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第95話「世の中はコインが決めている」

「明日、店長の阿弥陀さんをスナックへ誘う。そこで狛さんの登場だ。この作戦を成功させるには、狛さんみたいな清楚な感じの女性が良いんだ。ハナちゃんはガサツだからね」と正論くんが最後にオチまでつけて言う。

「おいコラ。言い過ぎでしょう!」とハナちゃんが怒っている。

「私、大丈夫かしら?スナックの仕事なんて数年ぶりよ。でも、ママさんは平気なの」

「ママにはハナちゃんから説明してくれる。自信持って下さい。僕は店長の聞き役、狛さんは店長の気を引いて油断させる。えっと、君は……」と正論くんはそう言って、僕の顔をマジマジと見る。

「僕も何か手伝うよ。それに狛さんのことが心配だし」

「そうだな。君は偶然を装って盛り上げ役をしてくれるかな。カラオケでも良いや。とにかく常連客感を出してくれたら良い。あとは、さっき言った通りに行動しよう」

 今回の作戦、まず初めに正論くんが今夜飲もうと店長の阿弥陀さんをスナックへ誘う。正論くんは聞き役に徹しながら、スナックで働く女の子として狛さんがつく。

「でも、ホントにバックの中にあるんでしょうね?」とハナちゃんが疑いの目をして、正論くんへ訊いた。

「バックの中に入っているのは確実。だって本人から聞いてるし、いつも持ち歩いてる。しかも、キーホルダーを付けて別にしてると言ってた」

「だけど君、そんな大事なことをどうして店長は話してくれたんだよ」

 僕の質問に対して、正論くんは気に入られているからと答える。イマイチ納得いかないが、これでバックに僕たちの求めているものが有れば話は大きく変わってくる。

「とにかく今夜、僕たちは店長の持っている鍵を奪う!奪うのは狛さん、成功したら第二の作戦に移る。みんな、しっかり頼むぜ」と正論くんが耳たぶを触りながら言うのだった。

 今夜、僕たちは店長のバックに入った鍵を奪うつもりだ。その鍵こそ、僕たちに必要な鍵だった。それこそが工場の地下室の鍵なのだ!!

 そして当日、僕たちは店長を迎えようと動き出した。仕事が終わってから数時間が経ったとき、僕は作戦通り偶然を装ってスナックのドアを開いた。

 正論くんは上手く店長をスナックへ誘えたのか?ドキドキしながら、僕は店内を見渡すように覗いた。

「あら、いらっしゃい!はじめくん、こっちへ来なさいよ」とボックス席に座るハナちゃんから声をかけられる。

 予定通りなら、店長がスナックを訪問してから二時間は経っているはず。ボックス席へ座ると僕に耳打ちをしてきた。

「店長、カウンター席に居るわよ」

 チラッと横を振り向くと、確かに私服姿の店長が楽しそうに話していた。右隣に正論くん、そして、左隣に狛さんが寄り添って座っていた。

 まずは、これで第一関門突破だ。あとはバックから鍵を盗むことができたら、次への作戦に移れる。

第96話につづく

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