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小説 老人と赤い花柄の傘6 六雨



手洗い、うがい、夕飯づくりのルーティン
一人晩酌はじまりはじまり。
独り言は楽しみのひとつ。
深酒注意。パンドラの箱注意。トラウマ注意。
そして夢の中へ入っていく。

家に着くと買ってきた雑誌と本を黒い革の鞄から出してソファーにポンポンと置いた。
いつも通りに洗面所に行くと手洗い、うがいをする。この生活にだいぶんとなれた。
Tシャツ短パンに着替えるとキッチンに行く。
「疲れた。金曜日だもんな。」
独り言を言いながらスーパーで買ってきた食材をエコバッグから出すと冷蔵庫に卵、ビールをポンポンリズムよく入れる。

「腹減ったな。白飯あるし卵と、、、。
確かカニカマがまだあったような。」
私は冷蔵庫の奥にひっそりといるカニカマを見つけた。「みっけた。」

「さてと、作りますか。天津飯風天津飯。」
最近独り言が酷いが気にしない。気にしない。
冷蔵庫に入れたばかりの卵を二つ取り出した。
熱したフライパンにといた卵を流し入れた。
ジューといい音がする。
カニカマを入れてと。
甘酢は鶏がらスープの素と水、酢、醤油、砂糖それとケチャップを鍋に入れて適当に煮詰めて片栗粉をといて入れるとそれなりにはなる。
我流だがまあまあの味にはなった。
白飯の上にこんがり焼いた卵を乗せ、甘酢をたっぷりとかけた。
鶏の唐揚げは適当に刻んで残った甘酢にケチャップをちょっと足してツケダレ風にした。

「再利用だな。それとビール。ビール。」
買い置きしたのがまだあったな。
冷蔵庫をあけて奥のほうから出した。

宴会の始まりだ。
ソファーの前のテーブルに天津飯と唐揚げとビールを並べる。
「いただきます。」
手を合わせて言う。
まずはビールを缶を開けてグビと飲む。

「あー。生き返る。」
このはじめの一口が最高だ。
白飯大盛の天津飯をスプーンで掻き込んだ。
うまっ。止まらんな。
腹が減ってたから一気に食べてしまった。

ビールをゴクゴクと飲み干した。
冷蔵庫から買ってきたビールを2本取り出すとチーズ、スナック菓子もついでに持ってきた。
食べた後の皿とスプーンを流しにおいて何だかんだか複雑な気持ちになる。
少し酔いが回る頭でひとりで笑う。
「誰が洗うんだ。俺か? 俺しか、、いない。」
「しょうもなっ。」と独り言を言いながら仕方なく洗い物を始めた。
皿とスプーンを洗うとフライパンと鍋を続けて洗った。
少し寂しい気持ちになった。

ソファーに背をもたれながら二次会を始める。
甘酢唐揚げをパクパクと口に運び、ビールをグビグビと勢い良く飲んだ。
チーズ、スナック菓子を開けてビール。
「あっ、雑誌と料理本。忘れてた。」
ソファーにおいた本を不意に思い出しパラパラと見た。

携帯のメール音がした鳴った。母親からだ。
「何?ナニ?」とか言いながらチーズを食べ携帯を見る。
母親と姉の酔っぱらう写真が送られてきた。
「誰が見たいねん。こんな写真。」
笑いながら誰もいない部屋で言った。

ソファーに上がり寝転ぶと天井を見る。
何気なく“書店の彼女”を思い出していた。
可愛かったな。マスクしてたけど可愛かったな。
(30ぐらいかな。歳。俺より10こぐらい下かな。
10年前、俺、何してたっけ。
彼女いてた。33で主任になって。
親父亡くなって。
35で、、35でプロポーズして、、、。)

「あなたとの未来が見えないの。」
呆気なくフラれた。
6年の交際は終わった。

暫くして私たち結婚しましたのハガキがきた。
別れて1年もしないうちに元カノはただのサラリーマンと結婚した。
普通の人。仲良く並んで笑顔で映る写真。
あんな笑顔見たことなかった。
俺が見たことなかった笑顔のハガキ。


俺と同じ”ただの人”。
何の変哲もない“ただの人”。
スーと息を吐く。涙が流れて髪に落ちる。
今日は酔いが回るのが早いのかいらない記憶が次から次へ巻き戻す。
「将来って。 あいつとはあんのか?
俺って俺ってなんだよ!お前の何?」
天井に向かって言う。


そして、いつの間にか眠ってしまった。
夢にあの懐かしの風景。
公園とベンチと老人。
老人の優しい声。

私は眠りに堕ちていく。

七雨🌂に続きます

あとがき
老人と赤い花柄の傘 六雨🌂お読み頂き有り難うございました。
どなたかの目にとまれば幸いです。

↓五雨🌂です
お時間よろしければよろしくお願いいたします


おまけ  ヒーター満喫 かえで


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