アイヌの歴史3『アイヌ語・日本語・マタギ言葉』
*これは中学生時代(2年以上前?)に書いた文章であり、最新の説を含んでいない場合もあるかもしれません。
*普段の記事より1000文字程度長く、内容も若干専門的となります。
*以上のことを御了承の上、お読みください。
序章
アイヌ語について
アイヌの話すアイヌ語は他の言語と系統的な関係、つまり共通の祖先がない孤立した言語で、周辺地域に分布する日本語や琉球語を含む日琉語族、ウィルタ語やウリチ語、ナナイ語などのツングース語族、イテリメン語などのチュクチ・カムチャッカ語族、孤立した言語であるニヴフ語などとも単語の行き来、つまり借用語はあれども、共通の祖先の言語から派生した同系統の言語ではない。
しかし、アイヌ語は言語学的に見ると北海道アイヌ語、樺太アイヌ語、千島アイヌ語の三つの言語が存在するアイヌ語族という小さな言語系統とも言え、現在、北海道アイヌ語の一部の方言以外のアイヌ語は完全に断絶しており、残っている話者は2007年の調査で10人となっていて、基本的に現代アイヌは日本語を話すようになっている。
本州のアイヌについて
また、かつては本州の東北地方にアイヌが分布していたとされ、江戸時代の時点では津軽藩や南部藩で狄や夷という漁労民として記録が残っており、シャクシャインの戦いにも通訳として動員されたが、その後の1756年(宝暦6年)の乳井貢の改革から本州アイヌの本拠地だった外が浜、つまり現在の青森市から東津軽郡の地域で、アイヌが他の日本人と同じ扱いを受けるようになり、そのまま、同化されていった。
江戸より前の古代には東北北部に広く分布していたと思われ金田一、長内、宇鉄、飛内、苫米地とまべち、洞内(ほらない)、似田貝、和井内、毛馬内、能代、米内(よない)などの苗字はアイヌ語由来と思われる。
アイヌ語と日本語
本州のアイヌ語由来の地名大量列挙
また、青森県には目名川、黒部川、砺波(となみ)平野、老部(おいっぺ)川、奥内(おくない)川、三内丸山遺跡、下風呂温泉、田子(たっこ)町、竜飛(たっぴ)崎、田光(たっぴ)沼、十和田市、十和田湖、野辺地(のへじ)町、平内町、戸来(へらい)村、三厩(みんまや)湾など
岩手県には日本一長い洞窟安家(あっか)洞、江刺市、日本一人口密度が高い村だった江釣子(えずりこ)村、越喜来(おっきらい)湾、釜石市、小説「吉里吉里国」で有名な吉里吉里(きりきり)、久慈市、気仙沼市、夏油(げとう)温泉、国の史跡である達谷窟(たっこくのいわや)、束稲(たばしね)山、土淵川、唐丹湾、遠野市、西根町、日頃市(ひころいち)川、平泉、目屋ダム、西目屋村、綾里(りょうり)駅など
その他には秋田県の阿仁町、根子(ねっこ)、打当(うっとう)温泉、笑内駅(おかしない)、生保内(おぼない)川、田子内(たごない)川、達子森、十和田町、能代市、比内郡、桧木内川、役内川など、宮城県の歌津町、登米市、登米(とよま)郡など、山形県の尾花沢市、遊佐町、福島県の豊間町、新潟県の五十嵐(いからし)川などの地名はほぼ確実にアイヌ語由来である。
他にも関東や中部にもアイヌ語説のある地名があるが確証はなく、津軽地方といった東北の地名でも確証がないものがある。
アイヌ語と日本語の相互的借用関係について
また、逆にアイヌ語には岩礁をイソ、岩山をイワ、馬をウンマ、ジャガイモをエモや地方名のゴジョウイモからコソイミ、拝む事をオンカミ、金属をカニ、神をカムイ、神に祈る事をカムイノミ、龍神や雷神などの空の上の神をカンナカムイ、カボチャをカンポチャ、上等な着物を小袖からコソンテ、短刀をマキリ、港をトマリ、役人をトノ、箸を古語の発音のパスィからパスイ、牛を東北弁のベコからペコ、大型の船を弁財天の船という意味でペンチャイ、骨を古語の発音ポネからポネ、女の子をメノコ、温泉をユ、ろうそくを中世の発音ラッソクからラッチャコなど明らかな借用語も多少存在する。
他にも野原をヌプ、母親をハポ、火を古語の発音ピからアペなどそれっぽいが微妙な単語も多く、日本語でもアイヌ語にはシシャモ、トナカイ、ハスカップ、ラッコ、オヒョウ、ホッキ、エトピリカ、コマイ、トドなど確実なアイヌ語由来の言葉やコンブ、アユ、イルカ、イロリ、エイ、エミシ、サケ、サル、エツ、バッタ、ホッケなどのアイヌ語起源の可能性がある指摘されている単語が多少あり、他にも、東日本の地名に多く見られる「谷」を中国語由来の音読みのコクや古代日本語由来の訓読みのタニ、狭い所を表す古語のサコなどではなく"ヤ、ヤツ、ヤチ、ヤト"などと読むその単語、古語でニワトリを表すクタなどはアイヌ語由来である可能性が指摘されている。
マタギ言葉とアイヌ語の関係
また、靴を表すケリ、猫を表すチャペ、山間部の狩猟住民を表すマタギ、股引きを表すモンペ、霊能を持つ巫女を表すイタコ、蕗の薹を意味するバッケァなどアイヌ語由来、もしくは東北弁からアイヌ語に流入した単語が存在し、特に東北周辺の山間部の狩猟住民であるマタギの言葉にはアイヌ語由来の単語がある。
ちなみにマタギ集落には西目屋村、深浦町の岩坂、川内町の畑、滝野沢村の滝山、佐井村の川目、西和賀町の沢内、大槌町、花巻市、北秋田市の阿仁、根子、笑内、打内、八木沢、萩形、仙北市の豊岡、西木、戸沢、美里町の六郷、由利本荘市の百宅、橇連、皿川、野宅、鶴岡市の大鳥、小国町の五味沢、長者原、小玉川、村上市の三面、津南町と栄村に跨る秋山郷などがある。
マタギ言葉とアイヌ語の対応例一覧
注意としてはマタギ言葉からアイヌ語へ入った可能性も存在する事も念頭に置いてほしい。
・天候を表すカドは空や天を表すカントに関係する。
・熊の頭を表すバッケやバッキャ、切り取った熊の頭を表すハケやハッケ、頭を表すハッケイ、崖を表すハッケタは動物や人の頭を表すパケに関係する。
・雪崩を表すササ・ヒラやオオ・ビラ、ネ・ビラ、雪崩が起きる事を表すヒラツグ、斜面を意味するヒラマエ、狩猟用の網を意味するヒラ、獣を挟んで獲る捕獲機を表すオドシヒラなどは崖を意味するピラに関係する
・小さいカモシカを表すホノやホノゴは小さいを表すポノに関係する。
・沢山を表すホロ、大人を意味するホロビダギ、大きな器を意味するホロカチョは大きいを意味するポロに関係する。
・心臓を意味するサベやサンペは同じ意味のサンペに関係する。
・犬を意味するセダ、ヘダ、セタ、犬の肉を表すセッタは犬を表すセタに関係する。
・雪崩を意味するワバ、ワンバ、ワシは雪を表すウパスに関係する。
・濁酒を意味するメグリワッカ、ニゴリワッカ、粕気を意味するカスケワッカ、清酒を意味するキヨワッカ、真酒を意味するマワッカ、雨をワカ、水や酒を意味するワッカ、小便を意味するウジワッカは水や酒を意味するワッカに関係する。
といった感じで、中にはウパスとワバなどの関係のように、一見結構違うように見える単語も多かったと思うが、これらはポネがホネ、ピがヒ、カパがカワ、ウペがウエ、カポがカオのようにPの音がえHやF、Wなどや母音に変化したハ行転呼という発音の変化の前にマタギ言葉に入ってきた言葉である事を示す。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?