てまひまてまひま
私の悪い癖。
すぐに簡単な方法を模索しようとするところ。
授業時間内に終わらせるために、課題の〆切を守るために、クラスメイトから遅れを取らないために。
「どっちのやり方なら私でも出来ますか…?」
1年生の頃、複数の選択肢が迫った時に、私はこの言葉を何度も使っていた。
リボンの通し方、ポケットの作り方、裾の始末。
その度に、先生は簡単なやり方を教えてくれた。
けれど、どれだけカタチになったとしても、心のどこかで納得がいかなかった。
だから2年生は「てまひま」を標語にする。
去年までに培った基礎知識や技術を忘れずに、
本当に作りたいモノと毎時間向き合うと誓おう。
「パターンは手間かけたもん勝ちやからな」
おじいちゃん先生がニッコリ微笑みながら呟く。
例えば袖にボリュームを出したい時。
普通は、単純に平行移動をするやり方を選ぶ。
けれど、彼は袖山、要、袖底、袖下と少しずつ異なる展開方法を教えてくれる。
美しいギャザーとは、美しい曲線とは何か。
その理由が、どの部分に隠されているのか。
適切な場所で完璧な展開をする手仕事の重要性と確かな経験値による職人技。
「2年生は凝るって決めたんです!」
今日、この決意が揺らがぬうちに、大声で先生に宣言した。
理想のパターンを引けるのは、きっと何年も先の話だろう。
けれど、こうした決意を積み重ねたその先に、
“ホンモノの美しさ”が待っていると信じて。
早さや、効率や、順位なんかで測るのは野暮だと
信じて疑わないオートクチュールの社会こそが、世界で一番美しいと思う。
私もこの世界に相応しい人になるんだ。絶対に。
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