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薄楽詩集

40
詩をまとめています。
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#ノスタルジー

【詩】引き潮

【詩】引き潮

 

 引き潮

過去という現在が今日も
ぼくの日暮れ待ちの海岸に
たくさんの漂流物を打ち上げる

墜落した魔女の叔母さんの形見の箒とか
三角帽子のピエロの叔父さんが忘れていったブリキの太鼓とか
少数民族の裸を撮りまくった元脱走兵の報道記者愛用のニコンのレンズとか
テロリストになったシスターが羊小屋に棄てていった真鍮の貞操帯とか
何にもおわっちゃいないのにぼくをポストモダン化しようとした
真っ赤な

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【詩】五月のノスタルジー

【詩】五月のノスタルジー

五月のノスタルジー

  あやめかる安積の沼に風ふけば
       をちの旅人 袖薫るなり    源俊頼

風が万物を薫らせ
蒼い静脈の這う近所の少女の乳房が膨らみ
出戻りの姉の白い太腿はむき出しで縁側に投げ出され
売春宿のぼくの恋人のお腹の産毛が陽炎のようにゆれる
そんな五月の白昼に不如帰が鳴き出すと
工事現場では必ず神隠しが起こり
少女の腋臭のような沼の匂いが山から下りてきて
夕暮の雨は予想

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【詩】黄昏ている

【詩】黄昏ている

黄昏れている

自転車が黄昏ている
ブランコが黄昏ている
物干し台が黄昏ている
ブラウスが黄昏ている
ジャングルジムが黄昏ている
コルセットが黄昏ている
鉄棒が体育館裏が素敵な先生が黄昏ている

黄昏ている たそがれている

スーパーマーケットが黄昏ている
きみの作ったおいしかったオニオンスープが黄昏ている
コンビニエンスストアも黄昏ている
カップラーメンも茶碗蒸しも黄昏ている
街のカップルも警察

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【詩】挽歌

【詩】挽歌

 

挽歌

少しづつ距離ができる
希望が生まれるたびに
願うたびに

ぼくたちは言葉で幾多の景色をつくった
まるで国産くにうみのようだと君はいい
ぼくは初夏に横たわる丘陵のような
君のなだらかな腹を無言で撫でた

とるに足らない戯れの
過ぎてゆくほどに
たまらなく愛おしくなるのは
なぜか

希望がかなえられるごとに
言葉は単なるツールとなって
ぼくたちは
労働者の消えた鉄の街の
払い下げアパート

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