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【連載ごっこ】この頃都に流行るもの、ぴえんカラコン敗北感

元々服は、着飾るために生まれた訳ではなく、皮膚を守るために生まれたものだ。だから過度な露出をしない私の方が、清純で生真面目、それこそ真の着こなしに違いない。はずなのに。

華の女子大生になったというのに、夏冬兼用のジーパンに好きなYoutuberやバンドのTシャツばかり着ているので、先日近所のファミレスで行われた「中学の同級生の女子、大学デビュー自慢大会」にて、開始五分で「でも個性的だよね、変わらないね」などと遠回しな罵声を浴びせられてしまった。

【現代女子の辞書】

でも個性的だよね:ダサいの意。「(ダサいと思う)でも、個性的(とでも言っておこうか)」の略。
変わらないね:中学校の頃から相変わらずお前はダサいな。




「第一ラウンド:え!可愛くなったじゃん言い合い」で一人負けし立ち上がれなくなっていた私は、メニューを注文する前にどうやってここから抜け出そうか考えているところだ。
とりあえず、「ハルちゃんは何頼むの??」と早く選べよ通告をされないように、うつむき加減でじっとスマホのロック画面をみつめていた。

必死に脳みそをフル回転させていたそんな時、足の裏にに妙な違和感を感じた。
平らなはずの床が抜けているような、そんな感覚だ。なんだ??
不思議に思って机の下を覗き込んでみると、机のちょうど真ん中に位置するところに人が一人通れるくらいの穴が空いていた。
え、この店欠陥やん。大丈夫か??
結構大きい穴なので、他の同級生たちも気づいているのではないかと見回したが、話に夢中で誰も気づいていないようだった。
よし、これを今みんなに言えば、私はこのグループの話題を総なめに出来る。

「なんか……」

下に変な穴あるんだけど。と言いかけて、やめた。
冷静に考えて、そんなはずがない。もしもこの穴が私だけにしか見えていなかったとしたら、私は今度こそおだぶつになってしまう。

そこで私は、一度この穴の歴史について思いを馳せることにした。この穴は生まれる背景には、きっとなにか理由があるはずだ。
私はスマホをいじるふりをしながら、目だけを穴の方へ向ける。
まるで子供が作った落とし穴のように無造作で、それでいてしっかりとした広さのある穴。
入ってみないとその深さはわからないが、穴の中は結構な黒さだ。深いかもしれない。

あ、待てよ。
もしやこの穴は、女子会や合コンでの初戦敗退者が逃げるために掘った穴だったりして??

どうしてもこの場から立ち去りたい。だって明らかに俺の事見てねぇもん。だって真ん中に座ってんだぜ?でもこちらをちらりとも見ないってヤバくね??
でもここで帰ればみんなの話題が一旦止まるし、今後二度と呼ばれないという悲劇も十分起こり得る。どうしよう。帰りたい。
空気を読みに読んだその参加者の足は、ドリルの如く激しく揺すり動いていた。
あーあ。貧乏ゆすりで床に抜け穴出来ねえかな。そしたら気づかないように外出れんのにな。
だがその期待も虚しく、結局その日彼が合コンを抜け出すことは出来なかった。
そうして来る日も来る日も敗退者によって床は擦られ、月日が経ち、机の下には大きな穴ができた。
話に夢中になっているものには気づけない敗北者にだけの苦悩が、悲しみが、ここに込められているのだ。

私はそんな敗北者たちの努力に胸を打たれた。歴代の冴えないみんな、本当にみんなありがとう。私、ここから出るね。
仲間の期待を一心に受け地下から抜け出すカイジのような気持ちで、私は椅子を少しばかり引き、穴に足を入れた。

その瞬間シュポン!と気持ちいいくらいに抜け穴に吸い込まれ、ウォータースライダーのようにスルスルと流されていくと、やがて一筋の光が見えた。
あまりの眩しさに目をつぶる。
その直後いっしゅんおしりが浮くような感覚の後、どしん!と尻もちをついた。

目を開けるとそこはファミレスの裏手の駐車場。
勝った!!!!!抜け出した!!!!!
いつもは鬱陶しいセミの合唱が、勝利のテーマのように聞こえる。
帰ろう。ジーパンに付いた泥を払いながら小さなガッツポーズをした私は、意気揚々と歩き出したのどった。



「ハルちゃんは何頼むの??」
はっと気づくと、みんながメニュー早く決めろよと言いたげにこちらを見ていた。
ああ、やっぱり脱出失敗か。
「ミ、ミラノ風ドリアで。」
私の足は、激しく揺れ動いていた。

えいの・はる
大学生(18)。空想と妄想が趣味。最近占いで「OLだけは向いていない」と言われる。ブレイク時期未定。夢は雑誌連載とANNをやること。

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