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小説 老人と赤い花柄の傘5 五雨

日々の生活、仕事、制限がある相変わらずだ。
何となく入った書店に思わぬ出会い。
金曜日は家飲みタイム。自分だけの楽しみ。
あの公園あの老人どうしてるかな。

17時になった。定時で今日は仕事はオワリだ。
早々と帰宅の用意を始めた。
「お疲れ様でした。お先に失礼します。」
勢い良く私は会社を後にした。
平日は朝が早いのでアルコールはやめてノンアルコールにしている。
週末は誰に気兼ねなくアルコールが飲める。
大人の楽しみだ。ウキウキだ。
会社の近くのスーパーに寄る。
ここはビールが他の店より安くて金曜日は特売の品が結構ある。
自分は買い物上手だなと思い感心してしまった。
カット野菜と肉類はやめておく。
それは家の近くのスーパーの方が安いから休みに買うことに決めている。
ビール、卵、チーズ、菓子、惣菜の唐揚げを買い物かごに入れる。
会計を済ませて母がくれた緑のエコバッグに食材を詰め込んで店を出た。
暫く歩くと小さな書店が目についた。

あんな所に本屋ってあったかな?
今まで気づかなかったな。ここで雑誌を買うか。

店内に入ると涼しい空気が顔にあたる。
生き返るな。外の暑さが嘘みたいだ。
店内を見渡した。
小さな書店だが品揃いがいい。
小さなカフェもある。
「ふう。」とマスクの鼻先を指先で緩める。
落ち着いたところで料理本コーナーを探した。
大きく表示された看板に料理と書いてある。
陳列された沢山の料理本が並ぶ。
スマホの写真を見て探す。
「あれ?無いな。」独り言を呟いてしまった。
後ろから女性の声が聞こえた。
「お客様、何かお探しですか?」
私は振り向いた。
朝のヨレヨレ小銭入れを探していた女性がいた。
よく見たらターコイズブルーの書店の名前入りエプロンをしている。
振り向いた私を見て彼女は「まあ。」と驚いた。
「朝は有難うございました。大切なものだったので助かりました。」
彼女の言葉に私は不思議に思ってしまったので聞いた。
「僕は何も。あの小銭入れ年代物でしたね。」
「そうなんです。父の形見なので随分古いものなんです。」
私は悪いことを聞いてしまった気がして「そうなんですね。」とだけ言った。
「料理本をお探しですか?」彼女はハキハキと聞いてくれた。
「これなんですけど。」
私はスマホの写真を見せた。
彼女はスマホを覗き込んだ。
「あ、これはバックナンバーですね。少々お待ちください。」
小さなタブレットで何かを確認して私に言った。
「まだあるようですのでレジにお手数ですがこれをお渡しください。」
手にはいつの間にか書いた付箋のメモを私に渡して言った。
「あの。」と彼女は声のトーンが上がる。
「朝のお礼がしたいのですが、何かお好きな物はございますか?」
私は丁重に断ると彼女は申し訳さそうな顔をした。気の毒なので私は彼女に聞いた。
「じゃあ。じゃあ。この中で一番簡単な酒に合うようなおつまみの本ってありますか?」
「はい。えっと。これですね。」
彼女は少し背伸びをして一冊の本を取った。
「最近出たんですが美味そうで直ぐに作れちゃいそうなおつまみが載っててわたしも持ってるんです。」
そう言いながら彼女の顔がぱっと明るくなる。
本が好きなんだなと感じた。

「すいません。これ、いくらかね。」
隣にいたかなり高齢な男性が彼女を呼んだ。
「どうぞ。行ってください。」
私が言うと「ごめんなさい。」彼女は頭を下げて隣の客のところに行った。
高齢の男性を見てあの公園の老人は元気かなと心の中で独り言を言った。
私はお目当ての雑誌と彼女オススメのおつまみ本を買うと書店を出て駅に向かった。

また暑さがまとわりつく。
いつもより早い電車に乗る。
まだまだ活気がある太陽が窓に当たる。
(書店の彼女可愛かったな。)
私は自分が思ったことに心の中で首を振った。
(もう、コリゴリだしな。あんな想い。)
自分の気持ちに蓋をした。
パンドラの箱を開けない。そう決めたんだ。

六雨🌂に続きます

あとがき
老人と赤い花柄の傘 五雨🌂をお読み頂き有り難うございました。
どなたかの目にとまれば幸いです。
六雨🌂もよろしくお願いいたします。

↓四雨🌂お時間よろしければよろしくお願いいたします

おまけ  かなりのお疲れ様のかえで

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