マガジンのカバー画像

クソくらえ、クローン病!

29
運営しているクリエイター

#小説

「クソ喰らえ、クローン病!」第8話~ラトビア、予期せぬ祝福

「クソ喰らえ、クローン病!」第8話~ラトビア、予期せぬ祝福

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 今まではクローン病に罹った故の絶望感などそういう負の感情についてばかり書いてきたが、たまには希望について書かせてもらってもいいだろう。肉体的・精神的疲弊によってベッドから動くことができなかった時、メールが届いた。ラトビアの文芸編集者であるVilis Kasims ヴィリス・カシムスからだった。メールにはこう書いてあった。

 "久しぶりだね。やっと

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第9話~運命の内視鏡検査、待合室編

「クソ喰らえ、クローン病!」第9話~運命の内視鏡検査、待合室編

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 思い出したくないことがある。だがこの最悪の出来事こそを、俺は書くことで供養がしたい。あの運命の時間、大腸の内視鏡検査の時だ。

 家の近くにある小さな病院で血液検査をした際、血液に異常が見られた。赤血球や血小板が異常に多く、身体の炎症レベルを示す、普通は0.3が基準値のCRP値が9をブチ抜いていたのだ。医者はもしかすると血液か骨髄の病気かもしれない

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第10話~運命の内視鏡検査、ケツ穴ブチこまれ編

「クソ喰らえ、クローン病!」第10話~運命の内視鏡検査、ケツ穴ブチこまれ編

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 待合室からやっと出られたはいいが、検査室の椅子でまた待つ羽目になる。この時の俺は"大腸に何か異常でてほしいな、そうだったら骨髄に異常はない訳だろ。まだマシだわ"とそんな甘っちょろいことを考えていた。皮肉だな、お前の願いの通りになったよ、クソ最低な形でだがな。
 何だかんだで名前が呼ばれて部屋に入っていくんだけども、部屋の内装を想いだそうとするだけで

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第11話~やってやれ、クローン病文学

「クソ喰らえ、クローン病!」第11話~やってやれ、クローン病文学

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 俺は例えば小説家だとかダンサーだとか、そういう芸術家/アーティストみたいな肩書は他称ではなく、絶対に自称であるべきだと思う。他称というのは自分の外にいる他者、もっと言えばある種の権威的存在にお墨付きをもらうってことでしかない。だが実際、芸術家としての立脚点はどこまで行っても自分と自分の作品でなければならない、それ以外には有り得ない。だから自分で自分

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第12話~4月7日から8日にかけて

「クソ喰らえ、クローン病!」第12話~4月7日から8日にかけて

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 4月7日の午後6時にガスが止まった。父親から風呂が沸かせないと言われて、母親の気が動転してしまう。狼狽しながらも色々と確認するなか、俺の家だけじゃなく近隣一帯でガスが止まっていることが発覚する。母親は隣人たちと相談した後にガス会社に連絡、すぐに作業員がやってくる……実を言えば、この風景を実際に見ていた訳じゃあない。俺はクローン病の調子が悪くてベッド

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第13話~コリコリ、コリコリ

「クソ喰らえ、クローン病!」第13話~コリコリ、コリコリ

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 クローン病だと診断されて厳格な食事制限が始まってから、俺の口のなかに様々な食べ物の感触が思い浮かぶようになった。今後一生食べられないとは言わないが、格段に難しくなった食べ物の数々だ。読者に尋ねたいが、俺の場合に一番思いうかぶ食感っていうのは何だと思う? ぜひちょっと考えてから、視線を動かしてくれ。考えたか、じゃあ答えだ。もちろん色々思いうかぶが、1

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第14話~ひからびてカラカラになった大腸

「クソ喰らえ、クローン病!」第14話~ひからびてカラカラになった大腸

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 前のコブクロ話の続きだ。クローン病だとか潰瘍性大腸炎でTwitterを検索すると、病の当事者たちが思い思いの言葉を呟いていることが分かるだろう。患者数の少ない難病ではありながら、実際にはこんなにも多くの患者がいて自分のことを語っているのには驚かされる。ある側面で、こんなにも仲間がいるのかと勇気づけられる。だが一方でこの病気がもたらす苦境というやつを

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第15話~コルネル・ブルダシュク賛

「クソ喰らえ、クローン病!」第15話~コルネル・ブルダシュク賛

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 ルーマニアの画家と聞いた時、その名前を挙げられる日本人はかなりの少数派だろう。俺としてはルーマニアにおける現代絵画の祖であるNicolae Grigorescu ニコラエ・グリゴレスクとか、彼の盟友であり風景画を得意としたȘtefan Luchian シュテファン・ルキアンとか、稀代の肖像画家として高名なCorneliu Baba コルネリュ・ババ

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第16話~外を、歩く

「クソ喰らえ、クローン病!」第16話~外を、歩く

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 その時が来た。俺の元に図書館からメールが来たんだ、予約した本が来たと。そうだ、俺が外に出る時が来たんだ。
 クローン病になって体調が酷くなった後、少なくとも3月以降は病院への通院以外で外へ出ることはできず、陰鬱な引きこもり生活を続けていた。下痢と腹痛の存在は勿論だが、関節痛や脆くなった精神状態もあって外へ出ることができない、その勇気がなかった。でも

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第17話~4月10日、夜のこと

「クソ喰らえ、クローン病!」第17話~4月10日、夜のこと

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 4月10日、昼間は悪くなかったんだよ。久しぶりに病院行く以外で外に出れて、図書館で本も借りれたんだ。だけども夜にベッドの上で借りてきた日野啓三の「夢の島」を読んでいるうち、腹の調子が悪くなる。物語が面白いので無視してたけど、違和感が大きくなっていくんだ。いつもながらの液体金属の蠢きっぽいんだけど、何かが違うって直感的に思った。
 そしてこの痛みとい

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第18話~Futu-ți, Boala Crohn!

「クソ喰らえ、クローン病!」第18話~Futu-ți, Boala Crohn!

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 「クソ喰らえ、クローン病!」の末尾にはいつもルーマニア語講座を載せてるんだけど、ここ結構時間かけてるんだよ。ルーマニア語で小説書くなんてことやってはいるが、まだまだ知識は不足していて、文法書や辞書を頼りまくってる。それで書くの時間かかってるんだ。俺としては別に自分のルーマニア語力がすごいとは思っちゃいない。ただ俺は長い時間を懸けて、一体自分が何を分

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第19話~人生が痛い

「クソ喰らえ、クローン病!」第19話~人生が痛い

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 何回も言ってるが、1か月の絶対療養とか薬のおかげで、身体の調子自体は良くなってきてる。下痢とか腹痛の勢いが明らかに弱くなり、外も普通に歩けるようになった。読書や映画鑑賞だってできる、小説を書くことだってできる。本調子とは言わないが、悪くない。だがその一方で身体中に思わぬ苦痛を受けることも多くなった。それが俺を脅かし続ける。

 最初に違和感を抱いた

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第20話~病院で色々と考える

「クソ喰らえ、クローン病!」第20話~病院で色々と考える

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 もちろん、最近は病院に行きまくってる。今までデカい病院にお世話になるような肉体的大病を患ったことがなかったから、ある意味で新鮮な経験だ。ここの柔らかくない椅子に何度もケツを据える最中、色んなことを考えた。取り留めもなくなるだろうが、ちょっと振り返っていきたい気分だ。

 最初にこの病院に来たのは、血液の数値が異常で骨髄がヤバいかもと医者に脅された時

もっとみる
「クソ喰らえ、クローン病!」第21話~クソ喰らえ、クソ!

「クソ喰らえ、クローン病!」第21話~クソ喰らえ、クソ!

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 第2話で既にクソについては書いてるが、いやいやまだまだ書き足りないね。ぜひとももっとクソについて書かせてほしいんだ。読者諸氏、たまにはクソについての文章を読んで、クソに思いを馳せるのも悪くないだろ。

 クソは固形が良くて下痢は良くないってのが普通だ。だけど今の俺の場合、固形はちょっと辛い。第17話で書いた通り、固形をブチ撒ける時は腹部の痛みが何だ

もっとみる