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【凡人が自伝を書いたら 69.新たな依頼】

真夜中。

〜森の中の古いあばら家にて〜

みすぼらしい服装をした、髪の毛少し薄めの中年男性が、建物の外で両ひざをついている。

黒ずくめでクールな雰囲気の、髪の毛多めの男が、建物の中、ふすま越しに、静かに、ゆっくりと問いかける。

「そんで?依頼ってのは、なんだい。」

「は、はい、、実は、、このお店なんですが、24時間営業で、売上も非常に高く、常に忙しいんです。その弊害なのか、、とにかく汚いんです。。とにかくごちゃごちゃしてるんです。。

私が掃除すれば良いのかもしれませんが、ほら、私はエリアマネジャーでございますでしょ? だから、なかなかそういうわけにもいかないんです。以前の店長にも口酸っぱくは言っておりましたが、やはり状況が状況です。何度言っても解決しません。

そこで、あなたに解決していただきたいのです。ですから今回、店長とチーフの2枚替えという形を取らせていただいたのです。

誰からも文句を言われない、名実ともにトップ。そんな感じにしていただきたいのです!! 何卒、この店を救ってくださいませ!!!」

「フン。仕方ねえな。この貸しは高くつくぜ?」〜完〜


※この物語は「フィクション」です。登場する人物・団体・名称等は「架空」であり、実在のものとは一切関係ありません。

「どういうこと!!?」


はいすいません。。


本当は、

事務所にいるときに、みすぼらしい服装をした髪の毛薄めの中年上司から、黒い服を着てクールぶった髪の毛多めの僕に電話がかかってきて、上記の旨の内容を、一方的に話され、電話を切られた。

こういうことである。(どんまい)


なるほどねえ。(頭の中はフィクションのまま)

それで、僕とYチーフに交代したわけか。要は、この店を前の店みたいな感じにして欲しい。そういうことか。

少し大変そうだが、それはまあいけるだろう。僕もわりと綺麗好きな方だし、Yチーフに至ってはそれが「得意分野」だ。

いや、むしろそれはYチーフ主体にやれば、いけてしまうんじゃないか。いや、きっといける。だって前の店は、僕が来た時にはすでにめちゃめちゃ綺麗だった。


あれ、?

俺、やる事無くね?

一瞬そんなことを思いそうになったが、すぐに頭から消え去った。(え、)


上司が本当に求めていたことは、「名実ともにトップ」になることだ。誰からも文句を言われない店にすることだ。その手段として、「店を綺麗にすること」だった。


確かに売上はトップ、人員豊富で、質も高い。それでいて、店も整理整頓されていて、美しい。となれば表面的には、完璧だ。

会社受けもさぞ良かろう。(あまり好きではない視点)


ただ、僕はそういうわけにはいかない。(ん?)

もう一つの問題を見て見ぬ振りはしない。

上司はこの件について、一言も触れず、1ミリもかすりもしなかったが、僕は見逃す訳にはいかない。(どうした!)

それは、

「社員の労務環境」だ。(むむ!)


前の店長とチーフは労務環境が酷かった。会社所定の休日はおろか、法定休日を取れるかどうかという感じだ。それこそ僕が毎週来ていた一番の理由も、「店長の休み回し」だった。


会社や、お客向けだけでない、働く側、それもスタッフだけでなく、店長や社員目線でも働きやすい店。

それは、売上や評価に直結するようなものではないのかもしれないが、良い店という上では非常に大切で、欠かせないことだと思っていた。


「店長が潰れた店は、周りがどんなに優秀であろうとも潰れる。」


これは、僕の経験上、明らかだった。

それが大抵の人間は、「飲食店なんてこういうもんだから」なんて理由で、初めから諦めてしまっている。僕はそれが少し気に食わなかった。

「やる側がそんなことを言っていたら、変わるわけないじゃないか。」

そう思っていた。


僕は、店に恵まれたのかもしれないが、今まで、他店のスタッフや社員からの「ヘルプ(営業支援)」を受けたことがなかった。

確かに苦しいシーンもあったが、「意地でも」貰わなかった。

それは、甘えたくないからであり、僕の小さな、経営者としての「プライド」だった。

僕が会社の社長だったとして、会社がいくら「人員不足」だったとしても、「ヘルプ」なんてものは存在しない。スタッフにお願いして多く働いてもらうか、採用して人を増やすか。基本的にはそれしかない。最終的には自分が体を張るしかない。

「雇われ店長」には違いないが、そんな小さなプライドはあった。

ただ、東京で「関東最悪」と言われた店にスタッフが揃い、社員が休めるようになっただけでなく、他店にヘルプを出したり、僕自身がもう一店舗の店長を兼任できたり、そういうふうにできたのは、この「小さなプライド」のおかげだったと思っている。


べつに、ヘルプをもらうことは、スタッフやお客のためにもなるから、「悪」とは言わない。ただ、僕はそういうわけにはいかない。


そうだ。

店を綺麗にするだけじゃ足りない。働く側、スタッフだけでなく、店長や社員もしっかり休むことのできる店にしよう。

それが僕の中では、

誰が見ても文句のつけようのない店。そして、誰から見ても、良い店。


忙しいから社員の労務環境が悪くなる。

人が少し足りない、能力が少し足りない、からかもしれない。

そう思っていた。


ただここに、

中に入ってみないと分からない、厄介な問題が隠れていた


そういったところで、今日のところは、お開きとさせていただきます。


それではまた。
















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