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#4 足元の宝ものを見つける(後編)

 前回#3に記したとおり、私たちは2021年5月、「石巻のもうひとつの宝を探す」をテーマとする学習会(主催・サステナブルデザイン工房)に参加し、そこで東北の民俗研究家・結城登美雄ゆうきとみお先生との出会いがありました。

 その際「ぜひ今後の学習会で、参加者の皆さんにもはまぐり堂の活動の話をしてもらえないか」とお声がけをいただき、次回の学習会に向けての話し合いも兼ねて、結城先生と運営スタッフの皆さんが、はまぐり堂に足を運んでくださいました。

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 結城先生が、ご自身が編纂した宮城の農山漁村で営まれてきた暮らし・食・行事を一年の暦にまとめた資料や、山から川、海へと続く宮城の豊かな自然の恵みがひと目で分かる図表など貴重な資料を持ってきてくださり、それらを広げながら、皆で結城先生のお話に耳を傾けました。

 中でも特に私の心に残ったのは、「家族」についてのお話と、「糧飯かてめし」についてのお話でした。

 「家族とは、ただ一緒に住んでいるから家族、血がつながっているのが家族というのではなくて。家族の語源を辿っていくと、英語では、ファミリー(Family)。ファミリーの語源は、ファーマー(Farmer)すなわち耕す人たちのこと。ともに耕し、汗をかき、その恵みを、みんなで分かち合って食べる、それが家族ということ。それが人間の暮らしの根本にあるんです」

 地域資源、とりわけ食資源は、そこに暮らす家族とともにある、と思いたい。−中略−  英語でfamilyと呼ばれる家族の語源はラテン語のfamiliaに由来するが、そのルーツをさらにさかのぼれば、その意味は今日私たちが耕す人びととして使っているfarmerに通じているという。すなわち家族とは、一緒に耕し、一緒に食べる者たちのいいである。その家族の生存と暮らしを支えてきたものが地域資源であり食資源である。
ー結城登美雄「シリーズ地域の再生・1 地元学からの出発」, p.109

 海であれば、皆で魚介を採って加工をし、田畑であればみんなで耕し、植え、育てて収穫をして、保存して...かつてはそうやって皆で食べものを作り、食卓を作ってきたということ。それが、土地土地の、家族の暮らしであったというお話を、結城先生はしてくださいました。
 それがいつの間にか、食べ物はお金で買うもの、食卓は買ってきたものを食べる場、というのが当たり前の生活になっていったのが現代の消費社会であり、なんでもすぐ手に入り便利だけれど、生きるための食卓をみんなで作るという本来の「暮らし」からは、どんどん遠ざかっているように思います。

 そして「糧飯かてめし」のお話。糧飯とは、農山漁村のお母さんたちが、その時々、季節の食材や保存しておいた具材を入れて作る混ぜご飯のことです。

「糧飯ってちょっと”貧乏だ”みたいなイメージがあるんですが、違うんです。合わせ飯、混ぜ飯と考えていいと思います。背景は、何があるかっていうと、労働です。糧飯の多いところ、混ぜ飯の多いところは、養蚕(ようさん)地帯。母ちゃんたちは朝の5時ぐらいから夜の10時まで蚕の世話しなきゃいけない。ー(中略)ー 時間空いたときに、野菜を煮しめたり、いろいろ作っておいて、ご飯炊いたときにのっけて混ぜ飯にして。
だから、厳しい労働の背景に生まれたのが糧飯です。
 働く女たちが、限られた時間の中で、それでもおいしく家族に喜んでもらえるために工夫をしたと僕は思う。これが糧飯です。」
講演会録画記録 2021年5月23日開催 いしのまきリサイクリエーション研究会 「石巻のもう一つの宝を探す」講師:結城登美雄 より抜粋

 ひじきご飯にじゃこご飯、たけのこご飯や山菜ご飯...。忙しい農業や漁業の合間に、お母さんたちが工夫して作ってきたご飯を糧飯と呼ぶことを、私は今回初めて知りました。
 家族の健康を気遣い、仕事の合間にも手早く、おいしく食べられるように、との願いのこもった一品。これもまた、自然を相手に働く人たちの、暮らしの知恵の結集です。

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「家族」と「糧飯」。
 結城先生のお話の中には、私たちがこれからはまぐり堂を通じて伝えていきたいことのヒントがたくさん詰まっていて、私たちは終始わくわくと心躍らせながら、そして時には心にじんと響くようなお話に涙が出そうになりながら聞かせていただきました。

 私たちの足元、この地域にも、そんな「家族」の営み、「糧飯」の食卓が、たくさんあったはず。そして、まだ知らないだけで、見えていないだけで、今なおその営みを続ける人たちも、いるはずです。
 そんな足元の宝ものを見つける旅が、いよいよ始まりました。
 
 


はまぐり堂 LIFEマガジン【ネイティブ・ジャパニーズからの贈り物】
執筆担当:亀山理子(はまぐり堂スタッフ / ネイティブ・ジャパニーズ探究家)早稲田大学教育学部学際コース、エコール辻東京フランス・イタリア料理マスターカレッジ卒。宮城県牡鹿半島の蛤浜に夫と動物たちと暮らしながら、はまぐり堂スタッフとして料理・広報などを担当。noteでは浜の暮らしの中で学んだこと・その魅力を”ネイティブ・ジャパニーズ”という切り口から発信中。

掲載中の記事:
はじめに
#1 食べることは生きること(前編)
#2 食べることは生きること(後編)
#3 足元の宝ものを見つける(前編)
#4 足元の宝ものを見つける(後編)
#5 希望をつなぐ (前編)
#6 希望をつなぐ (中編)
#7 希望をつなぐ (後編)
#8 浜のネイティブ・ジャパニーズ(前編)
#9 浜のネイティブ・ジャパニーズ(中編)
#10  浜のネイティブ・ジャパニーズ(後編)


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