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【ビジョナリーカンパニー編6:正しい理念って?】

前回までの投稿を上記に入れています。

ある日、入社20年になる健は工場長の哲也に呼ばれ工場長室に行く。健はここ数年、全社が注目する新規事業の計画・プロセス立ち上げをこの工場で行ってきた。立ち上げが終わり、そのまま課長をするよう内示を受ける。それと同時に工場長からビジョナリーカンパニーについての解説・指導を受けます。今回は第3章“利益を超えて”を解釈を入れながら解説していきます。

・・・

◆「ORの抑圧」と「ANDの才能」

🧒‍;おはようございます。

👨‍🦳;おはよう。今日は、第3章に入っていくよ。ただ、その前に重要な概念が2章と3章間の挿話があったから少しだけ解説する。“「ORの抑圧」をはねのけ、「ANDの才能」を活かす”だ。

🧒‍;どういうことでしょうか?

👨‍🦳;行ってみれば、攻めも守りも同時に追求していくってところかな。ちなみにビジョナリー・カンパニーは「ORの抑圧」に屈することはない

🧒‍;「ORの抑圧」?

👨‍🦳;それは、逆説的な考えは簡単に受け入れず、一見矛盾する力や考え方は同時に追求できないとする理性的な見方なんだ。つまり、「ORの抑圧」に屈していると、ものごとはAかBのどちらかでなければならず、AとBの両方というわけにはいかないと考える。たとえば、下記だ。

「変化か、安定かのどちらかだ」
「慎重か、大胆かのどちらかだ」
「低コストか、高品質かのどちらかだ」
「価値観を大切にする理想主義か、利益を追求する現実主義かのどちらかだ」


🧒‍:なるほど、よくあるコメントですね。少しでも業務に直接関わらないことをやっていて、日々の業務がおろそかになると、余計なことしないで足元きちんとやれって言われるやつですね。


👨‍🦳:そうだ。でも、ビジョナリー・カンパニーは、この「ORの抑圧」に屈することなく、「ANDの才能」によって、自由にものごとを考える「ANDの才能」とは、両極にあるものを同時に追求する能力である。AかBのどちらかを選ぶのではなく、AとBの両方を手に入れるということだ。


🧒‍;なるほど、それで、攻めも守りも両立させるということなのですね。

👨‍🦳;8章でこれを詳しく話すんだが、このことは今の段階で頭に入れておいてくれ非常に重要な考え方だ。この後も、すぐに出てくる。

🧒‍:わかりました。攻めと守りの両立と考えておきます。

◆ソニースピリット

👨‍🦳:では、3章に入っていくぞ。三章は、理念の重要性を話していくぞ。ソニーの事例とフォードの事例を見ていく。まずはソニーだ。1945年、井深大は、戦後の荒廃した日本でソニーを設立したのは知っているな。

🧒‍:はい。

👨‍🦳:東京・日本橋の空襲で焼け落ちた古いデパートのビルのなかで、使われ くなった電話交換室を借り、七人の社員と十九万円の貯金で出発したんだ。しかし、何を最優先すべきなのか。現金収入を得ることか。どんな事業を行うかを考えることか。製品の発売か。顧客の開拓か。井深さんはこうした課題にも全力を傾けた。

🧒‍;本当に何でもやっていたんですよね。

👨‍🦳;そう。失敗作の炊飯器、和菓子、粗雑な電気座布団など、なんでもやってみた。しかし、それ以外のこともした。でもここで、驚くべきことをしていた。

🧒‍:驚くべきこと?

👨‍🦳;設立したばかり会社の理念を書き表したのだ。1946年5月7日、上京後十カ月足らずの時に井深はソニーの「設立趣意書」をつくった。

会社創立の目的
・技術者たちが技術することに喜びを感じ、その社会的使命を自覚して思いきり働ける職場をこしらえる。
・日本再建、文化向上に対する技術面生産面よりの活発なる活動。
・非常に進歩したる技術の国民生活内への即時応用。

経営方針
・不当なるもうけ主義を廃しあくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置きいたずらに規模の拡大を追わず。
・技術上の困難はこれをむしろ歓迎し量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。
・一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限度に発揮せしむ。

🧒‍:すごい。まさに最初から時計を作ろうとしていますね・・。

👨‍🦳:ここで、少し考えてみてくれ。こうした理想を設立文書に盛り込んだ企業を何社知っているだろうか。日々の資金繰りに追われながら、こうした崇高な価値観や目的意識を考える創業者を何人思いつくだろうか。井深さんが設立直後に掲げた理念は、ソニーが発展していく過程で指針として重要な役割を果たしていることがわかるよな。

🧒‍:はい。まさに羅針盤です。

👨‍🦳:そして、井深が趣意書を起草してから四十年後、盛田昭夫は、ソニーの理念を凝縮し、洗練させた「ソニー・スピリット」をつくった。それが下記だ。

ソニーは開拓者。その姿は、いつも未知の世界に向かって開かれている。人のやらない仕事、困難であるがために人が避けて通る仕事に、ソニーは勇敢に取り組み、それを企業化していく。ここでは、新しい製品の開発とその生産・販売のすべてにわたって、創造的な活動が要求され、期待され、約束されている……。開拓者ソニーは、限りなく人を生かし、人を信じ、その能力を絶えず開拓して前進してゆくことを、ただひとつの生命としているのである。

🧒‍;最初の井深さんの理念を40年実行し続けて、それを洗練させたのが盛田さんのソニースピリッツなのですね。多分これは、ある意味自然に作られらのだろうな。

👨‍🦳:これと対照的なのが、ソニーの比較対象企業、ケンウッドである。ケンウッドの哲学、価値観、ビジョン、理想を示す資料があれば送ってもらいたいと同社に依頼したところ、そのような資料はないという返事がかえってきたそうだ。

🧒‍:ほーそうなのですか。

👨‍🦳:送られてきたのはごく一般的な最近の年次報告書だったそうだ。ソニーの理念については、社内でも外部でも、多数の本、記事、資料が簡単に手に入ったが、ケンウッドについては、同じような資料はほとんど見つからなかった。

🧒‍:そんなに差があるのですね・・。

👨‍🦳;さらに、重要な点として、ソニーの理念は、日本企業としては徹底した個人主義の文化や、分権的な制度、通常の市場調査を拒否する製品開発戦略など、同社の特徴や行動にはっきりと表れている。

「わが社のポリシーは、消費者がどんな製品を望んでいるかを調査して、それに合わせて製品をつくるのではなく、新しい製品をつくることによって彼らをリードすることにある。……だからわ は、市場調査などにあまり労力を費やさず、新しい製品とその用途についてのあらゆる可能性を検討し、消費者とのコミュニケーションを通してそのことを教え、市場を開拓していくことを考えている」(盛田昭夫他著『MIN JAPAN』)。


🧒‍:なるほど、わかってきました。ソニーは理念に徹するこの姿勢があって、需要があるかどうかわからない製品でも発売し市場を作っていったというわけですね。それで、誕生したのが、日本初の磁気テープレコーダー(1950年)、初のフルトランジスター・ラジオ(1955年)、初のポケッタブル・ラジオ(1957年)、初の家庭用ビデオ(1964年)、そして、ソニー・ウォークマン(1979年)だったと。やっぱり、かっこいーな。

👨‍🦳:当然、ソニーが製品の成功を望んでいたことは間違いないと思うんだ。しかし、「ソニー・スピリット」という理想が誕生したのは、設立直後、利益が出るようになるはるか以前のことであり、この理想が半世紀近くの間、同社の推進力となってきたといっても過言ではない。ソニーは粗雑な電気座布団や和菓子をつくって現金収入を得ていたが、常に社会に貢献する製品の開拓者になることを夢見て、進し続けた。

🧒‍:おお、ORではなくANDの考え方ですね。現実を対応しながら理想も実現していくと。

◆利益を超えて。フォードの場合。

👨‍🦳:次に、フォードを見ていこう。1980年代初め、フォード・モーターは、日本の自動車メーカーからの猛烈な攻勢にさらされ、巨額の赤字を抱えて瀕死の状態にあったんだ。

🧒‍;トヨタがアメリカを席巻していた時ですね。

👨‍🦳:そうだな。リーンが研究される頃だ。この時フォードは、三年間で、33億ドルの損失を出している。当時、フォードの経営陣は、赤字に歯止めをかけ、会社をなんとか存続させるために、ありとあらゆる緊急措置をとった。

🧒‍:そりゃそうですよね。33億ドルって。。桁違いに大きいですね。まあ今のソフトバンクの方がどでかいですが、当時ではすごいですよね。

👨‍🦳:しかし、フォードはそれだけではなかった。そんな、ピンチの時に、異例の動きをとったんだ。時間をとって、指導原理を明確にしたんだ。

🧒‍:指導原理??

👨‍🦳;要するに、根本の行動指針だ。このプロセスから生まれたのが、フォードの「使命・価値観・指導原理(MVG ・P)」である。フォードの元CEO、ドン・ピーターセンはこう語っているんだ。

ピープル(人々)、プロダクツ(製品)、プロフィッツ(利益)の三つのPの優先順位について、徹底的に話し合った。その結果、人々を絶対に第一に考えるべきだとの結論に達した〔二番目が製品、三番目が利益]。フォードの過去にくわしい人なら、この優先順位をいぶかしがるかもしれない。わたしたちも、その点は承知している。誤解を避けるために付け加えるなら、フォードの労使関係や製品の品質が、設立以来、ずっと模範的であったと主張しているわけではない。

フォードの歴史には、いろんな汚点が残っているといわれている。しかし、経営陣は「三つのP」をじっくりと考えたんだ。

🧒‍;ピンチをチャンスに、ORではなくANDにってところなのですね。すばらしい経営陣ですね。

👨‍🦳;でも、これは彼らオリジナルではなく、ヘンリー・フォードが草創期に掲げた理念を再びよみがえらせたと言っているんだ。長い間眠っていた理想を復活させたといっている。実際、ヘンリー・フォードは1916年、同社の草創期における「三つのP」の関係についてこう語っている。

自動車事業で莫大な利益をあげるべきだとは思わない。適度な利益が望ましく、過度の利益は望ましくない。利益は適度に抑えて、販売台数を多くする方がよいと、わたしは考えている。……なぜなら、車を買って、車に乗ることを楽しめる人が増え、そして、十分な賃金で雇用できる人数が増えるからだ。この二つの目標を達成することに、わたしは人生を賭けている。

🧒‍;利益を抑えて、販売台数を多くすることで人々を幸せにするって感じですね。いやー、すばらしいけど、、なんというか理想主義というか・・と感じてしまいますね。

👨‍🦳;そうか?理想主義者のたわごとだろうか。しかし、大衆車の代名詞となった低価格車のT型フォードが、アメリカの千五百万家族の生活様式を変えたってのは事実だ。実際T型フォードの価格は1908年から1916年の間に五八パーセント引き下げられ、これが主因になって、自動車が普及したんだ。当時、ヘンリー・フォードは、値下げをめぐって株主に訴訟を起こされたりもしている。

🧒‍;えー、値下げで株主から訴訟?すごいですね。

👨‍🦳:そして同じ時期、一日当たりの賃金を、大胆にも業界標準の約二倍の五ドルとし、産業界に衝撃を与え、猛烈な怒りをかったんだ。

🧒‍:怒りを買うって、経営者たちからすればそうでしょうが、労働者、そして国や地域全体の活性のために非常に重要なことをやってものけたのですね。今の日本の状況を見たななんというか、、内部留保だけ溜めて、、給料はひたすら上げないという・・・。

👨‍🦳:だな。でも、フォードがこのように決定したのは、労働者の一日当たり賃金が五ドルになり、車の価格を引き下げれば、T型フォードの売り上げが伸びると計算し尽くしたうえでのことだったといわれているよ。

🧒‍;なるほど、計算通り。現実主義であり、理想主義である。いずれにしろ、ここでも「ORの抑圧」に屈することなく、ANDを実現したってことですね。

👨‍🦳:そうだ。ただ、ソニーと同じ理念を持っているグループのなかにフォードを入れることはできない。実は、フォードの歴史には汚点が多すぎるからな。とはいえ、GMと比べると、フォードの方がはるかに理念を大切にしている。GMは、時計をつくる志向だけでは不十分であることを示す格好の例になっている。

🧒‍:GMはどうなのですか?

👨‍🦳:GMを建築したCEOであるアルフレッド・P・スローンは、時計をつくる志向が非常に強かった。しかし、スローンの時計には心がなかったといわれている。スローンの時計は、 非人間的で、ビジネス中心で、あくまでも現実的な時計だったんだ。

ピーター・F・ドラッカーは、GMとアルフレッド・スローンを丹念に調べあげた画期的な著書『会社という概念』(岩根忠訳、東洋経済新報社)で、のように結論づけている。

GMが企業として失敗した(失敗と言えるだろう)のは、「専門家至上主義」とでも言うべき姿勢に大きな原因があり、そうした姿勢がもっとも顕著に表れているのが、アルフレッド スローンの著書『ゼネラル・モーターズとの歳月』である。その内容は方針、 事業の決定、機構だけである。これまでに書かれた回顧録のなかでおそらく、人間という面がもっとも希薄なものである。

🧒‍;時計という仕組みは作ったものの、効率を上げるだけの仕組みになってはだめなのですね。GMも素晴らしい企業なんの一概には言えませんが、ソニーやフォードのようなビジョナリーカンパニーではないということですね。

◆「正しい」理念はあるのか

👨‍🦳:これまで理念について話をしてきたけど、ビジョナリー・カンパニーになるための「正しい」基本理念はあるのか。理念の内容が重要なのか。ビジョナリー・カンパニーの基本理念に共通する要素や一般的なパターンはあるのだろうか。って聞かれたらどう答える?

🧒‍:正しいものなんてないと思いますね。一般的パターンもない。それぞれが別々だと思いますね。

👨‍🦳:その通りだ。ビジョナカンパニーの多くが、社会貢献、誠実さ、従業員の尊重、顧客へのサービス、卓越した創造力、主導的な地位、地域社会への責任などを理念として掲げているが、ビジョナリー・カンパニー全社に共通している項目は一つもない。理念において重要なことは、企業が「正しい」基本理念や「好ましい」基本理念を持っているか同課ではなく、企業が好ましいにせよ、好ましくないにせよ、基本理念を持っており、社員の指針となり、活力を与えているかどうかなんだ。

🧒‍;なるほど。結局、皆が活力を持って働けるために行動指針があるということですよね。それが血が通った時計になっていると。

👨‍🦳:そうだ。今日はここで終わりだ。理念の部分と利益を超えたANDの実例を解説した。次回は、3章の後半をやっていこう。

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今回は、最初にORとANDの考え方について、そして、第三章をソニーの理念とフォードのANDの概念と実行について解説しました。ANDの考え方はすべての仕事において重要と思っています。それのベースとなる行動指針(理念)は羅針盤としてすべての組織に必要だと思っています。次回は3章の後半ですが、その理念が飾り物にならないためにどうしなければならないかを解説していきます。面白いです。ぜひ、フォロー、スキよろしくお願いします。

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