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「24分のX」・・・15 「目的は」連続超ショートストーリー


美晴が精神的に不安定になっていると聞くたび、
松野は何か力になれないかと思っていた。

それは、人事部と言う仕事上、必要な事でもあったが、個人的な感情が働いていないとは言い切れなかった。

松野の仕事の仕方は独特である。
日常的に社員の仕事内容を把握するのは勿論、各人の精神的な状態まで、気に掛ける。

その為松野は、情報収集の為に、夜のお店に行く事も少なくない。
遊び人として知られていた方が、必要な情報を集めやすいからだ。
社内で人事部が動いていると思われると、社員も気になるし、業務に支障が出る恐れがある。それでは本末転倒だ。
酒も入り、リラックスした状態にして情報を収集するようにしていたのだ。

周りに遊び人だと思われることは、承知の上だった。

「遊び人が閻魔様かよ」

「松野が人事部なんて、会社は何を考えているんだ」

そんな声を聞いても、得られる情報の方が重要であった。
確かに、裏も表も様々な話を聞くことが出来、社内のほとんどの人間関係を把握できた。

だから、必然的に美晴の過去の恋愛についても耳にした。
その都度、何か対処が必要な時は手を差し伸べようと考えていたが、人事部として個人的な恋愛感情によって動くのは如何なものか、と躊躇していた。

だが、塚田課長と美晴の関係が発覚したとき、松野は驚きを隠せなかった。
誰もがそう思ったように、松野も「あの二人がいつの間に?」と思ったのだ。
そしてその驚きが、「なぜ塚田課長なんかと」という気持ちと同時に「自分にもチャンスが巡って来るかも」という感情が湧き上がらせ、自分の本当の恋心に気が付いたのだ。

松野は、失恋した美晴をなんとか励まそうとしたが、心の底にある嫉妬が邪魔をして、ついつい厳しい言葉を口にしてしまった。

「奥さんにバレたって? ザマアミロ。因果応報、どうせお前だって、結婚する気は無かったんだろう」

彼の中にあった嫉妬と不安がそんな言葉になって、口から飛び出した。

そのまま、人事としての仕事に没頭すれば良かったのに、
余計な一言を着け足し、その一言が、己を地獄に落してしまった。

「俺が面倒を見てやるぜ」

「どうせ体が目的なんでしょ」

松野は歯を食いしばって、過去の自分自身を恨み、そして仕事を憎んだ。

              つづく


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