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「クソ喰らえ、クローン病!」第14話~ひからびてカラカラになった大腸

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 前のコブクロ話の続きだ。クローン病だとか潰瘍性大腸炎でTwitterを検索すると、病の当事者たちが思い思いの言葉を呟いていることが分かるだろう。患者数の少ない難病ではありながら、実際にはこんなにも多くの患者がいて自分のことを語っているのには驚かされる。ある側面で、こんなにも仲間がいるのかと勇気づけられる。だが一方でこの病気がもたらす苦境というやつをまざまざと目撃させられるんだ。
 血便が止まらなくなり、不安に苛まれる。腹痛で病院に運ばれ、クローン病と診断された後に入院、絶食の果てに退院したら妻から離婚を切り出される。クローン病以外にも鬱病や拒食症などの精神疾患を発症して、それに苦しみ続ける。痔瘻によって鮮烈な痛みを味わわされ、悲痛すぎる弱音をあげる。これから手術してきますと病室の写真をまじえて呟く。ある時、俺はクローン病患者がコーラとピザを喰ってるのを見て一瞬希望を抱いた。だがその人物のプロフィールに"開腹手術7回"とか書かれていて、一気に絶望に引き戻された。

 そんな中で、確か潰瘍性大腸炎の患者だったと思うが"お疲れ様でした"みたいな言葉とともに、ある写真をアップしており、それを見た。手術で全摘出された大腸だった。見た瞬間、マジに吐き気を催すほどの衝撃を受けたよ。その大腸はもう完全に干からびていて、色は黒々しい赤だ。この大腸は完全に死んでるって一瞬で分かった。全てが壮絶だったが1番ヤバいと思ったのは、腸の端々からウニみたいな謎のデロデロが出ていることだった。本当にあちこちからハミ出してる。あれは一体何なんだ、マジに。正直、もう一生ウニなんか喰えないだろうなって思うよ。
 グロいものが苦手かというと、違う。むしろ逆だ。俺はホラー映画は大好きで、特に殺人鬼が馬鹿な若者を皆殺しにし、その過程で面白いように人体がグロテスクに破壊される、いわゆるスラッシャー映画ってやつを俺は愛していた。レンジのなかで頭部が爆砕する、両手の指が巨大な鋏でチョン斬られる、ヴァギナに剣がブッ刺さる、チェーンソーでカップルの生首がスポポポンとブッ飛んでいく。そういう場面は荒唐無稽すぎてもはや爆笑の域だ。今の俺の気分だと、オススメしたいのは「迷信~呪われた沼~」と「ローズマリー」だな、ぜひ観てくれ。そして俗悪を極めたスラッシャー映画では、よく腹部から内臓がデロデロと噴出したりする。燦燦と艶々と真っ赤に輝いていて、クロアチアの海岸線に浮かぶ太陽みたいに眩い。だけど多分初めて見たマジもんの大腸は、ホラーの作りものとは全く違ったよ。ホラー映画の見方が一生変わると思うくらいには、とてつもなく衝撃的だった。
 そしてこの写真を見て、俺は自分の未来について考えざるを得なくなった。俺は正直かなり軽症な感じだ。緊急入院でクローン病と診断され、いきなり大腸摘出手術とかいう始まりの患者はザラなのだ。俺は幸運なことにどっちも経験していない。だけどもだよ、ググればすぐ出てくるけど、クローン病患者で手術を必要とする割合は発病後5年で30%、10年で70%前後らしいんだよ。恐怖しか感じないよな。
 生まれてから28年間、手術は経験したことないが、もはや今後は避けられないだろう。Twitterで当事者の声を読んでいても、10年以上クローン病を患ってるって人は例外なく手術してるってプロフィールに書いてる。手術とか、もう駄目だよ本当に。手術で腹を切るって考えるだけでも恐怖でかなり動揺する。それを何度も何度も何度も経験する羽目になると思うと、もはや眩暈すら起こす。実際に何度も腹切られれば慣れるかもしれないけど、そんなことに慣れたくねえよ。1度だって経験したくない。ホラー映画というのは全くの安全圏から人体破壊を楽しめるからいいのであって、自分の肉体でそれやられてたら堪らねえよ。あの写真を見てから、もうこのことについてずっと考えてしまっている。助けてくれ!

 内視鏡で撮影された俺の大腸は、激しい炎症を起こして獄炎みたいに真っ赤だった。だがクローン病を生きていくうち、どんどんドス黒く疲弊していき、最後にはあの写真のような状況になるだろう。俺は自分に問う。遅かれ早かれ腸を摘出することになったその時に、俺はその腸を撮影して"お疲れ様"とお礼を言えるだろうか。少なくとも今の俺には絶対無理だなって感じだが、将来それをできるほどの勇気を持てるのか。
 以前の俺の口のなかではコブクロのコリコリした食感が亡霊のごとく憑りついてた。だがあの写真を見た瞬間から、影を潜めるようになった。結果的に俺は郷愁から目を背けることができて、これは多分難病を生きるうえで前進なんだろう。だが今度は首根っこを掴まれて、水のなかに頭をブチこまれるみたいに、未来に広がる闇を見据えざるを得なくなっている。気分はどうかって、正直最高だよ。

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【済藤鉄腸のすぐに使わざるを得ないルーマニア語講座その13】
În horror american, când un ucigaș cu mască omoară un cuplu tânăr și prost, îi erupe intestinul de la stomacul întotdeauna. E un peisaj foarte distractiv, nu-i așa. Asta ne vindecă și nu mai este necesar să am o grijă de karoushi!
ウン・ホラー・アメリカン、クンド・ウン・ウチガシュ・ク・マスカ・オモアラ・ウン・クプル・トゥナル・シ・プロスト、ウイ・エルペ・インテスティヌル・デ・ラ・ストマクル・ウントトデアウナ。イェ・ウン・ペイサジュ・フォアルテ・ディストラクティヴ、ヌ・イ・アシャ。アスタ・ネ・ヴィンデカ・シ・ヌ・マイ・イェステ・ネチェサル・サ・アム・オ・グリジャ・デ・カロウシ!

(アメリカのホラー映画ではマスクを被った殺人鬼が若くて馬鹿なカップルを殺すと、決まって彼らの腹部から内臓が噴出します。とても楽しい風景ですよね。日々のストレスも癒されて、過労死の心配もなくなります!)

☆ワンポイントアドバイス☆
もうルーマニア語講座も10回を迎えると、何だか気軽に解説できる文章が無くなっちゃうな、文法ちゃんと説明しなきゃいけなくなるね。今回は放棄しちゃうおうかな。文章に関してだけど、後半は本当、ホラーには人を癒す力があるよ。でも前半は嘘だな。内臓が噴出するのはゾンビ映画とかで、いくら殺人鬼でもほとんどのやつが人間の域から出ないので、腹部から内臓を噴出させられる力はさすがに持ってないよ。時々「迷信~悪魔の沼~」みたいに殺人鬼が悪魔とかそういう超常的存在の時もあるけど、内臓描写って血糊とか特殊メイクとかで時間もお金もかかるから、あんまりやる人はいないね。まあハーシェル・ゴードン・ルイスくらいだよ、そういうの大盤振る舞いしてくれる人は。


私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。