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第94話「世の中はコインが決めている」

 ー翌日ー

 晴天の空を見上げて、僕は大きく腕を伸ばした。なんだか伸びをしたい気分だったからだ。

 駅前に到着すると、相変わらず一人の男性が演説をしている。この街の風景も変わらない。何者かも知らない男の演説を熱心に聞いてる人たちが居る。

「よっ、おはよう」と背後から正論くんが挨拶をしてきた。

「おはよう。久しぶりに一緒に仕事ができるね」と演説をする男性を眺めなら言う。

「あの男、いつから演説してるんだっけ?素朴な疑問なんだけど」と正論くんが訊いてきた。

「さぁ、いつからだろう。随分前からだと思うよ。あの人の演説、中身が薄っぺらいから好きじゃないけどね」

「君、聞いたことがあるの?」

「マトモに聞いてないけど、大体内容が支離滅裂なんだよ。存在してるのか知らないけど、非公認の団体について演説してるんだ。要するに批判だね。暇なのか、ああやって毎朝演説をしてる」

「ふーん、何かを訴えてるわけだ」と正論くんは興味があるのか、演説する男の方を見ていた。

「まぁ良いや。ところで今回の作戦、さほど難しくはないと思うよ。だから君は偶然を装ってくれよな」と昨日話した計画をおさらいするように言ってきた。

 こんな風に正論くんは、毎回気楽に行こうという程で話す。ぶっちゃけると、それが返ってプレッシャーなんだけど……

 こうして僕たちは、作戦に向けて行動することになった。まずはいつも通り仕事をこなす。そして仕事が終わったら、作戦に移っていく。

 今回は狛さんがメインになっていた。しかも、かなり大事な役目だ。

 僕はフォローをするんだけど、ホントに今回の作戦が上手くいくのか不安はあった。

 電車に乗り仕事場へ向かって行く。今回の作戦が成功したら、かなり謎に迫れることになる。電車に揺られながら、僕は復習も兼ねて頭の中でシミュレーションを繰り返した。なんだか始める前から緊張してしまう。

 果たして、僕たちの作戦は成功するだろうか!?

 不安を抱えたまま仕事をこなしていく。相変わらず絵馬さんは、僕に対して前みたいな態度じゃなかった。だけど、絵馬さんが組み立てられた人間ならばそう思える。だが反対に、そんなわけがない。

 とも思えるのだった、

 でも、僕との記憶が無くなり、性格も変わっている。これは紛れもない真実で変えようがなかった。どこかで絵馬さんの心を戻せないか、そんなことも思うのだった。

 無事に仕事が終わり、僕はお先に工場をあとにした。今回の作戦、まず初めに正論くんが仕掛ける。話はそれからだ。

 それが上手くいかなければ、他の手を考えなきゃいけないと、正論くんは僕たちに言っていた。

「任せろよ。前も言ったけど、僕は店長のお気に入りなんだぜ。きっと成功すると思うよ」と正論くんが自信満々な顔して言う。

 確かに、正論くんは不思議と店長に気に入られている。店長も気を許しているのか、正論くんにベラベラと喋ったりしている。

 何故、二人はそこまで良い関係が築かれているのか!?

 今さらだが、二人の関係性に疑問を持つのだった。妙な疑いは、この先の信用にも関わってくる。これ以上、考えるのはやめよう。

 今夜、僕たちは店長を嵌めようとしているのだから……

第95話につづく

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