見出し画像

16歳、旅に出ようと思ったあの日から

5月くらい、初夏の暑苦しさで眠れなかった16歳のあの夜。
私は旅に出ようと思った。
ニューヨークに行きたいと思ったのだ。

小説のように生きたかった私の小説ではない過去の話。
.
.

「ママ、私10月にニューヨーク行ってもいい?」
仕事中の母に電話越しで話した。その時点で私の中にはもう行かない、行けないという選択肢はなかった。
なんで?と聞かれても、行ってみたいの、究極的にはそれだけだった。

母はすぐにわかったんだろう、これは止められないやつだと。
「ちょっと急すぎてよくわからないから、今度プレゼンして。それ見て判断するわ。」

私はもう絶対にいくと決めて、行く前提でプレゼンを作った。
いつ、どのルートで、何のために行きたいのか、その資金調達方法も旅行の必要性も整理して
プレゼンした。
(いま振り返るとすごい出来の甘いプレゼンだったと思う。)

それに対して母は、「うーん、100%説得しきってないけどね。考えてみる。」と言った。
でも私はもう気持ちはニューヨークにいたのよ。
「喧嘩していやいや行かせるか、笑顔で送るかの二択しかないよ。私は行くからね。」

それから私は平日は成績を維持するために猛勉強、週末は資金調達のためにアルバイトに励んだ。

期末試験も終わり、ニューヨークに旅立つ10月のあの日の朝。
急に行きたくなくなった。なんか怖くなっちゃって。だから母に止められたかった。
行きたくなかったら行かなくていいよ、そう言ってほしかった。
しかし返されたのは「今更どうした?もう行くしかないでしょ」とまぁ強気な返事。
行くしかないのはわかってるけどさあ。

サンフランシスコを一日回り、経由便でワシントンDCに着いた。
すっごくつまらない都市だった。周りは家族連れや修学旅行生ばかり。
私だけ一人。私の想像とは全然違う。これのために私は母を心配させてまで来たのか。
明日にでも帰りたかった。が、帰りの航空券を買い直すお金もない。
前に進むしかない。

そう泣きながら、ミッドナイトのバスタミナールでニューヨーク行きの夜行バスに乗った。

ニューヨーク。人は多いし、物価は高い。街は臭いし、ネズミと鳩が人より多い。
それでもこれが好きだったのよ!
この匂いが気になってここまで来たのよ!とテンションが高まる。
ゲストハウスにチェックインすると部屋には白人のイケメンが上裸で待っていた。(いや待ってはいなかったけれども)

天国か?

画像1

街に連なる摩天楼。その下には、ドアを開けるためだけに雇用されてる人。
コーヒーを買おうとすると私の機嫌を伺ってくる店員。
少し歩くとずらりと変わる風景。

そう、これなの。私が期待してたのはこれなの。

しかしそんなムードが続くのも二日くらい。
高層ビルの果てを見上げると次々とどこかへ向かう飛行機たち。
それを一人で見つめる侘しさ、でも私の席はないと嘆く。
メトロポリタン美術館のアジア館でみた仏像の南無阿弥陀仏がまるで私だけに訴えているように見える。

この旅が終われば、大人の階段を一つ登れるかなと思いきや、
前に進んだのか後ろめいたのかもわからず
複雑な気持ちを抱えて帰りの飛行機に乗った。
待ちわびた帰国は嬉しくも悲しくもない。
16歳にはまだ重すぎたのかな。

でも、ものの見方が変わったのは、きっとこれがきっかけなんだろうね。
ドアを開ける仕事もある、チケットを確認するだけの人もいる、
人にまあまあ不親切に対応していい時もある。
高そうなスーツを着た人はホームレスの群れを横切っていく。

本当にいろんな人がいる。

それから3ヶ月くらいしてかな、私はドイツに留学すると決めた。


画像2


#旅行 #海外 #エッセイ #思い出 #高校生 #ニューヨーク #海外旅行 #語学 #通訳 #留学

この記事が参加している募集

#振り返りnote

84,440件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?