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老人と赤い花柄の傘

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この物語は人にはターニングポイントがあると思い描きました。 主人公の私(シュニン)はやる気がない人ですが老人に会って会えなくなって自分を変えていく話です。 お時間よろしければどう…
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小説 老人と赤い花柄の傘11 終雨

小説 老人と赤い花柄の傘11 終雨

『次は天気予報です。今日の天気は晴れのち曇り、にわか雨があるでしょう。
傘を持ってお出掛けください。』

そろそろ昼のニュース番組が終わる時間だな。
私は「よいしょ」とソファーから立ちあがる。
腰を擦ると「歳には勝てんな。」
独り言を言った。
ピンポーンとチャイムが鳴った。
鍵がガチャガチャと開き玄関のドアが開く。
「じいじい。」
可愛い声が聞こえてきた。
「お父さん。公園に行くでしょう。
傘持っ

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小説 老人と赤い花柄の傘10  十雨

小説 老人と赤い花柄の傘10 十雨

「頑張ったな。」
「また頑張ればいいよ。」
最近これが私の口癖になっている。
春の人事で課長に昇進した。
客先からの打ち合わせも徐々にリモートから対面に変わっていく。
あの公園の近くの客先もそのひとつだ。
私はこの日、新調したグレーのコートを着て客先に向かった。
思ったより打ち合わせがスムーズに終わった。
久々の仕事終わりの解放感もある。
しかも、今日は季節外れの暖かさだ。
あの公園に老人がいるか

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小説 老人と赤い花柄の傘9 九雨

小説 老人と赤い花柄の傘9 九雨

年が明けた。
年末年始には毎年実家に帰ると決めていたが、今年はステイホームが呼び掛けられている。
私はあっさりと諦めた。
母親と姉にはあけおめメールをした。
母からはすぐに電話がかかってくる。
いつも通りのすごいアツだった。
ほぼ質問、いや詰問だ。
母に勝てるとは思えない。

書店の彼女からメールがきた。
“バレンタインに宜しければ書店に来てください”
“はい。わかりました。必ず伺います。”
すぐ

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小説 老人と赤い花柄の傘8 八雨

小説 老人と赤い花柄の傘8 八雨

休日の真昼の電車はかなり空いている。
今の時期は尚更か。
私は朝の夢の続きを思い出していた。
確かあの赤い花柄の傘の事を聞いたような聞いてないような。曖昧だ。
私は自分の記憶の悪さに嫌気が差す。
なんだかんだ思いながら会社に着いた。
会社の自販機でブラックの缶コーヒーを1本買う。
自分が飲む為のものではない。
(やっぱり居ると思った。)
職場のデスクにつくと後ろの席の同期が休日出勤していた。
よく

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小説 老人と赤い花柄の傘7 七雨

小説 老人と赤い花柄の傘7 七雨

「デジャブか?」
夢の中で呟いた。
公園の木々も紅く色づいてきた頃、大きめの受注を貰えたので報告がてら私は老人がいるかも知れないあの公園に足を向けた。
老人は孫のボクとボール遊びをしていた。
「こんにちわ。」
私は老人に挨拶する。
老人は「こんにちわ」と返してくれた。
「今日はちょっと大きい仕事が貰えたので報告にきました。」私が誇らしく言った。
「良かったですね。」と笑顔で老人が言葉を返してくれた

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小説 老人と赤い花柄の傘6 六雨

小説 老人と赤い花柄の傘6 六雨

家に着くと買ってきた雑誌と本を黒い革の鞄から出してソファーにポンポンと置いた。
いつも通りに洗面所に行くと手洗い、うがいをする。この生活にだいぶんとなれた。
Tシャツ短パンに着替えるとキッチンに行く。
「疲れた。金曜日だもんな。」
独り言を言いながらスーパーで買ってきた食材をエコバッグから出すと冷蔵庫に卵、ビールをポンポンリズムよく入れる。

「腹減ったな。白飯あるし卵と、、、。
確かカニカマがま

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小説 老人と赤い花柄の傘5 五雨

小説 老人と赤い花柄の傘5 五雨

17時になった。定時で今日は仕事はオワリだ。
早々と帰宅の用意を始めた。
「お疲れ様でした。お先に失礼します。」
勢い良く私は会社を後にした。
平日は朝が早いのでアルコールはやめてノンアルコールにしている。
週末は誰に気兼ねなくアルコールが飲める。
大人の楽しみだ。ウキウキだ。
会社の近くのスーパーに寄る。
ここはビールが他の店より安くて金曜日は特売の品が結構ある。
自分は買い物上手だなと思い感心

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小説 老人と赤い花柄の傘4 四雨

小説 老人と赤い花柄の傘4 四雨

相変わらずの出勤風景だ。
夏の朝はいいのだけれども冬になるときついな。いつも通りの朝7時台の電車に乗った。
通勤客は疎らだ。在宅もいるしな。
学生は夏休みに入ったか。羨ましいな。
社会人20年程のやつが言う言葉じゃない。
もう一人の私が呟く。ああ、その通りです。
私は何となく頭の中で独り言を言った。
テレビニュースやネットニュースを見てはため息をつく日が多い。
こうなる前にあの公園に行けば良かった

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小説 老人と赤い花柄の傘3  三雨

小説 老人と赤い花柄の傘3 三雨

「もしもし、俺やけど。」
「俺って誰や?詐欺やな。お断りやで。」
私は久しぶりに母に電話した。

「詐欺って息子に酷いやん。俺ってわかってるやろ。番号出たるし。」
私が言うと母は大爆笑して「ごめん。」と謝る。立て続けに質問した。
「どうしたん?珍しいやん。あんたから電話なんて?具合悪いんか?仕事大丈夫か?彼女できたん?結婚すんのか?」

「ちゃうちゃう。大丈夫や。何から答えんねん。
いっぺんに言う

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小説 老人と赤い花柄の傘2  二雨

小説 老人と赤い花柄の傘2 二雨

「じゃあ、管理職だったんですか?」
私が老人に聞くと遠慮がちに答えが返ってきた。
「部長まではいきましたね。
ワタシなんて務まるかなと思ってましたけど、何とか定年までは頑張れました。」

「凄いですね。僕なんてまだまだ主任止まりですよ。羨ましいです。」
私の言葉に「まだ、お若いから。」と老人は言う。
若いとは言う歳ではないが40歳は老人にはまだまだ若造かもしれない。

それから、老人と私は時々この

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小説  老人と赤い花柄の傘1   
一雨

小説 老人と赤い花柄の傘1 一雨

老人と赤い花柄の傘🌂  一雨

「しまった。電車行ったか。」
駅の改札口で立ち止まった。
私は会社に一度戻るのを諦めた。

“打ち合わせが長引いたから*午後一の会議は欠席します。そのまま客先に行きます。”
と会社にメールを送る。
”分かりました“とだけ返信が早く返ってくる。

駅のコンビニで昼食のおにぎりと緑茶を買うと、駅の近くの少し大きな公園を見つけ日陰のベンチに腰掛けた。

風が心地よく木々

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