#小説
緊張と喝采のはざまで
"さあ、本番だ"
コンサート開演前。僕はステージ袖で待機しながら、みんなと他愛もない話をするほんの数分間が好きだった。緊張とリラックスの境目がよく分からない数分間。一方、お客さんとステージに乗る僕たちとの境目はまだはっきりしている。開演を待つお客さんはというと、どんな演奏が聴けるのだろうか?という期待感を持っている人もいれば、全く興味がないのに何かの縁でここに居る人もいるだろう。そんな絵の具のよ
恋人に肩の毛をあげた話
泣いたのは3度だけ物心がついてから、人前で涙を流したことは3度しかない。
元来感情の起伏が少ない質(たち)だったし、何より他人の前で感情を見せることは恥ずかしいという感覚がどこかにあったのだと思う。今もそうだ。
3回の涙は、どれもネガティブな出来事の中で流れたものだったので、あまり他人に話したことはない。例えば最初の涙は人の死に関わるものだった。3度目の涙は、別れに関するものだった。
それ
『救われない』ってわかってるからこそ、『救い』を切望する私たちについて。
「やあ、最近元気?」2014年3月末日、総武各駅停車が徐行運転をするほど風が吹き荒れる日曜日の18時。JR御茶ノ水駅前のHUBの、スピーカー直下のテーブル席にて。 私は3か月と8日ぶりに会う青年に向かって声を放つ。そして、日用品がたっぷり入るほど大きいヴィヴィアンウエストウッドのトートバッグの中に手を突っ込み、アメリカンスピリット1㎎のオレンジの箱と蛍光緑のライターを探りだす。
「元気じゃない