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第82話「世の中はコインが決めている」

 こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。

 工場が見えたとき、何度目かの深い溜息を零した。出入り口のチェックを受けて工場へ入る。更衣室で着替えを済ませて、持ち場に着くと生産数を目に通した。

 チラッと絵馬さんを見たが、他の社員と愉しげに喋っている。

 以前の絵馬さんに見られない光景だった。やっぱり、もう以前の鬼の班長と呼ばれていた彼女じゃない。僕と深い関係になったことも記憶として残っていない。

 正論くんの言うように、心が入れ替わったのか……

 前のことは考えないよう作業に没頭した。気を紛らしたかったし、心配事が余りにも多すぎる。工場の地下室も謎のまま。結局、僕たち素人が解決できる問題じゃなかったのか思えてきた。

 正論くん、君なら次の一手を考えているんだろう。

 仕事が終わった帰り道、やっと正論くんから連絡があった。きっと僕が失敗したことも耳に入っているだろう。だとしたら、すでに次の作戦を用意しているかもと期待するのだった。

「ごめん、失敗した!」開口一番に謝罪した。

「仕方ない。失敗したことをくよくよ考えても次に進まない。それに、あそこまで狂気とは想像してなかったよ。とりあえず、僕たちは何をすれば良いか考えてた」と正論くんは冷静に言うのだった。

「どうすれば?」

「一様、水面下で動いていた。縁日かざりのことだけど、昨日の夜から見張ってる。君の家を飛び出してから普通に自宅へ帰ったよ」

「えぇ、君、見張っててくれたのかい!それで彼女はどうしてるの?」

「まぁとりあえず、僕一人で見張るのは無理だから、ハナちゃんと交代で見張ってる。どうやら彼女、次の作戦を考えているな。今日は昼からコンビニで働いてる。しばらく下手な動きはないと思う。でも、油断は禁物だ。君、絶対にスナックへ行くようなことはするなよ。あそこがバレたら彼女のことだ。きっと狛さんを襲うだろう」

「わかってる。でも、心配だな。正論くん、君も彼女の発狂ぶりを目の当たりにしたら驚くと思うよ」と僕はそう言いながら、昨夜の出来事を思い出してゾッとするのだった。

「わかってるよ。それより、君は普段通りにしてほしい。縁日かざりの見張りは、僕とハナちゃんに任せてくれ。もう少しだけ様子を見よう」

「うん、わかった。また連絡を待ってるよ」

 電話を終えると、正論くんに言われた通り真っ直ぐにマンションへ戻ることにした。ジッと待てと言われても不安は消えない。やっぱり縁日かざりを止めなければ、この件は終わりを迎えられない。

 不安な気持ちのまま、縁日かざりの影を恐れつつ、何もせずに今日という日が過ぎ去るのだった。

そして、何事も起こらないまま二日目が過ぎたとき、僕の元へ一本の電話がかかってくるのだった。

第83話につづく

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