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『失敗を防ぎ成功へ導くタイムスリップマネジメント 夢・目標が叶う未来に行く方法』第1章・無料全文公開

6月22日発売の書籍『失敗を防ぎ成功へ導くタイムスリップマネジメント 夢・目標が叶う未来に行く方法』より、第1章「時代に適合するマネジメントサイクルはないのか?」を全文公開!

映画の主人公みたいにタイムスリップができたなら

「できるわけがない」という思い込み

「今から言うことは、決して冗談ではないから、よく聞いてほしい。さもないと大変なことになる……」

大きな失敗が起こる前にタイムスリップして、自分やまわりの人に伝えることができたなら、どれほどよいことでしょう。

映画には、『君の名は。』(2016)、『テルマエ・ロマエ』(2012)、『時をかける少女』(2006)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)、『素晴らしき哉、人生!』(1954)、などタイムスリップを扱った作品が多数あります。

私は映画好きなことから、ここで解説をはじめると長くなりそうなので、簡潔にまとめると……。主人公が過去や未来の世界へタイムスリップして、そのなかで葛藤し、よい方向へ未来を変えるために現状や課題に立ち向かい、そして未来が少しずつ変わっていくといった物語です。

私たちは、映画の主人公の活躍を目の当たりにして、何を感じるでしょうか?

「主人公みたいにタイムスリップができたらいいのに……」「フィクションだから、現実には起こりえない話」「そんなことできるわけがないでしょう」などと思いますよね。

もしも、あなたが「タイムスリップをして世の中を救いたい!」と思っても、常識的・科学的に考えても無理な話で、あきらめてしまうことでしょう。

実は、私たちは日々、現状維持バイアスのなかで暮らしているのです。

現状維持バイアスとは、経済学者のウィリアム・サミュエルソン氏とリチャード・ゼックハウザー氏によると、「意思決定をする際、有益であったとしても、知らないものや経験したことのないものを受け入れることに抵抗を感じて、これまでの常識やルールを守ろうとする心理傾向が働くこと」を示しています。

つまり、これまでにしたことのないタイムスリップに対して、「できるよ!」といきなり言われても未知なものであり、変化することに無意識に抵抗して、これまでの常識に固執し、あきらめてしまうのです。

これは仕事に置き換えても同じことがいえます。企業でも行政でも団体でも、いたるところで目にする光景であり、「先行事例はありますか?」「導入実績はどうですか?」などと、本来ならどこも実施していないことを誇るべきところで、新しいものをつぶしてしまう管理職が実に多いこと……。現状維持バイアスは、新しいものへの進化を止める大きな足かせのひとつなのです。

タイムスリップができたら、あなたなら何をしますか?

もし、あなたが映画の主人公のように、タイムスリップできる力があったら、何をしたいでしょうか。頭のなかでイメージしてみましょう。

「もう一度、あの人に会いたい」
「健康が大切だと教えてあげたい」
「資格試験に受かる方法を教えてあげたい」
「交通事故に遭わないように忠告したい」
「未来の自分が何をしているか見てみたい」

など、たくさんあると思います。多くの人にとって、タイムスリップができたら、見てみたいことや、やりなおしたいことがあり、多種多様なイメージがそれぞれの頭のなかに秘められていることに気づかされます。

イメージが膨らまない人のなかには、こういった人もいるかもしれません。

「これまで、すべて成功させてきたから、後悔して、やりなおしたいことなど、何もない」と。ただ、こういう人は極々少数派といえます。社会で成功した人こそ、たくさんの挑戦をしたなかで失敗や後悔を経験して、改良をくりかえして乗り越えてきたからこそ、今につながっているのです。

後悔の数だけ防げていた可能性がある

資格試験のように、年に1回から数回程度、チャンスが訪れるものならまだよいのですが、一発勝負のような第1希望の大学入試、いちばん入社したい会社の就職試験、など人生において、その後の運命を大きく左右する出来事も存在しています。そのときベストを尽くせなかった場合、人は後悔することになるのです。

実は「後悔」とは、人類が狩猟民族として狩りをしていた時代から必要不可欠な能力であったといわれています。

「獲物を倒し損ねて仲間が襲われたので、もっと矢の先を鋭くしてみよう」「水を運ぶ入れものの漏れがひどくて困ったから、詰めものをして漏れないように工夫してみよう」など、起こった出来事への後悔は、命の危険性も伴う野生動物に囲まれた生存競争のなかで生きていくための知恵でもあった、ともいえるのです。

生きていくための知恵であった後悔が、成熟した現代社会では個人の人生における後悔に変化してきたのでしょう。

後悔について、アメリカの詩人ジョン・G・ホイッティアー氏は、次のような言葉を残しています。

「すべての悲しい言葉のなかで、最も悲しい言葉は『あのとき、ああしていたら』である」と……。

あなたは悲しみのなかで、「もしも、ああしていたら」「もしも、こうしていたら」などと、しなかったことを何度も何度も後悔していませんか?

「プレゼンでもっとうまく話せていたら……」「あと数社だけ契約が多く取れていたら……」「あのときしっかり確認しておけば……」などと、人生を左右するような出来事に対して、ベストを尽くせず、後悔の念を多くの人が抱いているのです。

つまり、あなたのこれまでの後悔の数だけ防げていた可能性があるともいえるでしょう。

こんなはずではなかった不安定な時代の到来

不安定なVUCA時代がやってきた

私たちが日ごろからニュースで取り上げられ目にする、さまざまな悲惨な状況。戦争や侵略、震災、原発事故、土石流、人身事故、などによる被害が発生して、世界中の人々が犠牲になっています。昔と比べて、予測しにくく、何が待ち受けているのかわからない世の中です。

このような、変動し不確実で複雑化した曖昧な状況を、「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)」と呼んでいます。

私たちは変動の少ない確実な社会が、もはや戻ってこないことを理解して、複雑で曖昧な日々のなかを歩んでいかなくてはならないことに気づくべきでしょう。

日常的に起こる出来事のなかで、「こんなはずではなかった」と思うことが標準になった新たな時代に、私たちはもう足を踏み込んでいるのです。

もう後戻りできない

日本のいちばんいい時代とは、おそらく昭和だったのかもしれません(未来はわかりませんが)。昭和の時代といわれても、若い世代にはピンとこないことでしょう。

その昔、とくに「高度経済成長期」と呼ばれた、1955~1973年までの19年間、日本は年平均で10%もの成長を続けていました。所得が倍増し、人々の生活水準が向上し、あこがれの自動車を買い、「三種の神器」と呼ばれたテレビ・冷蔵庫・洗濯機が家庭に備わった時期でもあります。

その後、日本は安定成長に入り、国内外の投資家が日本の株や不動産を大量に購入したことから、「バブル景気」と呼ばれる実体経済とはかけ離れた状況を迎えました。時代が昭和から平成に入り、バブルが崩壊するとも知らずに……。

ご存知のとおり、バブル崩壊後の日本は「失われた20年」ともいわれ、長期にわたって経済の低迷を続けることになりました。

その証拠に、国税庁の統計資料によると、30年以上前の1990年の平均年収は、約425万円に対して、2020年の平均年収は約433万円と、わずかに8万円ほど微増しているものの、これは世界的な水準から見たら、横ばいとしかいえない水準なのです。

平成、令和と、日本経済は低迷を続けたあとに、緩やかに立ち直りを見せてきたのですが……。新型コロナウイルスの感染拡大で、さらに大規模な経済危機に直面したのです。

これまでを振り返ると、高度経済成長期からバブル景気が絶頂のころの昭和時代がまぶしくて仕方ありません(そう思わない人がいたら、すみません……)。

ただ、昭和がいくら日本にとってよい時代だったからといって、後戻りはできないのです。後戻りできない以上、前に進むしかありません。

不安定なVUCA時代にどうやって前に進んでいくのがよいのか、これまでと同じやり方でよいのかを考えてみる必要がありそうです。

なぜ、あなたの組織は失敗をくりかえすのか

あなたはどの失敗のタイプ

不安定なVUCA時代の到来により、これまでのように先を見通せなくなり、人々はより失敗に直面しやすくなっているといえます。失敗には、どのようなものがあるのでしょうか。失敗にはタイプがあり、次の4つがあげられます。

①単純なミスによる失敗
②新しいことに挑戦したときの失敗
③予測できなかった失敗
④組織の体質や風土による失敗

これらを順番に見ていきましょう。

「①単純なミスによる失敗」は、不注意で発生したもので、複数人での確認、作業の指差し確認、チェックリストによる確認、などで減らせます。

「②新しいことに挑戦したときの失敗」には、失敗分析がもちろん必要となるでしょう。しかし、責めるべきものではなく、どちらかといえば容認されるべきものです。職場の自由な発言を確保し、心理的な安全性を確保して、次の挑戦をうながす寛容な対応が求められます。

もしも、上司から叱責されて、部下が挑戦する気持ちを失ったら、どうなるでしょう。たとえば野球でいったら、攻める回がない、守備だけの試合のような状態でしょうか。これでは試合に勝つことが限りなく難しくなり、企業なら業績が上向くことは、まずないでしょう。

「③予測できなかった失敗」は、想定の甘さ、想像力の欠如によるものです。重大な失態を犯した企業や行政が、「想定外でした」と連呼する記者会見をイメージするとわかりやすいかもしれません。

失敗を防ぐには、個人や組織の想像力を高める必要があります。タイムスリップマネジメントは、主にこのタイプの失敗を限りなく減らす試みになっています。

「④組織の体質や風土による失敗」は、組織全体に関わることから、すぐになくならない失敗のタイプです。取り組みに大きな差の出ている業界があるので、ここで紹介しましょう。

世界的ベストセラー『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者のマシュー・サイド氏は、医療業界と航空業界を失敗の影響が大きい業界として比較し、両者の違いが失敗への向き合い方にあることを示しました。

米国の医療業界は、失敗に向き合えず、年に約4万4000~9万8000人の医療ミスによる死亡者が出ているのに対して、航空業界は、航空機搭載者約30億人に対して、死亡者がわずか201人(2013年)。航空業界の組織文化の奥底には、失敗してその結果からの学びを徹底的に蓄積する姿勢があり、ニアミスを起こしたパイロットは、10日以内に報告書を提出することで処罰されません。ミスを隠すのではなく、共有して失敗から学ぶ組織文化を徹底しているのです。

失敗を隠す組織と失敗から学ぶ組織

失敗と組織的に向き合うことで、航空業界は安全な空の旅を叶えてきました。

一方、米国の医療業界は、組織的な学びを構築できず、再発をくりかえすことで、多くの死亡者を出して裁判となり、多額の賠償金を払い続けています。職場では失敗の犯人探しや押し付け合いが起こり、組織に対する不信感が増していくのです。

個人に目を向けてみると、失敗して後悔する人は、対策もせずに(もしくは気づくこともなく)起こった出来事に翻弄され、慌てて対応が後手にまわり、考えの足りない対応をしてしまいます。するとどうなるのか?

「ああしておけばよかった」のはじまりとなり、後悔することになります。失敗には大きなチャンスも潜んでいることもあるのですが、失敗への対策をしっかりしておかないと、チャンスに気づくこともできず、人は失敗をくりかえしてしまうのです。

ではどうしたら、組織的や個人的な失敗を防げるのでしょうか。

タイムスリップマネジメントでは、成功と失敗の目標をそれぞれ立てます。「成功の目標」とは、あなたが叶えたい最高の状況であり、「失敗の目標」とは、あなたにとって防ぎたい、どん底の状況です。失敗を放っておき、防ぎたかったどん底の状況が現実のものとなったとき、これこそが人生における後悔の火種になります。

失敗を防ぐには、「失敗の目標」を立てて、未来に起こる失敗する場面を予測し、その時代にタイムスリップして、事前に対策を講じておけばよいのです。

組織の全員がタイムスリップマネジメントの概念を理解し、能力を高めることで、組織は限りなく失敗に強くなり、生まれ変わることができます。失敗を隠すこともなくなることでしょう。なぜなら、壊滅的な状態の未来が見えているのですから……。

失敗して後悔する数が年々増えていく未来、失敗を予測し後悔が減っていく未来。あなたは、どちらがいいですか? おそらく多くの人が後者を選ぶはずです。その未来は、タイムスリップマネジメントを身につけられるかどうかにかかっています。

「VUCA時代」といわれるこの時代。正直、未来に何が待ち受けているのか、わかりません。そのようななかで、あなたや組織に起こる失敗を防いでくれて、成功に導いてくれるものがあれば、知りたいと思いませんか?

不安定で不確かなVUCA時代だからこそ、タイムスリップマネジメントの必要性を読者の皆さんにお伝えしたいのです。

後悔しない人生のために「失敗を防ぐ力」が必要

60歳になって思う後悔とは

皆さんにとって人生の後悔とは、真っ先に何を思い出しますか?

学生なら、部活やクラブの大会での予期せぬ敗退や、受験時の志望校入学の失敗、趣味のコンクールや発表会でよい実績が出ないこともあったでしょう。

社会人であれば、仕事の発注ミスで関係各社への謝罪行脚したこと、営業成績が伸びず冷遇されたこと、上司に文句を言いすぎて管理職への昇進が遅れたこと、楽しそうな転職の誘いを断ってしまったこと、飲み会でハメを外しすぎて大失態したことなど……。

年配の方であれば、挑戦せずあきらめてしまった夢や旅、将来を見据えて行動しておけばよかったこと、などこれまでの人生のなかで悔しかったことや後悔したことがいろいろあると思います。

なかには、「3日や1週間の悩みなど軽い軽い! 私は1年以上悩んだ」という人もいるかもしれません(それ以上の方へ、大変失礼しました)。

後悔しない人生を過ごすために、人生を長く過ごしてきた先輩方のご意見は、やはり参考になることでしょう。

PGF(プルデンシャル・ジブラルタ・ファイナンシャル)生命が実施した、2021年の還暦人に関する調査で、「20歳の自分に会えたら、伝えたいと思う言葉(自由回答)」は何か? の問いに対し、1位「勉強しなさい」、2位「頑張って」、3位「貯蓄しなさい」、4位「やりたいことをしなさい」、5位「人生を楽しみなさい」という結果になっています。

※PGF生命「2021年の還暦人(かんれきびと)に関する調査」 

https://www.pgf-life.co.jp/company/research/2021/001.html

 この結果を見ると、勉強せず、頑張らずに手を抜いて、お金を浪費しすぎて、やりたいことを我慢して日常生活を過ごし、人生を楽しんでこなかった日々が目に浮かびます。

あなたが60歳になったとき、それでいいのでしょうか。

「60歳になったら還暦人のアンケートに答えて、後悔したことをたくさん書き込むのが夢でした」と言えますか? 同じような回答をしたいと、私は思いません。できたら皆さんには、「満足感の高い楽しい人生であった」と振り返ってほしいのです。

失敗を防ぐことで高まる成功の精度

これまで目標を目掛けて、振り返らず、がむしゃらに進んできた人もいることでしょう。

ただ、成功だけを目標に突き進むことを、私はオススメしません。むろん、組織の業績を向上させるために、目標を掲げて商品やサービスを販売していくことは重要です。否定する気もありません。

しかしながら、成功だけを見ていると、足元をすくわれることが突如として起こります。なぜなら、「成功しなかったのは、失敗を防げなかったからだ」とも言い換えられるからです。

たとえば、新商品が完成して、いよいよ販売開始と思ったら、他の部門の売上に減少の影響が出るカニバリゼーションが発生することがわかり、社内事情で半年の販売延期がされたとしましょう。そのあいだにライバル会社が同程度の商品やサービスを市場に投入して、占有されてしまった……。

このようなことは現実問題として、タイミングを逃した場合に起こり得る話であり、タイミングは企業の経営にも非常に大切な要素なのです。

こうした企業では、「成功の目標」だけでなく、ライバルに先に市場を占有されるといった「失敗の目標」も、あらかじめ立てておく必要があったのではないでしょうか。そうすれば、市場投入の遅れをカバーするために、製品の差別化を強化すること(マイケル・E・ポーター氏による競争優位の基本戦略のひとつ)や、専門の流通チャネルを確保して参入障壁をつくり、ライバル会社が占有できない状態にする方法も考えておくことができます。

これは、もし「成功の目標」だけを目指していたら、できない対策なのです。成功の精度を上げるには、「失敗の目標」を意識する必要があることに気づかされます。

失敗に関連して、言語学者で評論家の外山滋比古氏は、著書『失敗談』(東京書籍)のなかで、「ものごとについて失敗からはじめたほうがよい」といっています。

さらに、失敗(マイナス)が成功(プラス)に化ける偶然について、成功の連続から成功が出ることが難しくても、失敗のあとには予想外の成功が出てくることがおもしろいと述べているのです。

リスクマネジメントと何が違うの?

教えてリスクマネジメント

「あれ、タイムスリップマネジメントって、似たようなものがあった気がして……リスクマネジメントやクライシスマネジメントとは、どう違うの?」と疑問をもたれた方もいるかもしれません。

監査法人トーマツでシニアマネージャーを務めた仁木一彦氏によると、リスクマネジメントとは、「リスクが発生しないようにリスクを管理すること」と定義しています。危機が発生する前に、被害を回避または最小限に抑えるための対策が主なものです。

また、リスクマネジメント(リスク管理)には、国際標準化機構が定める国際規格ISO31000があります。この国際規格は、なんと日本発祥の規格なのです。

もともとは、阪神・淡路大震災を発端として開発した危機管理システムを改良して、日本・オーストラリア・ニュージーランドが主導して規格化しました。その後の東日本大震災と原子力発電所の事故の発生により、リスクマネジメントはいっそう着目されるようになったのです。

以前には、リスクマネジメントとクライシスマネジメントが別々に議論されていたこともあったものの、現在では「リスクマネジメントにクライシスマネジメントが含まれる」と整理され、国際規格付属書の緊急時対応の事前の備えとして位置付けられています。

リスクマネジメントでは、組織が直面するリスクの管理を行うための適用可能な指針を定めて、経営のために取り組むプロセスを明確にする必要があります。

ISO31000の具体的なプロセスを見てみましょう。リスクマネジメントでは価値の創出および保護を意図して、適用範囲状況、基準、などを明確にするとともに、リスクの特定、分析、評価、対応、コミュニケーション・協議、モニタリング・レビュー、などを行い、リスクを修正するプロセスを効果的・持続的に運用していくことが求められます。

このプロセスを見ただけで、国際規格らしいと風格と重厚さを感じ取ることができますよね。

あくまでガイドラインであり、ISO9000・ISO14000シリーズのような認証制度はなく、強制力もありません。しかしながら、適合を公表することが可能となっています。もしも、経営者を含む組織のリスクマネジメントを運用する場合には、比較的大掛かりな準備、手順書の作成、事務作業の発生が見込まれると思ってまちがいないでしょう。

リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメントの特長について触れてきました。続いて、リスクマネジメントとタイムスリップマネジメントの違いについて、整理していきましょう。

①未来の失敗だけでなく、成功への対策も同時進行
リスクマネジメントは、リスクの管理に着目し、リスクを修正するプロセスを進めていくことが中心であり、リスクによる失敗を防ぐことに特化しているといえます。

一方、タイムスリップマネジメントは、リスクを「失敗の目標」と捉えて防ぐための対策を講じるだけではなく、夢や目的の達成といった「成功の目標」への対策も同時進行で行える特長をもっています。成功と失敗の目標を定めて、片方だけでなく両軸で対策を講じることから、それゆえ「失敗を防ぎ成功へ導くタイムスリップマネジメント」といわれる所以でもあるのです。


②大掛かりな作業不要、失敗想定が容易で高い親和性
リスクマネジメントは、組織レベルでの対応が求められることから、リスクに対して、方針や計画の決定、リスクの特定、分析、評価、報告、など一連の大掛かりな作業を伴う必要があり、導入に伴う組織の労力が比較的大きいと考えられます。

一方、タイムスリップマネジメントには、失敗を共有する、FS(フェイルシェア)マネジメントサイクルが個々のプロセスに組み込まれています。考え方がシンプルでありながら失敗を想定することが容易であり、企業や行政で活用されているPDCAサイクルなどのマネジメントサイクルとの親和性が高いことも特長です。


③組織利用だけではない適応性
リスクマネジメントが企業・行政・NPOなどの団体のリスクを主な対象としたものであり、使用が組織に限定される傾向があります。

一方、タイムスリップマネジメントでは、企業・行政・団体などの組織の他に、個人でも活用できることから、高い適応性を示しています。たとえば、就職・結婚・昇進・起業・リストラ・健康・資格・夢。さらには、突発的な対応が求められる、面接・災害・事故・ハラスメント・忘れものなどにも幅広く適応可能となります。

すなわちタイムスリップマネジメントとは、組織だけでなく、個人として多くの人に実践的に活用してもらえる、失敗を防ぎ成功へ導く新たなマネジメントの方法なのです。

マネジメントサイクルが対応できないのはなぜ?

還暦を迎えたマネジメントサイクルが時代遅れに

日本の高度成長期を支えてきたマネジメントサイクルといえば「PDCAサイクル」。その王道ともいえるサイクルが、誕生から60周年を迎えています。人でいえば還暦となり(雇用延長制度があるものの)、定年の年です。経済が拡大し、商品をつくれば売れた右肩上がりの時代に、PDCAサイクルは生まれました。

では、PDCAサイクルはどのように誕生したのでしょう。

1950年に来日したデミング博士が講演のなかで、デミングサイクル「①設計、②製造、③販売、④調査・サービス」を提唱しました。それをたまたま聞いていた日本科学技術連盟の幹部が影響を受け、考案したのがPDCAサイクルといわれています。

PDCAサイクルには、「P(Plan:計画)・D(Do:実行)・C(Check:評価)・A(Act:改善)」のプロセスがあり、具体的には、計画を立てて、その計画を実行し、目標数値などをもとに評価して、改善を行うものです。

その特長として、長期的な計画に向いており、安定性した状況下で効果を発揮すること、予測データを活用して計画を立てること、急な計画の変更に時間がかかり対応が難しいこと、などがあります。

日本の企業への広がりとしては、製造業を中心とした品質を向上させるQCサークル(小集団改善)活動のプロセス、国際標準化機構の国際規格ISO9001やISO14001、などでも用いられていることから、その浸透がPDCAサイクルの普及に貢献してきました。

行政への広がりとして、都道府県・市町村の総合計画や国主導により、全国の地方公共団体で導入が進んだ総合戦略の進捗管理、行政評価のプロセスとして、PDCAサイクルが標準的に使用されています。

行政では、計画を立てて予算要求し、実際に事業を実施して、行政評価で事業を評価し、翌年の予算に改善を反映させる流れが一般的です。行政でPDCAが用いられていないところを探すほうが、おそらく大変でしょう。

このようにPDCAサイクルは、「日本で生まれ育って世界に羽ばたいた国際基準」ともいえる存在なのです。

しかしながら、VUCA時代といわれる変化に富んだ不確実な時代を迎えて、PDCAサイクルが果たして時代に適合できているのか、時代遅れになっていないのか、疑問をもたざるを得ない事件や事故を目のあたりにします。企業や行政の対応が遅れて、テレビや新聞、ネットなどで謝罪会見している光景を見たことがありませんか。「誠に申し訳ありませんでした」と一列に並んで頭を下げるあの場面です。

たとえば、企業が衛生管理を怠って食中毒を起こしたり、行政機関による入札情報の漏洩で職員の逮捕者が出たりしています。

「ああまたか、不祥事は絶対なくならないよ」と思っている人もいることでしょう。

不祥事を起こした企業や行政は、仕事の基本としてPDCAサイクルを活用しているところがほとんどといえます。なぜなら、職場の研修や先輩からのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で慣習としてPDCAサイクルを習い、覚えて、当たり前に使ってきたからです。

極端にいえば、すべてではないものの、PDCAサイクルにもとづいて、しっかり仕事をしていたからこそ……不祥事が起こり、謝罪会見を開くことになったともいえます。 

不安定な時代に対応するOODAループの登場

PDCAサイクルには、不確実性への対応力と即応性が低く、計画に時間がかかるなどのデメリットがあります。これらのデメリットを克服する、新たなOODAループが不安定な時代に対応するために登場しています。書籍もいくつか発売されていることから、書店で見たことがある人もいるかもしれません。PDCAサイクルに比べて知名度は低く、知られているとは、まだまだいえませんが……。

OODAループは、元戦闘機パイロットで軍事戦略家のジョン・ボイド氏が考案。4つの特長的な活動があり、①O(Observe:観察)・②O(Orient:情勢判断)・③D(Decide:意思決定)・④A(Act:行動)で構成されています。

具体的には、観察にて情報を収集し、情勢判断として観察情報をもとにして、解決策の方向性を見出し、最善の策の意思決定を行い、決定にもとづいて行動をするものです。

その特長として、即時性、ミッション重視、事実データ活用、などがあり、NATO(北大西洋条約機構)加盟国などの西側諸国だけでなく、中国などを含む世界中の軍隊で採用されているといっても過言ではありません。企業ではアイリスオーヤマ、行政では福井県などでも活用されています。

たとえば、軍隊では戦時となれば、本部が敵に奇襲されたり、予想されていた補給物資が途中で寸断され届かなかったり……。事前に立てた計画は、戦争がはじまり、時間が過ぎるほど、ほぼ役に立たなくなってしまうのです。

そのようななかでは、ミッションにもとづいて、戦況の事実データを集めて観察することで、情勢判断のために戦術の方向性を示し、戦術の内容を決定して、スピードを重視して行動することが求められます。

企業の例として、アイリスオーヤマを取り上げてみましょう。

インテリア・家具・家電など年間商品開発数が約1000個という、すさまじい商品企画力を有しています。実は商品企画力を支えている特別な仕組みがあるのです。

具体的には、商品ごとにグループで情報収集をして観察、方向性の情勢判断を行い、商品企画の検討を進めて、毎週月曜の企画会議にてプレゼンが行われます。意思決定を社長ひとりだけで行い、1日当たり70件もの案件を審査することに……。社長の採択の意思決定後に開発や改良が行われ、商品として販売されるのです。

社員は課長・部長への説明や稟議書も不要で、社長は自らが責任を取ることだけに集中します。商品企画のグループごとに、熾烈な商品競争のなかで優位性を確保するために、OODAループを高速にまわしている、よい例といえるでしょう。

OODAループには、スピード重視、目的が明確なミッション型などのメリットもあり、ベンチャー企業などにあてはめてみると、サービスや製品開発時のトライ&エラーは、まさにこのループそのものです。

これまでのマネジメントサイクルの課題

OODAループは、PDCAサイクルの課題である、スピード感のなさの解決には役立っているといえます。しかしながら、失敗を防ぐ力はPDCAサイクルと同等の力しかもち合わせていません。

この2つのマネジメントサイクルは、目標を達成するために、その力を最大限に発揮するように設計されていて、そもそも失敗を起こしやすい時代には適応できていないのです(ベンチャー企業では、失敗を失敗とせずに「挑戦」と呼ぶこともありますが)。

OODAループを使っている企業・行政でも、PDCAサイクルを使っている企業・行政と同じように不祥事などの失敗を起こして、説明会見を開いたり、ニュースで取り上げられたりしています。OODAループを用いて物事に即時対応ができていたとしても失敗を防げず、時代に適合できているとはいえないのです。

そもそもマネジメントサイクルは、失敗を防ぐことができない宿命なのでしょうか。いや、違います。本書で紹介しているタイムスリップマネジメントは、まさにその視点にフォーカスし、これまでのマネジメントサイクルにはなかった、「失敗を防ぐ」といった課題を克服し、スピード重視の時代にも適合できるように、新たに設計されたものなのです。

なぜ、対応が後手にまわるのか

まずは、現状を疑ってみて、常識を壊すことが大切です。PDCAサイクルやOODAループを活用している企業や行政は、なぜ失敗して対応が後手にまわるのか。その原因を明らかにしていきましょう。

私の研究では、既存のPDCAサイクルやOODAループなどのマネジメントサイクルには、実は盲点が存在しており、変化する時代への不適合が生じ、機能不全の状態が明らかになっています。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた昭和の過去の成功は、まさに「PDCAサイクルとともにあった」ともいえ、これまで日本の産業を支えてきた立役者のひとつといえるでしょう。

PDCAサイクルが生まれて60年が過ぎ、半世紀前以上前に開発されたマネジメントサイクルが今の時代を予見できていたとは到底思えません。還暦を迎えて変化する時代に適合できずに、取り残されてしまっているのが実情なのです。なんだか、世界から見た日本とダブって見えませんか……。

還暦を迎えたPDCAサイクルのスピード感の不足を補い、変化する時代に適応する必要性から、スピード重視のOODAループが登場しました。VUCA時代に適応したマネジメントサイクルとして、企業や行政でも利用されはじめています。

しかしながら、PDCAサイクルもOODAループも目標を達成するためのマネジメントサイクルであって、失敗を防止するために重きを置いてつくられていないことから、失敗が発生したときに、企業も行政も想定ができておらず、対応が後手にまわってしまうのです。

ここまで、タイムスリップマネジメントが必要とされる背景を述べてきました。

不確かなVUCA時代であるからこそ、映画の主人公のようにタイムスリップができて、後悔しない人生が送れるとしたらどうでしょう。還暦を過ぎたマネジメントサイクルを使い続けて、後手にまわる対応を続けるのもいいですが……。

スピード感をもちながら、失敗を防ぎ成功に導く、これまでになかったタイプのマネジメントサイクルがあるとしたら、使ってみたくはありませんか?

次章からはいよいよ具体的に、その方法を皆さんにお伝えしていきましょう。

*   *   *

第1章はここまで!
続きを読みたい方は、各電子ストアにて6月24日より随時発売になります。ぜひお買い求めください。
下記リンクはAmazonストアでの商品ページになります。書籍の詳細と目次もこちらからご覧になれます。
書籍『失敗を防ぎ成功へ導くタイムスリップマネジメント 夢・目標が叶う未来に行く方法』

■ペーパーバック版(紙)

■Kindle版(電子書籍)

■書籍情報

機能不全を起こしているマネジメントサイクルの課題を克服する1冊!

本書は、「成功を確かなものにしたい人、計画が苦手な人が、成功と失敗の目標を立て、創造性と計画性を最大限に発揮する新しいマネジメントの方法」を提供します。

多くのビジネスパーソンの皆さんが使っているPDCAサイクルやOODAループなどのマネジメントサイクルに盲点が生じ機能不全を起こしていることが、著者の研究で明らかになっています。企業や行政はトラブルなどの失敗を防げず、対応が後手に回っているのが現状です。

想定外の失敗を防ぐためには、これまでの常識を覆す発想の転換が必要になります。そこで、既存のマネジメントサイクルの「失敗を防ぐ」という課題を克服できるように、「タイムスリップマネジメント」が新設されました。

本書をもとにしたワークショップでは、ビジネスパーソンはもちろん、小学生からシニア世代まで多くの人が受講し、行動変容を起こしてきた実績があります。
アンケート調査結果から約8割の受講者が計画性の向上を感じ、「失敗を防ぐ計画はまさに盲点」「失敗の数を大きく減らせた」「すぐに実践できるので、これからの人生に生かしたい」など大きな反響が寄せられています。

読者の皆さんがタイムスリップマネジメントの習得が簡単にできるように、ストーリー仕立ての初級編・実践編が用意されています。さらに、夢や目標を実現するために必要となる、4つの新たなマネジメントサイクルの活用方法も解説。
本書を読むことで、仕事のミスを減らしたり、トラブルなどの対策を取ったりできるようになります。さらに、創造性を生かした未来を先読みする力を身につけて、仕事の計画性を高め、皆さんの力を最大限発揮することが可能となるのです。そして、実践的にスタートできるようになっています。
失敗を防ぎ後悔を減らせて、成功へ導けるのなら、すぐにでも試してみたくありませんか? タイムスリップして、あなたが望む未来を手に入れましょう!

【目次】

第1章 時代に適合するマネジメントサイクルはないのか?
第2章 実践! タイムスリップマネジメント
第3章 効果的に使うタイムスリップマネジメント
第4章 発想の転換が必要な時代
第5章 あなたの未来を変えるために必要なもの

【購入特典】

タイムスリップマネジメント ワークシート

■著者プロフィール

坪井秀次

行政学者、浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 地域共創学科 講師
「タイムスリップマネジメントワークショップ」を小学生からシニア向けに展開し、受講者の約8割が計画性の向上を実感し大きな反響を呼ぶ。元公務員の行政学者として、マネジメントサイクル、イノベーション組織、地方自治制度を主に研究。静岡県立大学大学院 博士(学術)、政策研究大学院大学 修士(政策研究)。

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