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記憶を紡ぐ糸

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大学3年生の時に書いた小説。記憶喪失の女性、高宮若葉が自分の失った記憶に迫るミステリー。
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記憶を紡ぐ糸 最終話「記憶を紡ぐ糸」

記憶を紡ぐ糸 最終話「記憶を紡ぐ糸」

 私は大学に行く準備をしていた。私は半年ぶりに大学に講義を受けに行くことになる。もっとも、最後に講義を受けた記憶は思い出せないでいるので、初めて講義を受けるという感覚だ。
結局、あれから完全に記憶を思い出すことが出来ていない。いつかは思い出すかもしれないし、もう二度と思い出さないかもしれない。だからと言って、もう苦悩はしないと決めた。
軽めに化粧をし、私は家を出る。私は、外を掃除していた金子さんに

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記憶を紡ぐ糸 第12話「真実」

記憶を紡ぐ糸 第12話「真実」

 今日は、じめじめとした蒸し暑い朝だ。私はいつもよりも早く目が覚めた。今日は土曜日。友一さんの仕事は今日が休みだ。私は木曜日に聞いたあの出来事を、土曜日に問いただそうと決めた。平日に聞くよりも、ゆっくりと話が出来ると思ったから。
「友一さん。私を階段で見つけた時、あなたは何をしていたの?」
 新聞を読んでいる友一さんは、「車を運転していて、偶然君を見つけたんだよ」と従来の主張を繰り返した。「本当に

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記憶を紡ぐ糸 第11話「男の正体」

記憶を紡ぐ糸 第11話「男の正体」

 私が記憶を無くしてから、五か月が経とうとしている。少しずつ記憶を思い出しているが、私はある重要なことをまだ思い出していない。私はなぜ、あの人気のない階段の下で倒れていたのかということだ。あそこは立花女子大学とは逆方向にあり、ここを通ることはまず考えられない。他の理由を探してみたが、そもそもあの場所は町の外れにあるから、行く理由が見つからない。誰かに呼び出されたのだろうか。考えれば考えるほど、堂々

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記憶を紡ぐ糸 第10話「事実の話」

記憶を紡ぐ糸 第10話「事実の話」

 予想はしていたが、実際に友人の口からそう言われると、やはり驚きは大きい。そして、恐ろしさでいっぱいになる。実際に花帆の口から出たその言葉を聞いて、私は絶句したのと同時に、背筋がぞくぞくとして不快になった。

 帰り道に後をつけられることは日常茶飯事で、ある日は玄関にキャミソールのプレゼントが置かれていたらしい。そして、一日に五回は必ず掛かってくる無言電話。そして、一日に何十通も送られてくるストー

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記憶を紡ぐ糸 第9話「再会」

記憶を紡ぐ糸 第9話「再会」

 電車で三駅乗って、降りた駅から歩いて五分ほどの所に、記憶を無くす前の私が通っていた立花女子大学がある。ここは街の中に立地していて、近くに大学が三校もある。

 私は正門から入っていく。女子大だけあって、周りは女の子しか歩いていない。非日常というか、とても異様な光景に思えた。建物は、どれも年季が入っているように見えるが、白を基調とした建物はどれも綺麗に映った。やはり私がここに通っていたからだろうか

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記憶を紡ぐ糸 第8話「ストーカー」

記憶を紡ぐ糸 第8話「ストーカー」

 この季節は七時半になって、ようやく暗くなる。私はスーパーで買い忘れた食料品を買って、辺りが闇に包まれる中、家へと帰る。

 今日は友一さんが残業をして帰ってくるので、しばらくは帰ってこない。まだ夕飯の支度をするのには、時間が残っている。

 今日は熱帯夜なのだろう。夏特有のじめじめした暑さは私を不快にさせ、早く家に帰りたいと思わせるには十分過ぎるくらいだ。

 でも、早く家に帰りたいと思わせるの

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記憶を紡ぐ糸 第7話「平嶋という男」

記憶を紡ぐ糸 第7話「平嶋という男」

 病院への外来を終え、私は病院前のバス停からバスに乗り込む。この時間は人が少なく、お年寄り四人と中年男性二人しか乗っていなかった。車内は二人のおばあさんが大きな声で喋っているだけで、後の人たちは夢の中だ。

 私はバスに揺られながら、流れる景色をただ見ている。時が流れていくような速さで、景色が移り変わっていく。全ての記憶を失ってからの三か月は、流れていく景色のようにあっという間だった。でも、断片的

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記憶を紡ぐ糸 第6話「恐怖」

記憶を紡ぐ糸 第6話「恐怖」

 私の脳裏に浮かんだ光景の話を聞いて、相沢先生は唸るような声を出した。スマートフォンが発見できなかったことが、彼を一層唸らせた。

 あれからも、何度かスマートフォンに関する光景が思い浮かぶようになった。電話をしている場面、メールをしている場面、イヤホンを差し込んで好きなシンガーソングライターの曲を聴いている場面。どう考えても、あれは私の所有物であることに間違いない。でも、見つからない。それが私た

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記憶を紡ぐ糸 第5話「過去の私」

記憶を紡ぐ糸 第5話「過去の私」

 記憶を無くす前の私が住んでいたアパートは、築十年ほどの四階建てアパートだ。古くもなければ新しくもない。茶色い外観のどこにでもある普通のアパートだ。

 私たちは管理人の金子さんが住んでいる一階の家を訪ねた。ドアを開けて出てきたのは、丸い眼鏡をかけて少しふっくらとした体型の温厚そうなおばさんだった。家の中からは、テレビドラマの音声が聞こえてくる。

「あら、若葉ちゃんじゃないの。今までどこにいたの

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記憶を紡ぐ糸 第4話「困惑」

記憶を紡ぐ糸 第4話「困惑」

 友一さんが平嶋さんを家まで送り届けて帰ってきた。私はあれからずっと、頭が混乱している。階段で倒れていたあの時に、私は携帯電話を持っていなかった。自分は携帯電話を持っていないものだと考えていたから、あの光景のように慣れた手つきで操作しているのは到底考えられなかった。

 私はそのことを友一さんに話した。彼も、困惑した表情を見せた。

「それって、若葉ちゃんは携帯を持っていたってこと?」

「分から

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記憶を紡ぐ糸 第3話「光景」

記憶を紡ぐ糸 第3話「光景」

 すっかり暗くなった頃、友一さんは同僚の平嶋(ひらじま)久(ひさし)さんを連れて家に帰ってきた。友一さんは、よく平嶋さんを家に連れてきて、一緒に酒を飲み明かすのだ。

 食卓には私が炊いた白米と友一さんが買ってきたスーパーのお惣菜、そして二人が買ってきた缶ビールとチューハイが並んだ。私たちは乾杯をして、夕食を食べ始めた。

「そういえば若葉ちゃんって、立花女子大に通ってたんだよね」

 食事と酒が

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記憶を紡ぐ糸 第2話「ある日常」

記憶を紡ぐ糸 第2話「ある日常」

 友一さんの家は、六階建てのマンションにある三階の一室だ。築十四年らしいのだが、まるで新築のように綺麗だ。

「若葉ちゃん、調子はどうだい?」

 友一さんの家に住むことになって一ヶ月が経ったある日の朝、友一さんはいつものように私に状態を聞いた。

「いつも通り……かな。まだ記憶は思い出せそうにない」

 友一さんが作った卵焼きに箸を伸ばしながら答える。彼の卵焼きは砂糖を多く入れているせいか、とて

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記憶を紡ぐ糸 第1話「喪失と出会い」

記憶を紡ぐ糸 第1話「喪失と出会い」

 人間の記憶は、糸を紡ぐように断片的な記憶を繋ぎ合わせることで成り立っている。人間の脳はそれぞれの断片的な記憶を保存して、これまでの記憶に繋ぎ合わせていく。なかなか優れた機能を持っているようだ。

 しかし、保存したはずの記憶がすべて失われたらどうなるのだろうか。思い出すものが無ければ、何も引き出すことは出来ない。

 私には記憶が無い。自分がどんな人間で、どんな人生を送ってきたのかも思い出すこと

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