覚めの悪いあの人みたいに、重たい瞼を開けた。周りを見渡すと、そこが病院のベッドだと理解した。窓際の男性は友達の平家で、その背後ではあの子が一緒になって心配そうな顔で見つめていた。 「どうだ気分は?痛みとか大丈夫なのか。お前、階段から踏み外して落ちたん

          第14話「黒電話とカレンダーの失意」

          第13話「黒電話とカレンダーの失意」

           僕の股の間から人影が伸びたとき、僕は姉さんのことを思い出した。姉さんが死んだあの夜のことを。  無意識に走っていた。その場から一刻も早く逃げ出したかったからだ。神秘的な場所が一瞬で恐怖の場面へと変えられた。得体の知れない何者かが僕の背後から近づいてくる。  確かめるなんて簡単じゃない。草むらを掻き分けて必死になって神社へ向かった。  アクション俳優みたいに垣根を飛び越えると、僕は黒い幹の松の木へ身を隠した。沈黙していた胸の鼓動が激しく波打つ。息を整える余裕さえなかった

          第13話「黒電話とカレンダーの失意」

          第12話「黒電話とカレンダーの失意」

           口から想いが溢れそうになったとき、僕は唇を奪いたい衝動にかられた。ほとばしる想いが胸を熱く焦がす。彼女の潤んだ瞳が何かを伝えようとしている。  ハッと我に返った!  目の前の彼女が胸元から懐中時計を取り出して、秒針の無い長針と短針をクロスさせたからだ。気持ちのクロスをはぐらかされたような気分だった。胸元から懐中時計を取り出した瞬間、肌着で隠れていた胸の谷間が目に焼き付いた。 「もうこんな時間だね。帰らなきゃ」と彼女は懐中時計を僕の方へ見せるようにかざした。  時刻は

          第12話「黒電話とカレンダーの失意」

          第11話「黒電話とカレンダーの失意」

           僕たちが林の奥へと歩き出した瞬間、草むらの下で虫たちが一斉に鳴き始めた。音色に包まれた空間は心地良いリズムで肌を触り、不思議とロマンチックな心へ変化させる。  きっとロマンチックになっているのは僕だけかもしれないけど、目の前を歩く彼女の姿に心を奪われているのは間違いなかった。  姉さんみたいな雰囲気を持った彼女。  一体、何歳ぐらいの人なのか?見た目は同い年ぐらいに見えるけど、落ち着きのある話し方やたたずまいではわからない。だけど年下とも思えない。もしかしたら、姉さん

          第11話「黒電話とカレンダーの失意」

          第10話「黒電話とカレンダーの失意」

           闇夜に包まれた林の奥から人影が見えたとき、胸に抱いていた猫が僕の腕から離れるように飛び跳ねた。素早い動きで垣根を越えて草むらの影と同化して消えた。まだ僕の目には誰の姿も確認できないけど、林の奥で彼女の声が聞こえて来た。  その様子をジッと見つめたまま待っていると、草むらを掻き分けて彼女が猫を抱いて現れた。 「あ、こんばんは。やっぱり会えましたね」と彼女が心地良い声で挨拶をして来た。  薄暗い影が彼女の顔半分を覆っていたので僕からは良く顔が見えなかったけど、数日前の夜に

          第10話「黒電話とカレンダーの失意」

          第9話「黒電話とカレンダーの失意」

           僕と一匹の猫が鳥居を潜って、静寂な境内足を踏み入れた。真っ暗な神社を見て、こんなにも不気味な雰囲気だったのかと思った。静寂すぎるのも、恐怖の兵隊が行進しているみたいだ。  足元で猫が頬をすり寄せて来たので、僕は抱きかかえて胸に抱いた。抱きしめるよう猫を胸にして、僕は見慣れた賽銭箱に向かって歩いた。今宵の月明かりは明るく、神社の屋根を照らすように光っていたが、頼りない光に寂しさが胸を締め付けた。  やっぱりあの子の姿はなかった。  辺りを見渡してみるが、あの夜と同じよう

          第9話「黒電話とカレンダーの失意」

          第8話「黒電話とカレンダーの失意」

           秋の夜長、僕は買っておいた煙草に火をつけてベランダで一服した。遠くの家から出しっ放しの風鈴がチリンと鳴っては、遠くの方で夏の蝉が鳴いているような錯覚を感じる。  この街で生まれて僕はずっとこの街に住んでいた。特に地元が好きというわけでもなかったけど、かと言って街を出て一人で暮らす余裕もなかった。  そんな勇気さえなかった。  だけど、この街が嫌いとは思っていない。夜になると静寂に包まれる街並みが好きだ。こんな風に秋の夜長を過ごすには、うってつけの静かさが漂っていたから

          第8話「黒電話とカレンダーの失意」