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小説 老人と赤い花柄の傘4 四雨


この生活にも慣れてきたつもりだけど。
マスク生活、相変わらずの時差出勤、在宅勤務
見えない敵との戦い。いつまで続くのか。
↓三雨🌂です。
お時間よろしければよろしくお願いいたします

家飲み生活。
姉からつまみレシピは難しくて無理。
何となく疲れた日々。
人と人との距離ってなんだ?

相変わらずの出勤風景だ。
夏の朝はいいのだけれども冬になるときついな。いつも通りの朝7時台の電車に乗った。
通勤客は疎らだ。在宅もいるしな。
学生は夏休みに入ったか。羨ましいな。
社会人20年程のやつが言う言葉じゃない。
もう一人の私が呟く。ああ、その通りです。
私は何となく頭の中で独り言を言った。
テレビニュースやネットニュースを見てはため息をつく日が多い。
こうなる前にあの公園に行けば良かったな。
でも、老人には会えないだろうな。
なんやかんや考えながら改札を出る。
マスクをしているから体の至るところから汗が吹き出しそうな気がする。
目の前に小柄な女性が何かを必死で探している。
ロングスカートが地面につく程屈んでいる。
私の足元に小さな黒い革の小銭入れが落ちている。ヨレヨレだが、高価な物かな。
まさかね。と思いながら女性に話しかけた。
「これですか?落とされたのは?」
私が持っている黒い小銭入れを見ると女性は甲高い声を出した。
「有り難うございます。」
「いえいえ。では。」
私はそう言うと通り過ぎた。
暫く歩くと後ろを振り返った。
もう女性は居なかった。
私は会社へとまた歩き出した。

会社ではリモート飲みとやらが流行りらしい。
朝から後輩達が盛り上がっている。
毎日、毎日、毎日、嫌と言う程会っているのに何を話すんだよ。
意味わからん。訳がわからん。

昼休憩に隣の席の女性社員が家飲みの特集をしている雑誌を見せてくれた。
鶏の唐揚げにマヨネーズとソースがかかっている。そんな感じの料理だ。
「うまそう。」それを見て私が言う。
「うちの旦那がこういうの好き。」
綺麗な真っ赤なつけ爪で写真に指をトントンと差しながら言う。
彼女の旦那さんはコッテリ系が好きなのか。
「でも、難しいそうだな。」
私が言うと彼女は笑いながら言う。
「買ってきた唐揚げを刻んで和えるのよ。」
「なるほどね。やってみよう。」
私は簡単なやり方がいいなと思ってしまった。
姉からのつまみレシピは本格的なもので私には難しい。こう情報ありがたいな。楽だしな。
雑誌のページをめくると里芋の煮っころがしが載っている。
ふと、老人との会話を思い出した。
あれって仕事で失敗した時だったな。確か。
だいぶん前に感じるな。あの公園、あのベンチ。
今みたいな季節だったかな。
少し涼しい日だったな。
記憶が鮮明に戻ってくる。
 

『はぁ。』私は大きなため息をついた。
『どうかなされたんですか?』
老人は私に優しく聞いた。
『ちょっと仕事で失敗してしまって。』
私が言うと老人は突拍子も無い事を話始めた。
『ワタシ、里芋の煮っころがしが好きでしてね。
自分で初めて作った時は失敗してしまって。』
内心私はそんな話はどうでもいいのにと思ってしまった。老人は話を続けた。
『 外は真っ黒で中は固いし、苦いわ焦げ臭いわで食べれたものではなかったですけどね。
食べてわかったんですよ。失敗した原因がね。
次はどう作ればいいか。何が悪かったのか。
どうしたら上手く出来るのか。
仕事も同じですよ。失敗をして気づくんですよ。
あなたは失敗した事をちゃんと深く考えいるから悩んでいる。だから大丈夫。大丈夫。』

あの言葉があって必死に噛み締めてあの時に仕事したんだよな。
老人は何故あんなに親身にしてくれたんだろう?今だにあの人は奥が深い。

「ねえ。聞いてる。ねえ、てば。」
隣の席の同僚の女性社員の声で我に返った。
「これが二番目に旦那が好きなつまみで、これが三番目で、、、。」
散々ノロケ話を聞かされて最後にやっと雑誌の名前を聞けた。
雑誌の表紙を携帯の写真に撮らせてもらった。
昼休みが終わる。

「今日は*早帰りデー*だから、定時で帰るようにね。宜しくお願いしますね。」
課長が皆に言った。
私は仕事に戻った。
帰りに食材とビールを買ってどこかの書店に寄ってあの雑誌を買う事にした。

五雨🌂に続きます
*早帰りデー*  企業が決めた残業ゼロの日

あとがき
老人と赤い花柄の傘 四雨🌂お読み頂き有り難うございました。
どなたかの目にとまれば幸いです。
一雨🌂 二雨🌂 三雨🌂 お時間よろしければよろしくお願いいたします。

おまけ   睡魔と戦いに負けそうなかえでです

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