【ビジョナリーカンパニー編12:やってみなはれ (前半)】
前回までの投稿を上記に入れています。
ある日、入社20年になる健は工場長の哲也に呼ばれ工場長室に行く。健はここ数年、全社が注目する新規事業の計画・プロセス立ち上げをこの工場で行ってきた。立ち上げが終わり、そのまま課長をするよう内示を受ける。それと同時に工場長からビジョナリーカンパニーについての解説・指導を受けます。1章でビジョナリーカンパニーの定義、2章で時計を作ることの大事さ、第3章で時計のための理念の重要性、AND思考重要性、そして、第4章でその理念をどう維持、進歩させていくか解説してきました。第二部として5、6章と解説してきましたが、今回は、第7章「大量のものを試して、うまくいったものを残す」の前半を解説します。
・・・
◆意図的な偶然
🧒;おはようございます。
👨🦳;おはよう。今日は、第六章の「大量のものを試して、うまくいったものを残す」だ。
🧒;前回と違って前向きというか、挑戦していくイメージが伝わってきますね。
👨🦳;とはいえ、最終的には同じこといっているがな。まあ、いろんな側面で理念の維持と進歩の方法について、この本は解説していてその具体的な活動の一つと思ってもらえればいいさ。
🧒;はい。お願いします。
👨🦳;ビジョナリー・カンパニーの社史を調べていったとき、各社でとくに成功した動きのうちいくつかが、綿密に計画され、計画通りにいったというものでなくある意味思い付きにも見えるような施策であったり、実験的なものであったり、試行錯誤であったり、偶然の結果であったりするものがあったんだ。でも著者はそれを、「意図的な偶然」の結果であったりするといっているけどね。
🧒;意図的な偶然、面白いですね。でも妙に納得できるというか。
◆偶然に消費財に進出したジョンソン&ジョンソン
👨🦳;では、ジョンソン&ジョンソンの例を見ていこう。1890年、消毒ガーゼと絆創膏を主力製品にしていたジョンソン&ジョンソン(J&J)が、薬用絆創膏のいくつかで患者の皮膚が炎症を起こしたという抗議の手紙を、ある医師から受け取ったんだ。そして、J&Jはスキン・パウダーをこの医師に送った。それを機に、いくつかの製品に、このパウダーを小さな缶に入れて同封するようになった。これは医療関係者向けでな。でも、それが、消費者から直接に要望が寄せられるようになったってわけ。
🧒;なるほど、それで、そのベビー・パウダーを独立した商品として販売するようになったのですね。私でも知っているJ&Jのベビーパウダーですね。
👨🦳;ちなみに、同社の公式の社史によれば、「当社がベビー・パウダーを販売するようになったのは、まったくの偶然によるものであった」。と書いてあるんだ。
🧒;「偶然」をきっかけに、医療用品や医薬品と変わらないほど会社の成長にとって重要な事業を築き上げたのはすごいですよね。
👨🦳;さらにもうひとつの有名な商品にも偶然が起きているんだ。1920年、同社の社員、アール・ディクソンが妻が包丁で何度も指を切ってしまうことをきかっけに、外科用のテープに小さなガーゼをはりつけ、特製のカバーをつけて皮膚にはりつかないようにした、簡単な絆創膏を作った。そして、マーケティング部門が、製品を市場で試してみることにした。はじめはなかなか売れなかったし、製品に不備もあったが、やがて、この製品バンドエイドは同社の歴史で最大のヒット商品になったんだ。
🧒;バンドエイド、今日も私、深爪して使っております。ありがとうJ&J。でも、偶然と言いながら、マーケして、粘って開拓して成功していくってことなのですね。なので、意図的偶然ということなのかもしれませんね。
◆進化する種としての企業
👨🦳;ジョンソン&ジョンソンを事例から、その意図的な偶然って例外なのかどうか考える必要がある。
🧒;はい。計画なしで行くなんてすごいですよね・・。
👨🦳;それはちょっと語弊がある。誤解を招かないように付け加えるなら、これらの企業が計画を持ったことがないと言うわけではないんだ。計画以外のなんらかのプロセスによってもたらされたものが多いってことがいいたいんだ。
🧒;なるほど、計画はあったけども、それ以外のところで予期せぬ状況が起きたってことですね。でも、それはなんだろう、ただの幸運とはちょっと言いにくいというか、なにかあるんでしょうね。
👨🦳;著者は、ひとつの結論を導き出したと言っている。ビジョナリー・カンパニーは比較対象企業に比べて、BHAG (社運を賭けた大胆な目標)に続く第二の進歩として、進化による進歩を実現していると言っているんだ。
🧒;進化による進歩??BHAGも、大胆に挑戦して組織自体が進化していると考えられるので同じことを言っているように思いますが。
👨🦳;進化による進歩は、二つの基本的な点で、BHAGによる進歩とは違っている。第一に、BHAGによる進歩では、明確な目標を掲げるっていうのがポイントだったよな。でもここで言っている進化による進歩っていうのは、目標はあいまいだ。「いくつもの方法を試していけば、いつかうまくいくものにぶつかるだろう」っていう姿勢なんだ。
🧒;なるほど、確かにBHAGは明確で計画とはいわないまでも覚悟をもって進めていくというのはありますね。ちょっと偶然とは違う。
👨🦳;第二に、BHAGによる進歩では思い切った飛躍をするんだ。進化による進歩では、通常、はじめはそれまでの事業の延長線上にすぎず、小さなことから始める。予想外の機会をすばやくとらえて、そこから大きくなったものを戦略的な転換していくという格好だ。
🧒;そうか、小さな漸次的なことから始めて、そこから大きくしていくと。なるほどリスクは比較的小さいのですが、徐々に徐々に変化に挑戦していくことから、進化という言葉がつかれているのですね。小さなことを思いついたようにやっていく、それが結果として、計画にないという説明になるのですね。
👨🦳;実は生物の進化も似ている。生物の進化をだって、何か計画されてホモサピエンスになるってことではないよな。環境適応の結果でしかないはずだ。ダーウィンを経て、生物学者は種が計画通りにつくられたわけではないことを明らかにしている。
🧒;なるほど、ダーウィンも「強いものが生き残るのではなく、環境に適した変化ができるものが生き残る」といっていますもんね。要するに適応なのですね。その適応のために意図的な偶然が必要になってくる。小さなリスクで多くのものを試すということが必要なのですかね。
👨🦳;そう。進化の過程は、「枝分かれと剪定」に似ていると著者は言っているんだ。
“木が十分に枝分かれし、枯れた枝をうまく剪定(せんてい)すれば、変化を繰り返す環境のなかでうまく成長していくのに適した健康な枝が十分に持つ木に進化してくだろう。”
🧒;なるほど、剪定って表現が面白いですね。
👨🦳;そう。いくつもの新しいものを試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものはすぐに捨て去っている。
🧒;となると、権限移譲もしないとですね。
👨🦳;そうだ。個人、社員が新しいアイデアを実験できるようにして、同時に、厳しい先行基準を設けている。多数の試みのなかで、収益性を実証し、会社の基本理念に合っているものだけが、事業の一部として残されることになんだ。
◆3Mという会社
👨🦳;さっきはJ&Jの話をしてきたが、ここで非常に重要となる3Mの話をしよう。この本の著者は今後五十年間、百年間、成功を続け、環境の変化に対応していく企業を一社だけ選べと言われれば、3Mを選ぶ言っている。だけども、この3Mは設立早々、事業に失敗しているんだ。それも、大きな失敗だったんだ。非常に興味深くないか?
🧒;はい。それは非常に面白いです。
👨🦳;設立の際の事業目的であった研磨材原料の採掘が失敗に終わって、致命的な打撃を受けているそして、何カ月にもわたって、なんでも いから会社が生き残れる事業はないかと模索しているんだ。こんな記載がある。
“1904年十一月の寒い日々、取締役は毎週会議を開いて、解決策を話し合った。設立者は絶対にあきらめないと決意していた。幸いなことに、従業員も同じ気持ちだった。全員が会社の生き残りのために犠牲を払う「たとえば、無給の勤務時間を設ける」と申し出た。”
結局、取締役会は投資家のひとりの提案を受け入れ、鉱業からサンドペーパーと砥石車の製造に事業を変更することにしたんだ。そこで、綿密な計画によってではなく、必死の生き残り策として、3Mは鉱業をあきらめ、研磨材の製造をはじめた。
🧒;この時の会社としての意思がすごいですが、追い込まれていたことがすごくわかりますね。でもどうやって、そこからカムバックしさらに世界のトップ企業になったのでしょうか?
👨🦳;そこで、会計士から営業マンに転職したウィリアム・マックナイトという人物が登場したんだ。彼は、品質問題で苦戦していた、3Mを改善していく。1914年、3Mはまだ三十歳にもならないマックナイトを総支配人に昇進させた。彼は生来の時計づくりであったと言われている。
🧒;時計作り、すごいですね。なにもの。。
👨🦳;彼は、すぐに倉庫を「研究室」にて、五百ドルを投資して接着剤用の水槽を買い、実験と試験を行わせた。そして数か月の研究の結果、研磨布の「スリーエム・アイト」を発売したんだ。この新製品は大成功して、発売してから長年売れ続けている。
🧒;なるほど、スピード感ありますね。
👨🦳;そして、彼は常に事業機会をいつも探している人であり、1920年には、「サンドペーパーの製造に使っている研磨材原料のすべてのサイズのサンプルを、印刷用インク、ブロンズ粉、金インク」をある顧客に依頼されたとき、ただ、それを送るだけでなく、「その顧客ははどうして、このサンプルがほしいのか」って聞いたんだ。
🧒;なるほど。
👨🦳;そして、この質問の結果、3Mは、の歴史のなかでもっとも重要な製品ができることに繋がったんだ。革命的な耐水性のサンドペーパーだ。この製品はやがて、世界中の自動車会社と塗装工場で重宝がられるようになる。実は、その顧客が、耐水性のサンドペーパーを発明し、3Mはすぐにこの発明の権利を買い、「ウェットドライ」というブランドで新しいサンドペーパーを発売したんだ。
🧒;すごいですね。発明させてそのまま権利を買うとは。
👨🦳;すごいのはそこだけじゃない。彼は時計作りを意識していたからその単発では終わらせなかった。そのあと、顧客であった会社で働く発明者まで雇ったんだ。もちろん彼は、それ以来、3Mの中心的な研究者となり、活躍していく。
🧒;それは、すごいです。
◆3Mでの「枝分かれと剪定」
👨🦳;実は、マックナイトは、多角化をしていくんだが、これは、設立当初に倒産寸前まで追い込まれたことが、トラウマになっていたようだ。しかし、彼は、自分自身がカリスマになるのではなくて、常に内部で生み出していく組織を作り、従業員のアイデアと実行で進歩していくという仕組みを創ろうとした。この考え方は、3Mの社員が唱えてきたスローガンによく示されている。
・独創的なアイデアを持っている人の意見に耳を傾けよう。そのアイデアがはじめは、どんなにばかげていると思えたとしても。
・激励しよう、ケチをつけるな。アイデアを出すよう、皆に奨励しよう。
・優秀な人材を雇い、自由に仕事をしてもらおう。
・部下の回りにフェンスをめぐらせば、部下は臆病になる。必要なだけの自由を与えよう。
・思いつきの実験を奨励しよう。
・試してみよう。なるべく早く。
🧒;すごい、各個人の能力さえ発揮できれば、その組み合わせで進化していくということですね。
👨🦳;そう。そこがポイントだ。ただ、注意しなければならない点も分かっていたようだ。それでも、自主性を発揮させるということを実践している。これは深いよ。下記のようにいっている。
個々人に自由を与え、自主的に考え、行動するように促せば誤りも出てくる。しかし……長期的にみれば、経営陣が独裁的な指揮命令体制をつくり、従業員の一挙一動を指示していて犯す誤りに比べれば、個々の従業員の誤りはそれほど深刻にはならない。従業員が誤りを犯したときに、経営陣が雷を落としていると、従業員が自主性を発揮できなくなる。そして、当社が成長を続けていくためには、自主性を発揮する従業員が多数いることが不可欠なのだ。
そして、実際に、3Mはサンドペーパー事業から一歩踏み出したり、多くの失敗を体験している。それでも、その中で大成功も体験している。
🧒;なるほど、これが、進化であり、理念維持と進歩を実現するBHAGとは異なるもう一つのポイントになってくるのですね。
👨🦳;そう。そして、後に社長になった、リチャード・P・カールトンは、研究開発担当取締役出会ったとき次のように語っているんだ。
アイデアを生み出し、そして試験する力強い「体制を〕築かなければならない。 考え出されたアイデアはすべて、その真価を問う機会を与えられなければならない。
その理由はふたつある。第一に、それがいいアイデアであれば、採用したい。第二に、いいアイデアでなかった場合にも、それが実際的ではないと証明できれば、一種の保険になり、安心できる。
🧒;良いアイデアでなくも否定しない。それを使えないものと証明して、ポジティブに考えているのですね。
👨🦳;そして、カールトンはアイデアを評価し、淘汰する際の基準として、あと二点を加えているんだ。3Mの基本理念に基づく基準である。
第一に、採用するアイデアは本質的に新しいものでなければならない。3Mは革新的なアイデアだけを選択したいと望んでいる。
第二に、社会のニーズに合致したものであることを証明しなければならない。
要するにいくらすごいアイデアであったり技術であっても、「製品にならないもの、いつかだれかが用途を探し出すはずというもの」には、投資しないということだ。
🧒;なるほど。利益にならないものには投資しないと。
👨🦳;厳密にいうとちょっと違う。実は、市場規模を基準にしたりしないんだ。「少量生産し、少量売る」、「小さな一歩を大切にしよう」という標語もあるんだ。彼らは、大型商品が小さな一歩から生まれることが少なくない点を3Mはよく理解しっているんだ。
🧒;必要とされているものであれば、小さくても、最初利益にならなくてもいいってことですね。それのうちどれかが花が咲くと。
👨🦳;それなんだ。3Mは小さなことをいくつも試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものを捨てているんだ。従業員がそれぞれ、問題に対応し、アイデアを生かして、ちっぽけな「小枝」を出すよう奨励する方針をとっている。
🧒;ほとんどの小枝は大成しない。だが、将来性があるものが見つかるとそれを育てようとすると。それが、実際に大きな気になることがあるのですね。なるほど。
👨🦳;このような枝分かれの方法を3Mは意識的に採用しており、ここでは説明しないが、自社の製品群を枝分かれの図を使って表現している。
🧒;なるほど。枝分かれ、剪定のイメージですね。
👨🦳;そうだ。おっと、もうこんな時間だ。だいぶ長く3Mについて熱く話してしまったが、今日はここまでにしよう。次回はこれがどんな教訓になるのか、第7章の後半を解説していこう。
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今回は、第7章の前半を解説しました。(長くなってすみません。)理念の維持と進歩をもたらすツールとして、第5章でBHAGを、そしてそのための素地としてのカルトのような文化についてしましたが、本章はもう一つのツールの大量に試して、うまくいったものを残すについて解説しました。次回は第7章後半です。フォロー、スキしてもらえれば励みになります。
また、下記にこれまで作成した別マガジンを記載します。ぜひ覗いてみてください。
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