小説 老人と赤い花柄の傘7 七雨
「デジャブか?」
夢の中で呟いた。
公園の木々も紅く色づいてきた頃、大きめの受注を貰えたので報告がてら私は老人がいるかも知れないあの公園に足を向けた。
老人は孫のボクとボール遊びをしていた。
「こんにちわ。」
私は老人に挨拶する。
老人は「こんにちわ」と返してくれた。
「今日はちょっと大きい仕事が貰えたので報告にきました。」私が誇らしく言った。
「良かったですね。」と笑顔で老人が言葉を返してくれた。
「おじいちゃん、つまんない。」
老人のボールのパスが弱いのかボクが口を尖らしてしゃがんで拗ねる。
「ごめん。ごめん。」
そう、孫に言うと老人は申し訳なさそうにした。
「じゃあ。おじさんが相手になるよ。」
ボクにしゃがんで言った。
「甥っ子がいて実家に帰ると遊ばされていたんですよ。もう、中学生なんですけどね。」
続けざまに笑いながら言うと老人は納得したような顔をした。
鞄と白い会社の紙袋をベンチに置く。
「シュニンとやる。」
ボクのワクワクが伝わる。
老人は私に頭を下げてベンチに「よいしょっ」と座った。
「すいませんね。せっかくのお昼休みなのに。
会社にすぐに戻らないといけないでしょう。」
「いえいえ、ほら行くよ。」
私はボクに緩くボールを蹴る。
「僕はあまり会社に期待されてないんで。
それに今は休憩時間ですしね。大丈夫ですよ。」
老人は「いやいや、そんな事はないですよ。」と首を横に振った。
ボクは思ったよりも強めにボールを返してくる。
このぐらいの子供は加減を知らないから何処にボールが飛んでくるかはわからない。
ボール遊びを続けながら私は老人に聞いた。
「今日は娘さんは一緒じゃないんですね。」
「ええ。ワタシ娘が二人いましてね。
あのこは上の娘なんです。
今、下の娘の所に行ってくれてまして。」
老人は「ちょっとツワリがひどいらしくて」と付け加えて答えた。
「それはおめでとうございます。お孫さん楽しみですね。」
私の言葉に老人は曇った笑顔で「有り難うございます。」と言う。
「どうかされたんですか?」
私の問いに老人はふぅとため息をついた。
「こういう時に家内が居ればいいんでしょうが。ワタシは駄目ですね。何の役にも立たない。」
老人はそう言った後で「すいません。こんな話あなたにして。」小さな不安そうな声で言った。
私は首を横に振りながらボクとのボール遊びを続ける。
「お父さん、お待たせ。」
おだんご頭の娘さんが走ってきた。
「どうだった?具合よくなったか?」
老人は心配そうに娘さんに聞く。
娘さんはうんうんと頷いて私に「こんにちわ。」と挨拶してくれた。
「ママ、シュニンが遊んでくれた。」
孫のボクがおだんご頭のママの足に抱きつく。
おだんご頭の娘さんは「シュニンさん、ありがとうね。」と頭を下げた。
この一家では私は『シュニン』と言うあだ名なのだろうか。怒るどころか想像したら笑えた。
「ちょっと辛そうだったけどね。
家の事はしてきたから大丈夫よ。
また後で様子見に行くわ。じゃあ、お父さん私達帰るね。シュニンさんにバイバイは。」
おだんご頭の娘さんはボクの手を繋ぎながら早口で言った。
ボクはバイバイと言うと手を振ってくれた。
私はボクに手を振ってバイバイと返した。
「私はひとり暮しでしてね。娘たちは近くに住んでくれているので助かります。」
老人は私に微笑んで言った。
「あの?」私は老人に何かを聞こうとした。
そう言うと夢から覚めた。
携帯の時計を見た。
10時半か。ソファーで寝てしまったらしい。
朝から暑いし、汗がダラダラだ。
クーラーはいつの間にか切っていたらしい。
首が痛い。頭も痛い。二日酔いか。
40も過ぎればそりゃそうだよな。
大あくびが出た。
伸びをして目の前の現実を受け止める。
テーブルの上の昨日の宴の後片づけをした。
シャワーを浴びていると会社に書類を忘れた事を忘れたことを思い出した。
パソコンに資料なかったはずだよな。
ため息をついて独り言を言う。
「月曜からは在宅だったよな。取りにいくか。
会社に。ああああ。もう。」
そそくさと身支度をして家を出た。
老人と赤い花柄の傘 八雨🌂に続きます。
おまけ かえではたまには起きてます。
(いつも寝ているわけではないのだ。)かえで
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