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連載小説【正義屋グティ】   第47話・寝返り

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第46話・裏の裏】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
【第43話・世紀大戦 ~侵略~】(世紀大戦・②)
【第44話・クローバーの戦い】(世紀大戦・③)
【第45話・邪魔者】(世紀大戦・④)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していき、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。士気を高めるために五神の一人のホークと共に進軍していったホーク大国軍の勢いは衰えることなく、トレッフ王国の中心にある緑の城までもが制圧された。その晩催された宴では総隊長フロリアーノとヨハンの間に一悶着あるも、トレッフ王国軍は勝ちを確信し盛り上がっている最中、避難民がいる南東を除く全方向から不在と思われた中央大陸連合軍が奇襲を仕掛けてきたのだ。フロリアーノ率いるホーク大国軍は真っ向から戦うも、サイモンが率いる驚異的な敵軍に圧倒され敗北。しかし、それをお取りにしてホークとヨハン、そして精鋭部隊が国から脱出しようと試みていた。そこに正義屋がやって来た……。


47.寝返り

それはホーク大国軍と中央大陸連合軍がぶつかる二時間ほど前の事。トレッフ王国の中心の緑の城は、勝利を確信したホーク大国軍の兵士による宴が開かれていた。そんな中、本土の戦争により行き場を失った避難民が集まり、ここ南東の地でもまた小さな祭りがあちらこちらで催されていた。彼らにとってもこの祭りは戦争で勝ち取る平和への前祝いなのであろう。あちこちに置かれた紅色に灯すちょうちんや、それを対比する形で着々と濃く深くなっていく空の黒。それに加え、酒盛りを楽しむ大人の賑やかな声や、踊り狂う子供たちの楽しそうな声がこの地に彩を添えてくれる。しかし、そんな楽しげな町に場違いな怖い顔をした男が一歩、また一歩とおぼつかない足取りでこの地へと近づいてきていた。
「おい!そこの男、何者だ!」
見回りのトレッフ王国兵のノリがその男に銃口を突き付ける。男はホーク大国軍のオレンジ色をした軍服を身にまとい、その場で両手を上げた。
「俺はお前らの敵ではない」
男は小さな声でそう訴えかける。
「敵ではないだと?ではその軍服は何だ。避難民に危害を加えるつもりか⁈」
「違うんだ。俺はもうあんな奴らと同じではない」
ノリの詰問にも一切動じることのないその男は、膝を芝生につき両手を頭の後ろに回すと話を続ける。
「俺はホーク大国軍の総隊長フロリアーノだ。君たちの総司令官、ゴージーン・サイモンに会わせてくれないか。奴に危害は加えん、頼む」
「フロリアーノだと……!ならますます、ここで始末しておかないとだな」
ノリは緑のヘルメットを深くかぶると、フロリアーノの言う事など気にも留めず、マシンガンの照準を無抵抗のフロリアーノの顔に合わせた。冷えた風によって起こる葉擦れの音がこの空間の静けさをより強調しているようだ。そんな無責任な木の葉たちの声に急かされたのか、ノリは素早く引き金に手をかけると、フロリアーノの目を睨みつけた。
「待て、分かっている。この後お前たちは油断しきっている俺らに大軍を送り込むつもりであろう。俺なら、それを確実に成し遂げられる!」
フロリアーノは思わず立ち上がりそう抗議する。が、ここは敵地。こんな絶好の場で敵の総隊長をみすみす逃すわけにもいかない。その自然な考えが、ノリの引き金を引く指に力を込めた。
「信じられるものか!」
そう発したと同時に、大きな銃声が鳴り響いた。
「うっ!」
が、声を上げたのはノリの方だった。ノリが今にも撃とうとしていたマシンガンが何者かによって狙撃され、芝へと放り出されたのだ。
「随分と思い切った策だなあ。それともマジか?」
声の主は味方のマシンガン目掛けて発砲したあのサイモンだった。
「サイモン。久しいな」
「そうだが、そんな話をしに来たんならお前の頭をぶち抜くぞ」
そんな言葉とは裏腹に、サイモンの表情は明るかった。サイモンは左手のハンドガンを腰にしまうと、フロリアーノを手招きし町の中へと誘った。街は意外にもフロリアーノの事を歓迎していた。サイモンが連れてきた男なら。皆がそう言い、フロリアーノの服装には目を瞑っていたのだ。海から流れてきた湿った風が町の間を通り、二人の赤く染まった長い髪をたなびかせる。
「似てるな、髪型」
「あぁ」
二人はそんな他愛のない会話をしながら人気のない一軒の木造の屋敷に入った。明るいちょうちんとそうでないのが一つずつ、その建物の中には転がっていた。
「お前には、沢山話のネタがあるんだが……今は時間がないんだったな。早く話せ」
サイモンはボロボロの座敷に腰かけると、人差し指を空につつきフロリアーノに座るように促した。
「あぁ、こっちでも色々あってよ。元々俺はこの戦争に肯定的でないんだ。俺の上司に若くして権力を得ちまったバカ殿みたいなやつがいてよ、みんなそいつのくだらん正義とやらに洗脳されてこの戦いが始まっちまった。『この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ』これがその正義だ。五神伝説では物足りないんだとよ。それでそいつ、いやそいつらに俺の部下を殺されて我慢の限界が来た感じだよ」
「それで、俺たちに寝返るのか」
フロリアーノは静かに頷く。サイモンは難しそうな顔を右手でポリポリと掻きむしりながら続ける。
「俺はお前の事を信用したわけじゃねえ。でもお前の意思は確かに受け取った」
「恩に着る、サイモン。お前にこれを貸す」
フロリアーノはポケットからボズと大きく書かれた、血まみれの無線機を手渡した。
「俺の部下の無線機だ。俺らの作戦はこれで駄々洩れだ。それと、この無線機は同時に一機のみの通信しかできない。だから、俺たちの通信を奪いたいときはその赤いボタンを押し込み続けろ。これで俺らは相当辛い戦況になるだろう」
「お前悪魔みたいなことするな」
サイモンは口角を上げ気味悪く笑い出した。フロリアーノは今になって自分のやっていることの重大さを実感したのか誰もいるはずのない室内をキョロキョロと見渡し始める。
「誰もいねぇよ」
サイモンはからかうようにそう言う。
「ありがとよ。だからって俺たちは城を囲み込むほどの戦力は持ってない。なら、避難民が大量にいて動きづらい上に、俺らの戦艦が泊っている南東方向だけを開けて他の方向から集中砲火する。後はこの無線次第とするか」
サイモンは満足そうにフロリアーノの肩を叩くと、よほど機嫌が良くなったのか、転がったちょうちんを力いっぱい扉に向かって投げつけた。案の定、ちょうちんは大破し部屋の中は闇に包まれてしまった。
「変わってないな」
その豪快さにフロリアーノがそう言葉を零すと、サイモンはその場で立ち上がり、
「実はな、俺はこのアンノーン星の全てを知っている奴の一人なんだ。くそみてぇな五神の昔話とかな。しりてぇか?」
と訳の分からないことを唱え始めた。
「どうしたんだよ急に」
「お前だって色々教えてくれたんだよ。今はこの星で五神を除いて、俺と相棒、あともう一人しか知らないはずの秘密だ。どうだ、聞く気になっただろう」
この男はよほどそれを話したいのであろう。いつも見せないような不気味な笑みにフロリアーノはそう察知すると意地悪そうな目つきをしながら、
「お前の作り話か。つまらなかったらぶつからな」
と毒と棘のある言葉をサイモンにぶつけた。するとサイモンはゆっくりと扉を開けそのまま歩を進めると、あたかも狙ったようなそのタイミングで分厚い雲から顔を出した青白い月を見つめた。一筋の月灯りが顔に差し掛かり、その眩しさでサイモンは右目の瞼を思わず閉じてしまった。
「あぁ。腰抜かす覚悟しとけよ。時は三千年前に遡る……」

現在 トレッフ王国南東の港付近

「……正義屋ってまさか、あの!」
突然現れた強大な最後の砦に気づいた運転手はアクセルをベタ踏みし猛スピードで後ずさりを始めた。その後部座席に偉そうに腰かけるホークはさほど危険を感じていないのか戦いが終わるのを目を瞑り静かに待っていた。が、ヨハンは違った。彼の足は情けなく小刻みに震え頭を抱えて前傾姿勢を取っている。ヨハンをこれほどまでに怯えさせているのは新型の戦闘機だけではない。世界的にも評判の正義屋の総裁のことだった。
「ヨハン、君のような男が何をそこまで怯えることがあるんだ」
ホークは見たこともないヨハンの姿を不自然に思い肩をゆすった。しかし返事がない。ホークはボリュームを上げて再び今度はヨハンの耳元で話してみる。
「外を見てみろ。わが軍の精鋭たちが、あんなふざけた戦闘機に負けるわけがないだろう」
「……はい」
ヨハンはホークの説得に応じ、恐る恐る後方の窓からその様子を見てみることにした。
先ほどまでヨハン達の後ろを走っていた精鋭部隊の車は空飛ぶ細長いそれに向かって臆することなく進んでいった。整備されていない土と小石でガタガタと車体を揺らしながらも先頭の一人がその真下までたどり着き、手慣れた動きで車を飛び降りライフルを構えた。それにつられるように、後ろの兵士も戦闘機を標準に入れると、
「発射!!」
という男の合図で引き金を引いた。この間、たったの十秒の出来事だ。そして次の瞬間には空に浮かぶその機体に数え切れないほどの鉛玉やロケット弾がほぼ全弾命中し、黒煙が舞った。遅れてやってくるド―――ンという激しい音や爆風が兵士たちを襲うが、流石の精鋭部隊。そんなときには既に皆が耳と目を手で覆い、車や岩陰に身を潜めていた。
「言っただろう、ヨハン。恐れることなどないと。君、早く港へと戻りたまえ」
どんどん小さくなっていくその戦場の勝利を確信したホークは、呆れた表情で運転手にそう促した。
「本当によろしいのですか?」
ミラーの奥を眺める運転手は恐る恐るそう言う。ホークは久しく口答えをされたことに少し腹を立てたのか、眉を顰め腕を組んだ。
「しつこい奴だな。人間風情が俺の意見に背くのだな?」
「ホーク様!」
ここにきて突然ヨハンが声を荒げた。
「なんだ。お前もかヨハン?」
「後ろをもう一度ご覧いただきたい」
虫の居所が悪いホークは自分を指図するヨハンの言う事を聞くのが癪に思いつつも、仕方なく窓の外を覗く。
「なに⁈」
ホークはピンポン玉よりも大きく眼を見開いた。その眼には細長い戦闘機が、縦や横に回転し体当たりによって精鋭部隊を翻弄している想像もできない光景が広がっていた。
「銃が効かないだと⁈」
「ロケットランチャーもビクともしねぇ!」
「逃げろ!あんなものの体当たりなんて食らったら終わりだぞ!」
精鋭部隊は使い物にならない兵器を手放し、避難民が集う南東の街へと死に物狂いで走った。既に車はぺちゃんこに踏みつぶされ赤い炎に囲まれている。その周りには逃げ遅れた兵士が血を流し地面に横たわっている。
「いや!追いつかれる!」
部隊の半数が未知の戦闘機にやられ、またこの兵士も目に見えた悲惨な未来から逃れようと必死に駆けだしている。が、無情にも青の機体の戦闘機は大きく反動をつけると、兵士に向けて猛スピードで体当たりをした。
「いやああああああ」
甲高い兵士の声と同時に風を切るような恐ろしいその攻撃は兵士の体を遠くへと弾き飛ばし機体に紅色の血を付けた。次々に飲み込まれていく精鋭部隊を目にしたホークはようやく敵わない相手だと理解したのか、
「飛ばせ!全速力だ!」
と指示を飛ばした。しかし、時すでに遅し。一機の戦闘機が上空から車のボンネットに勢いよく突き刺さったのだ。ドンという凄まじい衝撃と共に車は動きを止め、その勢いのまま車の中にいた三人は割れたフロントガラスから地面へと放り出された。
「ぐあああああ」
何本か骨の折れたことが分かったヨハンは、その場で呻きながら転がることしかできなかった。そしてその数秒後、ガソリンが漏れ出した車は大爆発を起こしさらに三人を遠くへと飛ばした。
「もうやめてくれ!降伏する。だから誰か手当を頼む!」
ヨハンは泣きべそをかきこの異常事態でも自分だけ助かろうと、周りを見渡した。
「おめぇかぁ。噂のバカ殿ってのは」
「お前は!」
すると焼け野原の中から、白いひげを生やしたいい年をしたおじさんがゆっくりとこちらに向かって来ていた。
「おいらの事を知ってんのか。初めて会うと思うんだけどな」
不敵な笑みを浮かべるその男こそ、サイモンの相棒でありヨハンが恐れた正義屋総裁、フレディであった。

    To be continued……    第48話・緑の悪魔
ホークとヨハンを窮地に追い込んだ正義屋。しかし悪夢はここからだった。2023年11月18日投稿予定!今回も長めでしたが読んで頂きありがとうございました。実は正義屋総裁のフレディは大分序盤に登場してますよ! お楽しみに!!

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