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トライショーにトライしよう!!/連載エッセイ vol.95

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.97(2016年・第6号)」掲載(原文ママ)。

通信表面のトップ記事にもあるように、ワタクシ、初めてシンガポールへと渡航した。

東南アジアとしては、2012年にアジア・オセアニア地区のカイロプラクティック大学関係者が集まる、クアラルンプールの医科大学で開催された会議に参加する為に訪れたマレーシア以来、2ヵ国目。

晩秋の岩手から、雨季とはいえ常夏の南国へ向かうという、持参する服装に一番困るタイプの出張と相成った。

現地では、学術国際大会に参加しつつ、例によって隙間を見つけては、ちょいちょいと『プチ観光』を楽しんできた。

マーライオン公園にライオンの被り物をして参上し、他の観光客に写真を撮られまくった事…。
酒豪の同行者と深夜のパブにて生ビールを差しで煽り合い、相手方が危うくマーライオンになりそうになった事…。
最終日の夜、川辺のパブでサービスのフライドポテトをツマミにボトルビールを空けまくり、店の在庫を枯渇させた事…。

今、振り返ってみると、そこそこ観光の思い出があるような気もするが、今回、通常の海外出張とは異なる点があった。
それは…『現地の観光ツアー』を申し込んだ事である。

普段、私は『海外出張』となると、まずは数ヶ月前に『ガイドブック』を買い込み、熟読し、事前に入念な『待ち歩きプラン』を立案し、現地での短い自由時間を堪能するのが恒例となっている。

しかしながら…今回は、『事前の準備時間』が取れなかった…。

9月より12月中旬まで、毎週『県外講師出張』が予定され、その講義準備が必要となり、地元では、有難い事に講演会や一般対象の講座が立て込み、言葉は悪いが、店舗ではその隙間を縫うようにお客様へ懸命に向かう日々…。

そんな訳で、購入後、数ヶ月も開く事のなかったガイドブックを、出発数日前に引っ張り出し、すがる様な気持ちで現地のツアー会社と連絡を取り、自分としては非常に珍しい事に、『現地ツアー』を利用する事となった訳である。

しかしそれが…思わぬ哀愁溢れる、『いたたまれないエピソード』を生み出したのだ…。

ツアー当日。

指定されたホテルのロビーで同行者共々待っていると、入口からフラフラと歩を進めて来る、中華系のオジサンと目が合った。

『…オノデェラサ~ン??』。

初めは、その『クセの強い日本語』に少々不安もよぎったが(そのガイドの方は、『ところで』を『ところが』と脳内インプットしているらしく、話が突然『逆説』から始まる事が多々あって、最初は戸惑った…)、そこは実績十分なツアー会社、過不足なくシンガポールの見所を押さえていく。

そして食後、『コレガ…メインイベント…オススメ!!』と案内されたのが…『トライショー乗り場』であった。

『トライショー』…所謂、自転車にサイドカーを取り付けたシンガポール名物の乗り物。
かつては庶民の足として活躍したものの、その他の公共交通機関の普及の為、一般人は利用しなくなり、いまや観光客用の『最も運賃が高い交通手段』と揶揄される代物だ。

考えてみて頂きたい…。

日本でも観光地で『人力車』のサービスが点在するが…利用する機会などあろうか、いやない(←反語)。
それ故、もしこれが従来の『自分立案の街歩きツアー』であれば、間違いなく行程に組み込む事はないであろう。

しかしこれは『現地旅行会社企画のツアー』。
深く内容を吟味することなく申し込んだ我々に、それを断る道理はない。
いやむしろ、だからこそ楽しんでやろう…この『ザ・サイトシーイングなアクティビティー(これぞ観光的な催し物)』を!!

トライショーの客席は『2人乗り仕様』。

1台目には、同行者の女性と男性が乗車。
私は促されるまま、2台目に私と同体格の同行男性と乗り込む。
後続車には、同じツアーに申し込んだ家族連れが乗り込んだ。
いざ…出発である!!

サイドカーの横で、初老の男性が勢い良くペダルを踏み込む。
徐々に速度を上げていく車体。
そして…大きな道路に合流するなり、いきなり車の行き交う路線の中央に躍り出た!!

えぇ~!! 
こんなに道路の真ん中を走って、大丈夫なの??

若干ヒヤヒヤしながら、周りを見渡すと、トライショーの運転手の背中には『GIVE WAY!!(道を譲って!!)』の文字が…。
どうやらこの乗り物は、『観光資源』として『道路の優先権』が付与されているらしい。

一安心して、周囲を見回すと、歩道を辿っていたり、自動車に乗っていたのでは味わえない迫力で、シンガポールの街並みが、風を切りつつ、一切の遮蔽物なく眼前に迫ってくる。
これは…案外楽しいかも…いや……かなり楽すぃぃぃ~♪♪

しかし…異変を感じたのは、何度目かの信号停車の時であった。

前後のトライショーでは、信号待ちで車体が止まる度、運転手が自転車を降りて、乗客の写真を撮影したり、周辺の街並みを説明したりしている。
しかし…我々を担当する運転手は、そういった素振りを一切見せない…。

不思議に思って、その横顔をチラリと伺うと……その初老運転手、汗を体中から噴出し、肩で息をしているではないか!!

そう…勘のよい方であればお気づきかもしれない…。
我々の車体に乗るのは、ガッシリ体型のオトコ2人…その重量、実に150㎏オーバー…。
つまり、他の車体に比べて、明らかに重いのである!!

先頭車両の運転手は、中年に差し掛かったばかりの陽気なオジサン…。
片や我々の運転手は、現役リタイヤ後のお勤めとして車体を操っているのであろう年季の入ったオジサン…。

先頭車両の運転手は、スマホを2台駆使してBGMを流しながらペダルを踏み込むリズミカルなオジサン…。
片や我々の運転手は、漏れ伝わる荒々しい吐息こそが生きた証だコンチクショーなオジサン…。

先頭車両の運転手は、歓声を上げながら沿道の知人とハイタッチしつつ進むフレンドリーなオジサン…。
片や我々の運転手は、リスタートの度に良く分からない呻き声をあげて、重さで左右にブレる車体を必死に制御しようと、ハンドルを決して放さない無骨なオジサン…。

ヤバイ…いたたまれない…。

景色はスパイシーなインド人街を抜け、エキゾチックなアラブ人街を通り過ぎ、お洒落なブギス地区の繁華街へと移ろう…。

しかし…我々の心中は、もはやそれどころではない…。
早く…早くゴールへ辿り着いてくれ…オジサンが…壊れてしまわないうちに!!

十数分後、重心を極力整えるべく、やけに行儀の良い座り姿勢の我々を乗せた車体は、無事最初の乗り場へと辿り着いた。

私は客席を降りるや否や、運転手さんへ『心付け』を渡そうと振り返ると…有無を言わせぬ早足で、その場を立ち去るオジサンの哀愁帯びた後姿が十数m先にあった…。
い…いたたまれない…。

その後、現地ツアー会社のガイドが私に告げた。

『オノデェラサ~ン…オモシロカッタデショ?…ホカのニホンジンにもツタエテ…「トライショーにトライしよ~!!」…ハッハッハ~!!』 

常夏の国で背中を伝う冷や汗は…これまで経験した事のないくらい…いたたまれない爪痕を心に残すものであった…。


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