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小説 老人と赤い花柄の傘8 八雨

忘れ物は何かの偶然。必然。
恋の出会いはいつも偶然。必然。
あなたとの出会いはいつも突然。偶然。必然。
↓七雨🌂です。お時間よろしければよろしくお願いいたします。

休日の真昼の電車はかなり空いている。
今の時期は尚更か。
私は朝の夢の続きを思い出していた。
確かあの赤い花柄の傘の事を聞いたような聞いてないような。曖昧だ。
私は自分の記憶の悪さに嫌気が差す。
なんだかんだ思いながら会社に着いた。
会社の自販機でブラックの缶コーヒーを1本買う。
自分が飲む為のものではない。
(やっぱり居ると思った。)
職場のデスクにつくと後ろの席の同期が休日出勤していた。
よく一緒に飲みに行ったりするやつだ。
パソコンを見ながらぶつぶつ言ってる。
「よ。」と背中を軽く叩き買った缶コーヒーを机の上に置いてやった。
同僚は「びっくりした。」と慌てて振り返る。
「お前も休出?」とかけていた眼鏡をハンカチで拭きながら置いてやった缶コーヒーに気づいた。
同期はサンキューと言いながらカパッといい音をさせて缶コーヒーを開ける。
「俺はこれを取りにきただけ。」
書類をデスクの引き出しから出しながら言う。
「お前、早く帰れよ。休出なんかしてたら査定に響くぞ。色々と今はうるさいんだからさ。
じゃあな、俺、帰るわ。」
私はそう言うと同期は缶コーヒーを一口飲んで、
「これ、サンキューな。」と真っ赤な目で二回も礼を言われた。
「おう。」と私は言いながら職場を出た。

私は会社を出て昨日の書店に足を向けていた。
「なんか疲れたな。」独り言を出てしまった。
アルコール消毒をして店内に入ると書店が経営している小さなカフェでアイスコーヒーを頼んだ。
メニューは豊富にある。モーニングもある。
ここはセルフサービスらしい。
店員が「有り難うございまいました。ごゆっくりどうぞ。」と雑にトレイを差し出す。
会計を済ませて窓側のカウンターの端っこに座った。一人一人のアクリル板がある。
何だか世知辛い世の中だと感じた。

アイスコーヒーにストローをさして一口飲んだ時横で女性の声がした。
「隣、いいですか?」
書店の彼女だった。
私はどうぞどうぞと手でジェスチャーした。
「今日はお仕事だったんですか?」
書店の彼女は座りながら私に聞いた。
アクリル板ごしに彼女を見て私は首を横に振る。
「忘れ物して会社に取りに来たんです。」
私は言った。
彼女はピアスに引っ掛からないようにゆっくりと気遣いながらマスクを外した。
思った通りの可愛い、いや綺麗な人だ。
私は彼女の横顔を見つめてしまう。
駄目だ。自分に言い聞かせると前を向いた。
氷のカランと良い音がした。
彼女はアイステイをかき混ぜながら聞いた。
「会社はお近くなんですか?」
私は「はい。」と言うと暫く沈黙がある。
窓の外の行き交う人をボンヤリと見てる。

「あの。」二人同時に言った。
どうぞどうぞと譲り合う。
目を合わせて笑い合った。
「私は仕事がお休みだったんですけどカフェでゆっくりしたくて、、、。」
彼女が嬉しそうに言う。
「僕もです。」
彼女も私も照れながら微笑んだ。

それから私は仕事帰りや休みの日に時々、書店に行くようになった。
待ち合わせしてないのにこの席で彼女に会うようになっていく。
季節が夏から秋になっていった。
その内短い秋の時間を長い冬が占領していった。
長袖シャツからコートの季節が巡ってきた頃には私と彼女は連絡先を交換するようになっていた。

あの時の夢。赤い花柄の傘の話。
私は老人の言葉を思い出した。

『大事な人が好きな物や好きな場所はいつしか自分の好きになるんですよ。
家内の好きは私の好きになりました。
あなたもきっとそう方ができますよ。』

私はその言葉を今の自分に重ねた。
パンドラの箱が勝手に開いてしまった。
私の意思とは正反対に恋心は押さえられない。
九雨🌂に続きます。

あとがき
老人と赤い花柄の傘 八雨🌂お読み頂き有り難うございました。
どなたかの目にとまれば幸いです。
九雨🌂も宜しくお願い致します。
↓七雨🌂です。お時間よろしければよろしくお願いいたします。

おまけ  ヒーターはあたしのモノです。
               譲りませんよのかえで。

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