小説 老人と赤い花柄の傘3 三雨
「もしもし、俺やけど。」
「俺って誰や?詐欺やな。お断りやで。」
私は久しぶりに母に電話した。
「詐欺って息子に酷いやん。俺ってわかってるやろ。番号出たるし。」
私が言うと母は大爆笑して「ごめん。」と謝る。立て続けに質問した。
「どうしたん?珍しいやん。あんたから電話なんて?具合悪いんか?仕事大丈夫か?彼女できたん?結婚すんのか?」
「ちゃうちゃう。大丈夫や。何から答えんねん。
いっぺんに言うなよ。俺の話を聞けよ。」
一息ついてやっと言える。
「それより、ごめんな。親父の七回忌いかれへんかって。」
私は電話越しに弱気な声で言うと母は優しく言った。
「ええよ、そんなん。内々で済ましたしお姉ちゃんが手伝ってくれはったしな。
世界中、こんな流行り病やねんから、しゃあないわ。それより、あんたちゃんと食べてるん?
また、あんた。ええ加減な生活してるんちゃう?
コンビニ弁当とカップ麺ばっかりやったらあかんよ。ちゃんと自炊してるんか?」
(姉ちゃんね。メール返してない。怒られるな。)
私は4つ上の姉の顔を思い浮かべた。
それにしても母には敵わない。一生勝てない。
絶対に無理だ。
ゴミ箱の中身を見られているのかと思い聞いた。
「お母さん、もしかして俺んち見えてんの?
千里眼か。透視してんのか。」
「見えてんで。あんたのお母さん40年ちょいやってんねんで。わかるがな。どうしたん?
あんた、何かあったんか?話なら聞いたるよ。」
母の問いに公園の老人の話をした。
「おじいちゃんも元気でいてくれはるとええな。
でも、お母さんの事もちょっとは心配してや。
お母さんかてな。お母さんかて、レディやで。」
母の言葉に転びそうになる。
「レディって誰が?」
「わたし、わたし。」
私の突っ込みに母はホッとしたのか心配そうな声になる。
「あんた、*鼠にひかれへん*ようにしいや。
また、電話するし、たまには電話してきいや。」
「ありがとうな。気つけや。ちゃんと手洗い、うがいしいや。マスクしいや。
ソーシャルディスタンスやで。そこらじゅうで喋り捲ったらあかんで。」
私は偉そうに母に言ったら倍にして返ってくる。
「あんたもな。気つけや。ちゃんと自炊しいや。レシピをメールで送ったるしな。簡単なやつ。
ちゃんと寝なさいよ。じゃあね。」
と一方的に電話が切れた。
いつも事だがアツが凄い。
でも、よくわからないとてつもない不安が湧いてくる気がした。
急に寂しさが襲ってきた。
怖いぐらいに何かの不安。
あの老人に会いたくなった。
他愛のない話をしたいと思えた。
公園の穏やかな時間が愛おしくなる。
私は我に戻った。母の言葉を一人呟いた。
「鼠にはひかれない。」
(*一人でいると寂しくなり良くないことばかりかんがえてしまうこと。)
時間だけがどんどん過ぎる。
次第に在宅勤務から時差出勤から普通出勤に変わった。
自宅で飯を作る。母のレシピの献立表。
カレー、肉じゃが、シチュー、
チャーハン、ハンバーグ、焼き魚、味噌汁
色々作れるようになった。
母と姉に写真付きのメールを送る。
かわいいスタンプが返ってきた。笑った。
笑うっていい事だと心の底から思った。
そして年が明け、季節が進んで春夏がさっと駆けていく。
やっとあの公園に行けるようになったのは木々が紅葉を始めた頃だった。
四雨🌂に続きます。
おまけ かえで寝たふりです。
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